9割が「12時間以内に応答」を要求 OSSを“商用製品扱い”する日本企業の幻想:日本企業だけが求める“異常”なサポート品質
調査によると、日本企業の約9割が無償OSSに対して商用製品並みの手厚いサポートを要求している。自らの首を絞める「過剰品質」の要求と、その裏にある「お墨付き信仰」の病理を読み解く。
「費用削減のために無償のオープンソースソフトウェア(OSS)を採用する」。プロジェクトの発足時はその方針で固まっていたはずだった。しかし、いざ具体的な運用設計に入ると、「何かあったときの責任」を恐れるあまり、雲行きが怪しくなっていく。気付けば要件定義書には「プロプライエタリ(商用)製品同等の24時間365日サポート」が必須項目として書き加えられ、サポート契約を結んだ結果、当初の費用削減計画は崩れ去っていた――。こうした話は決して珍しくない。日本のOSS活用現場は今、矛盾した要求に引き裂かれている。
OSSの商業的な普及促進を目指す団体Linux Foundationは2025年12月、調査レポート「日本のオープンソースの現状 2025」を発表した。調査によると、日本企業の約9割が、無償のOSSに対してトラブル発生時の「12時間以内の応答」を期待している。これは世界的に見ても異常なほどの「高品質志向」だ。
リスクは取りたくない、でも恩恵は欲しい。そのような“虫のいい要求”が、情報システム部門の予算とガバナンスを圧迫している実態が明らかになった。
日本企業の「過剰な要求」と「ザルな足元」
このレポートは2025年5月に実施された調査に基づくもので、日本に本社を置く企業の担当者141人から得られた回答を分析している。調査では、日本企業の69%が「過去1年間でOSSによってビジネス価値が向上した」と回答した。これは世界平均(54%)を大きく上回る数値であり、企業がOSSを将来の競争力の源泉として認識し始めていることが分かる。
一方で導入領域や運用体制には課題も見られる。調査で明らかになったのは、日本企業のOSSに対する「サポートの過剰な期待」と「ガバナンスの欠如」という構造的なゆがみだ。
日本企業の特徴として、OSSに対する商用レベルのサポート要求が極めて高い点が挙げられる。前述の通り、89%の日本企業が重大な問題に対して「12時間以内の応答」をサポート提供者に期待している。これは世界平均(69%)を大きく上回る水準だ。特に規制の厳しい業界や機密データを扱うシステムにおいて、有償サポートが不可欠だと考える傾向が強い。障害時の責任回避や安心感を求める姿勢が、OSS本来の自律的な活用や費用を抑えられるメリットを阻害している可能性がある。
一方で、組織的なガバナンスは発展途上にある。OSSの利用や貢献を統括する専門組織「オープンソースプログラムオフィス」(OSPO)を設置している企業は41%、明確な戦略を策定している企業は39%にとどまる。阻害要因の内訳を見ると、OSSの利用においては「明確なポリシーの欠如」(51%)が、貢献においては「知的財産(IP)権侵害への懸念」(52%)が、それぞれ最大の障壁となっている。ルールがないため現場は動けず、法的リスクを恐れてコミュニティーにも参加できないという悪循環が見て取れる。
セキュリティ評価においても日本独自の傾向が見られる。日本企業は、IT製品のセキュリティ機能の適切性を評価する国際標準「ISO/IEC 15408」(CC:Common Criteria for Information Technology Security Evaluation、「コモンクライテリア」とも)への依存度が52%と高い(世界平均13%)。その一方で、OSSの健全性を測る上で重要な「コミュニティーの活動状況」を確認する割合は26%(世界平均47%)と低くなっている。
「政府認定のお墨付き」(認証)があれば安心し、実際にそのソフトウェアをメンテナンスしているコミュニティーが活発に動いているかどうか(将来性があるかどうか)は確認しない。この“形式主義的なガバナンス”は、サポート切れや脆弱(ぜいじゃく)性放置のリスクの増大につながる恐れがある。
積極的な関与が競争力を生む
レポートは、OSSへの関与度と競争力の相関関係も示している。OSSコミュニティーに「非常に積極的」な日本企業の73%が競争優位性を獲得したと回答しているのに対し、消極的な企業では56%にとどまった。
Linux Foundation日本代表の福安徳晃氏は、日本企業のOSSに関する今後の課題として「ガバナンスの強化」と「関与の転換」を挙げる。具体的には、社内での利用ポリシー策定や専門組織の整備といった管理体制を固めると同時に、単なる「利用者」から脱却し、ソースコードの提供や開発コミュニティーへの参加といった「貢献者」に変わる必要があるという。こうした戦略的な転換が、セキュリティの向上や優秀な人材の確保といった実利をもたらし、企業の競争力を左右する鍵になりそうだ。
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