セキュリティ予算を「守りのコスト」から「経営投資」に変える説得ストーリー:“起承転結”で予算確保
「利益を生まない」セキュリティ予算。その説得にROI(投資対効果)を持ち出すのは悪手だ。ITの話をビジネスリスクへ翻訳し、稟議を通すための具体的な戦術を紹介する。
システムを保護するために不可欠なセキュリティだが、経営陣にその必要性を伝えて予算を確保するのは至難の業だ。どうすれば、経営陣を説得できるのか。実は、魔法のような裏技があるわけではない。経営者視点で「セキュリティ予算捻出ストーリー」を作れば、説明に迫力を持たせ、予算確保につなげることができる。どのようなストーリーなのか。
問題提起→発想転換→意思決定→行動で予算を捻出しやすく
出発点は「なぜセキュリティは評価されにくいのか」
大半の企業の経営陣にとって、セキュリティは「何も起きなければ、成果が見えない支出」になる。直接、売り上げを生まない、利益を押し上げるわけでもない――。結果として、セキュリティはIT投資の中でも優先順位が下がりやすい。しかし、ここにこそ認識のズレがある。
セキュリティは“利益を生む装置”ではないが、“利益を失わないための装置”だ。
セキュリティ予算を確保するに当たり、最初に経営陣へ共有すべきなのは、セキュリティ予算を削った場合に何が起きるかという具体的な「被害シナリオ」だ。
「売り上げ創出」ではなく「損失回避額」で考える
経営陣が投資判断をする際に見ているのは、ROI(投資対効果)だ。しかし、セキュリティ投資に、売上増加型のROIを求めると議論は必ず行き詰まる。ここで必要なのが、発想の転換だ。
セキュリティの価値は「いくら儲かるか」ではなく、「どれだけの損失を防ぐか」で測る。
ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃をはじめとしたセキュリティインシデントによって、さまざまな被害が生じ得る。例えば、以下のものが考えられる。
- システム停止による事業中断
- 顧客情報漏えいによる信頼低下
- 取引停止、補償、訴訟対応に伴う長期的コスト
これらは一度起きれば、数年分のセキュリティ予算を一瞬で上回る損失になる場合がある。つまり、セキュリティとは単なる「保険」ではない。事業継続の前提条件だ。
経営の言葉に翻訳する
経営陣が知りたいのは、「EDR」(Endpoint Detection and Response)や「SASE」(Secure Access Service Edge)の機能ではない。「それが自社のビジネスにどう影響するか」ということだ。つまり、経営陣を説得するには、ITの話をビジネスの話に変えなければならない。経営陣に語るべきポイントは、次の3点に絞られる。
- 攻撃によってどの事業がどれくらいの期間止まるのか
- 販売、物流、決済、顧客サポートなどが数時間止まるのか、数日止まるのか。物理的な被害を具体的に示す。
- 止まった場合の損失額とステークホルダーへの影響はどれくらいか
- 売上機会の損失や賠償金はいくらか、顧客や取引先の信頼失墜が将来にどう響くかを説明する。
- 復旧までに誰が責任を負うのか
- IT現場ではなく、最終的に説明責任を負うのは経営陣だと伝える。
この「翻訳」をした瞬間、セキュリティは情シスの課題から、経営リスクに変わって迫力が増す。
予算の出し方を「一括要求」から「段階投資」に変える
もう一つ、セキュリティに関して経営陣の理解を得にくくする要因がある。それは「何にいくら使うのかが見えない」ことだ。セキュリティ予算確保に成功している企業は、以下の3点を実施している。
- 現状把握
- どこが最も危険なのか
- 優先順位付け
- 今、守るべきIT資産は何か
- 段階的対策
- 効果を確認しながら、徐々に投資を広げる
この3つによって、セキュリティの予算は青天井のコストではなく、管理可能で、成果を確認できる投資だという印象を与えられる。特にクラウドサービスの利用が進む現在、セキュリティは「使った分だけ払う」サービス利用型に変わりつつある。これはスモールスタートが可能であり、経営判断と相性が良いだろう。
結論:セキュリティ予算は「未来の選択肢を守る投資」
最後に伝えるべきメッセージはシンプル。セキュリティ予算は未来の選択肢を守る投資――セキュリティに投資しない企業は、成長戦略を選べなくなるということだ。AI(人工知能)といった新しい技術の活用、データ分析に基づいたサービス開発、クラウド移行、システムの外部連携。これらは全て、十分なセキュリティがあって初めて選択肢になる。
セキュリティ予算とは、「事故を防ぐための支出」ではない。事業を止めず、挑戦し続けるための経営投資だ。この視点に立ったとき、セキュリティ予算の議論は「削るかどうか」から「どう使うか」へと変わる可能性がある。
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