VMwareサーバのAWS移行準備を10倍高速化 AIエージェントで何をした?:移行前の“地獄”をAIで短縮
5000台超のVMwareサーバを抱える企業が、システムのAWS移行に向けAIを活用して準備工程を10倍高速化した。AIを使って具体的に何をしたのか。
人工知能(AI)でAWS移行を10倍速く“始められる状態”にした――。グローバルバイオテクノロジー企業CSLは、VMware基盤の移行計画やアプリケーションのモダナイゼーションの準備工程をAIで10倍高速化した取り組みを紹介した。
CSLによると、同社は複数回の企業買収を経て、29カ所のデータセンターにまたがる5000台超のVMwareを中心としたオンプレミス基盤上で、SAPを含む基幹システムを運用してきた。レガシーインフラの運用、データセンターのロケーションの多様化、データのサイロ化という問題を抱えてきた同社。システムのAmazon Web Services(AWS)への移行と、基幹システムの刷新を並行して進めるという難易度の高い案件を進める上で、AIをどのように活用したのか。
この内容は、米ラスベガスで開催されたAWSの年次イベント「AWS re:Invent 2025」のセッション「Pioneering Agentic AI Transformation: CSL VMware & SAP modernization」で共有されたものだ。
AWS移行でAIをどう活用した?
AWSのシニアソリューションアーキテクト、ビクター・フェインマン氏によると、CSLは以下の課題を抱えていた。
- 長年使い続けたVMwareやSAPの契約、保守費用が年々高額になりつつあった。
- SaaSの導入は進む。一方、データと責任の所在が曖昧になり、データを見つけるのに時間が掛かる。
- 構成管理データベース(CMDB)はあるが、「何がどこで動いているか」正確には分からない。
- 移行計画は立てられるが、調査と整理に時間が掛かり過ぎる。
“いきなり移行”ではなく土台作りから
フェインマン氏によると、ユーザーから圧倒的に多く寄せられる質問に「どこから始めればいいのか?」がある。CSLは、移行とモダナイゼーションに先立って、AWSの「Accelerate to Cloud from Data Center」プログラムを利用することにした。同プログラムは、データセンターのAWS移行を支援する取り組みで、主に大規模データ転送と自動化ツールを組み合わせる。同プログラムを通じて、CSLはワークロードの移行と運用を進めるための基盤を構築することができた。
CSLのエリック・ホン氏(グローバルヘッドオブエンタープライズシステムズアンドプロセスイズ)によると、同社はAWS移行に際して、2つの施策に取り組んだという。
1.企業全体のモダナイゼーション
「中核であり最も重要なのは“人”です。リソースや人材のスキルをどう変え、根本的に変革し、より高いレベルのイノベーションと成果を生み出していくのか。この原則を基盤に据えました」。こう述べたホン氏は、以下の取り組みを実施した。
- データセンターからクラウドへの基幹システムの段階的クラウド化
- インフラやプロセス全体の変革
- CSLは事業ごとに独立したITシステム、業務プロセス、異なるデータモデルを運用していたが、それらを統一することにした。監視、ガバナンス、セキュリティについてもグローバルで運用を標準化することにした。
- 「デジタルコア」(共通基盤)の構築
- ランディングゾーン(主要な設計原則に準拠したインフラ)、データ基盤を統一。クラウド全体を統制するための基盤構築。
- 従業員のスキル変革
- 働き方改革に向けた「チェンジマネジメント」
2.SAPを中心としたERPの統合とRise with SAPの利用
ホン氏によると、CSLは3つのSAPグローバルインスタンスを保有している。事業部ごとにプロセス、データ、システムが異なる状況だ。そこで以下に取り組んでいるという。
- グローバルインスタンスの統合
- SAP ERPのクラウドサービス移行に向けた「Rise with SAP」の利用
- ERPをデジタルコアの一部に統合
ホン氏はVMware環境の移行に当たってAIエージェントを利用した。同氏によると、VMware環境の移行では、通常次の工程が発生する。
- サーバやアプリケーションの棚卸し
- それぞれの依存関係の把握
- ウェーブプランニング
- 大量のサーバやアプリケーションを一気に移行するのではなく、それぞれの依存関係を踏まえて“移行のまとまり”に分け、移行の順番と手順を決める作業
- 移行可否の評価
- 実行計画の作成
しかしAWSのハリハラン・ゴビンダラジャン氏(シニアAI/MLアーキテクト)によると、CSLは以下の問題を抱えていた。
- CMDBが不正確だった
- どのシステムがどこで稼働しているかが不明瞭だった
- 依存関係がブラックボックス化していた
そこで、安全にクラウドへ移行する前に自社の環境を正しく理解する必要があったという。さらに、CSLのシステム規模を踏まえると、移行で必要な工程を人手で回すこと自体が困難であるとの判断が下された。
- 数百台〜数千台の仮想マシン(VM)
- 数百万件の通信、構成データ
- 担当者ごとに認識が異なる実態
CSLは検討の結果、AWSの「AWS Transform」(VMware移行を中心に、SAPを含む基幹環境の移行準備を支援するサービス)と「Amazon Q Business」(企業内に蓄積されたドキュメントやSAPのデータなどに基づいて従業員の質問に答えたり、コンテンツを作成したりする生成AIアシスタント)を組み合わせた「エージェント型移行フレームワーク」を利用することにした。
ゴビンダラジャン氏は、エージェント型移行フレームワークの設計を主導し、CSLの移行を10倍高速化することができた。
AIエージェントを使った結果は
エージェント型移行フレームワークを使った結果、以下の実績を挙げることができた。重要なのは、「移行そのもの」ではなく「準備工程」を短縮できたことにある。
| 作業 | 従来 | エージェント型移行フレームワーク利用 |
|---|---|---|
| ウェーブプランニング | 約610時間 | 約60時間 |
| 計画のスピード | 週2Wave | 週10Wave |
| アプリケーションの棚卸し | 60分/1アプリケーション | 5分/1アプリケーション |
| 移行可否評価 | 20分 | 2分 |
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