“OSSの商用ライセンス化”は失敗する? データが示す末路と「派生版」の躍進:「本家超え」の性能とコスト効率
OSSの商用ライセンス変更が相次ぐ中、対抗策としての「フォーク」は単なる代替品以上の進化を遂げている。後発のプロジェクトが“本家”を上回る理由と、企業が取るべきOSSの採用戦略を調査報告から読み解く。
ITインフラの根幹を支えるオープンソースソフトウェア(OSS)において、開発元ベンダーが商用利用を制限するライセンスに変更する事例が相次いでいる。インメモリデータストア「Redis」や、ソースコードでインフラの構成を管理するIaC(Infrastructure as Code)ツール「Terraform」などがその例だ。この動きは、これらの技術を利用してきたユーザー企業にとって、ライセンス料金の増加や代替ツールへの移行に伴う作業、ベンダーロックインといったサプライチェーンリスクになっている。
OSSを支援する非営利団体Linux Foundationが2026年1月に公開した2025年度年次報告書「オープンにおけるイノベーション」は、この問題に対する強力な対抗策として、コミュニティー主導による「オープンフォーク」(オープンな派生版)の成功を強調している。かつて、元のソースコードから分岐して別のソフトウェアを作る「フォーク」は、コミュニティーの分断を招くという理由から忌避される傾向にあった。しかし主要OSSの商用ライセンス化が相次いだ2023年以降、企業の自律性を守るためのオープンフォークは、エンタープライズソフトウェアの経済構造を変革する力として再評価されている。
ライセンス変更への対抗措置として生まれた、Redisと互換性がある「Valkey」やTerraformとの互換性がある「OpenTofu」は、単なる代替品にとどまらず、機能と性能で「本家」を上回る進化を遂げている。特定の1社が支配するソフトウェアに依存することは、将来的な開発ロードマップや料金体系に関する決定権を他社に委ねることを意味する。本稿は、報告書が示すデータに基づき、中立的なガバナンスがいかにして企業のイノベーションと投資を守るかを解説する。
商用ライセンス化はベンダーを救わない
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OSSとの付き合い方
市場で支配的な地位にあった一部のベンダーは、「コミュニティーへの貢献を守る」という名目で、競合他社による商用利用を制限する「BSL」(Business Source License)などのライセンスに移行する傾向がある。この動きについてLinux Foundationは、「特定の企業が単独で管理権限を持つプロジェクトでは、いつでもライセンスや機能が制限されるリスクが残る」と指摘する。
市場の反応は冷徹だ。開発者コミュニティーの動向に詳しい調査会社RedMonkは、オープンソースから商用にライセンスを変更した4つのベンダー(MongoDB、Elastic、HashiCorp、Confluent)が、ライセンスの変更前後におけるそれぞれの収益の変化を分析した。その結果、これらのベンダーの収益が明確に向上したという証拠は示されなかった。「むしろ収益が減少する可能性さえ示唆されている」との見解をLinux Foundationは示している。コミュニティーとの協議なしに適用される一方的なライセンス変更は、持続可能なビジネスモデルにとって不可欠な「信頼」を損なうからだ。
Linux Foundationの調査機関Linux Foundation Researchは、2024年4〜9月にIT専門家235人を対象とした調査「The State of Open Standards」を実施した。これによると、「特許出願数」をイノベーションの重要指標と見なす回答者数と比較して、1.6倍の回答者が特許出願数よりも「オープンソース版の採用」をイノベーションの重要指標と見なしていた。市場はすでに、独占的な知財管理よりも、オープンなエコシステムこそが成長の源泉であると判断している。
実証された「中立的ガバナンス」の優位性
Linux Foundationの報告書は、中立的な団体の管理下にあるフォークは、技術的にも投資対効果の面でも優れた選択肢になり得ることをデータで実証した。
Redisから生まれたValkeyの躍進
2024年3月にRedisのライセンス変更が発表されたことを受け、コミュニティー主導で立ち上がったValkeyは、発足から約1年半後の2025年10月にはバージョン9.0に到達した。
50社以上の企業が貢献し、1300件以上のコミット(修正・追加)が適用されたValkeyの開発スピードは、本家であるRedisを上回る勢いだ。特筆すべき事項は、複数のサーバを連携させたクラスタ構成において、クラスタ全体で1秒当たり10億件のリクエストを処理できる点だ。この性能は、巨大サービスを運用する企業の要求水準を満たすものであり、単一企業による管理では実現できなかった新機能の開発が、協調的な開発体制によって進展した結果だと言える。
Terraformに対抗するOpenTofu
Terraformの開発元であるHashiCorpのライセンス変更を受けて誕生したOpenTofuも、一般提供開始から約1年半となる2025年6月には、ダウンロード数が約1000万回に到達した。
OpenTofuバージョン1.7では、パスワードなどの機密情報を含む管理ファイル(ステートファイル)を暗号化して保護する状態暗号化機能が導入された。この機能はTerraformでは企業向けの有償プランでのみ利用できる機能だったが、OpenTofuでは標準機能として実装されている。特定のベンダー主導であることを理由に開発プロジェクトへの参加を控えていた企業が、中立的なガバナンスの下で開発に加われるようになった意義は大きい。
ElasticsearchとOpenSearch
ログ分析や検索機能を提供する全文検索エンジン「Elasticsearch」からのフォークである「OpenSearch」は、累計9億ダウンロードを超えた。
OpenSearchバージョン3.0では、AI(人工知能)技術を活用した意味解析による強調表示(セマンティックハイライト)や、データをストレージから直接読み込むディスクベースベクトル検索など、商業的な優先順位ではなくコミュニティーのニーズに基づいて機能が強化された。GPU(グラフィックス処理装置)を活用した高速化機能は、インデックス作成速度を9.3倍向上させ、サーバ稼働などによるインフラ費用を3.75倍削減したと開発コミュニティーは説明する。
これらの進歩は感覚的な話ではない。データ科学を用いてOSSコミュニティーの健全性を定量化するプロジェクト「CHAOSS」の分析によれば、中立的な財団の下でフォークされたプロジェクトは、特定の企業が管理するプロジェクトと比較して、一貫して「貢献者の多様性」が高いことが実証されている。1社支配では排除されていた多様な企業からの知見が、イノベーションを加速させている。
「作る」「買う」に次ぐ第3の選択肢「共同構築」
IT部門長やCIO(最高情報責任者)は、今後の製品/サービスの調達、開発戦略として「共同構築」という新しい視点を持つ必要がある。
金融業界ではこの動きが顕著だ。業務フローを自動化するワークフローエンジン「Camunda」のライセンス変更を受け、Fidelity Investments、Deutsche Bankなどの大手金融機関が結集し、フォークとなる「Fluxnova」を立ち上げた。競合他社同士であっても、共通のインフラにおいては「共同で構築・維持(Co-Build)」する方が、ベンダーロックインを回避し、TCO(総所有コスト)を抑制できるという経営判断だ。
金融サービス向けOSS財団であるFINOS(Fintech Open Source Foundation)の支援を受けたFluxnovaプロジェクトは、オープンソースの共同構築を、従来の「自社開発」か「購入」の2択に次ぐ、第3の戦略的選択肢として確立した。
実際にフォークをしなくても、「いざとなればフォークして事業を継続できる」という権利(Right to Fork)を確保しておくことが、ベンダーに対する強力な抑止力になり、価格交渉を有利にするとLinux Foundationは見解を示す。
これからの選定基準
新規にソフトウェアを採用する際は、機能だけではなく「ガバナンス」(誰が管理しているか)を確認することが重要だ。特定の1社ではなく、Linux FoundationやCNCF(Cloud Native Computing Foundation)といった中立的な団体が管理しているプロジェクトは、商用製品よりも将来的なライセンスリスクが低い。
人材獲得の観点も見逃せない。特定ベンダーの独自ツールに精通した人材を探すのは困難だが、標準化されたOSSであれば人材プールは広がる。特定のベンダーに依存しない、中立的なオープンソースへの投資は、ライセンス料金の節約や自律性の確保だけでなく、深刻な人材不足を解消するための採用戦略としても機能する。
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