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56%のCEOが「AIの投資効果なし」と回答 コストの暴走を防ぐには?

AI導入が加速する一方で、CEOの56%が「投資効果を実感できていない」という厳しい現実がある。予測困難なトークン課金やGPU利用料による「コストの暴走」を防ぐには、クラウド管理の知見を応用した「FinOps for AI」の確立が急務だ。

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 AIの利用拡大によって企業全体のコストが押し上げられている一方で、多くのビジネス現場では投資に対する利益(ROI)が向上していない。PwCが2026年1月に発表した「第29回世界CEO意識調査」では、4000人以上のCEOのうち56%が、AIによる収益増やコスト削減を実現できていないと回答した。

 こうした財務状況を受け、組織のリーダーたちは、AI支出のより詳細な会計報告と説明責任を求め始めている。この動きが「FinOps for AI」の創設と普及を後押しした。FinOps Foundationのフェローであるロブ・マーチン氏は次のように述べる。

 「AIのコストはあらゆる場所に現れている。クラウドの請求書、利用中のSaaS製品、ライセンス契約、さらには従業員が提出するクレジットカードの精算書にまで及ぶ。現在、FinOpsチームにはAIへの総支出を把握し、それがどのような価値を生んでいるのかを解明する任務が課されている」(マーチン氏)

 本稿では、エンジニアリングと財務を融合させ、AI支出を確実なビジネス価値へとつなげるための実践的な処方せんを提示する。

AIに拡大するFinOpsの領域

 現在のAIコストに対する懸念に既視感を覚える方もいるかもしれない。約15年前にビジネスリーダーたちがクラウドコンピューティングに抱いた不安と重なるからだ。当時、組織はオンプレミスの計算・ストレージ環境からクラウドへと一斉に移行した。

 それまでの技術投資とは異なり、クラウド導入による請求額は予測が困難だった。コストが継続的かつ変動的だったからだ。予測不能なクラウドコストを適切に管理する必要性が、クラウド支出に財務的説明責任を持たせる規律「FinOps」を生んだ。

 FinOpsは、エンジニアリング、財務、ビジネスの各チームが協力しながらコストを共同で管理し、クラウド支出によるビジネス価値を最大化する仕組みだ。2019年に設立されたFinOps Foundationは、この規律を支えるフレームワークやベストプラクティス、トレーニングプログラムを策定してきた。

 その後、FinOpsの対象範囲はパブリッククラウドからSaaS、データプラットフォーム、さらにはオンプレミスのコンピューティングへと拡大した。そして現在、AIの請求管理へと進展し、「FinOps for AI」という新たな規律が誕生している。

 デロイトのマネージングディレクター、ショーン・ルンド氏は次のように語る。「可観測性(オブザーバビリティ)、レポーティング、説明責任というクラウドFinOpsの原則は依然として有効だ。ただし、これからはトークンの課金体系(トークノミクス)や、学習・推論のための半導体リソースの利用状況、さらには一貫性とコンプライアンスを担保する新たなガバナンスモデルへと理解を広げる必要がある」。

AI特有のコスト特性に対応する進化

 クラウドの請求を変動させていた要因は、生成AIやエージェント型AIにも共通している。多くの組織は過去10年以上にわたり分析や機械学習を利用してきたが、それらのワークロードは予測可能だった。対照的に、生成AIやエージェントAIは異なる。処理されたトークン数、APIコール数、計算時間、学習の必要性など、用途ごとに変化する無数の要因に基づいて課金されるからだ。

 グローバル戦略コンサルティング企業Kearneyのパートナー、ヒマンシュ・ジェイン氏は、AIの需要予測がいかに困難であるかを次のように説明している。「生成AIやエージェントAIでは、いくらでもクエリを投げ続けられるため、需要予測が非常に難しい。価格モデルも進化の途上にある。需要も価格も不透明な中で、CIOは今、手に負えないほどの請求額に直面している」。

 こうした背景から、FinOpsは単に対象を広げただけでなく、AI特有の複雑なコスト計算に対応するよう進化した。Constellation Researchの副社長兼プリンシパルアナリスト、チラグ・メータ氏は、従来のクラウドとAIの違いをこう分析する。

「従来のクラウドでは、事後に無駄を特定して整理できる。だがAIの場合、支出はモデルの選択、プロンプトの設計、GPUの割り当て、ガバナンス要件などの要素によって、より早い段階で、かつ動的に決定される」

 メータ氏によれば、支出が固定化される前に、技術的・製品的な決定で財務的な説明責任を持たせる手法が求められているという。

管理を高度化する新たな手法

 こうした背景から、FinOps for AIへの関心が高まっている。従来のFinOpsがソフトウェアライセンスや単純なクラウド利用料に焦点を当てていたのに対し、AIのコスト管理にはトークン化やプロンプトエンジニアリングといった新たな要素が加わる。

 ルンド氏によれば、FinOps for AIの初期の取り組みはトークン利用量を可視化することに重点を置いていたが、現在は、多様な大規模言語モデル(LLM)のエコシステム全体を、よりきめ細かくリアルタイムに近い形で可視化する方向へとシフトしているという。

 「成熟度が高まれば、ガバナンス層を導入できる。LLMへのアクセスを意図的なエントリーポイントに集約し、使用量や支出を測定可能なビジネス価値に結び付ける指標を運用できるようになる」(ルンド氏)

 CIOやCFOはコスト管理のためにFinOps for AIの導入を推進している。ルンド氏は、可観測性を確保した後にトークン使用量とコストを削減する手法として、以下を挙げる。

  1. ガバナンスフレームワークを用いてトークン利用を監視するAIゲートウェイ
  2. 簡潔なプロンプトを優先、あるいはプロンプトを圧縮する効率化手法

 さらに将来的には、プロンプトを処理できる最も低コストなモデルへ自動的にルーティングする層や、一般的なリクエストへの回答を保存するキャッシングの活用も期待されている。

FinOps for AIがもたらす価値

 FinOps Foundationの「State of FinOps 2026」レポートによると、回答者の98%がAI支出の管理にFinOpsを活用している。これは2024年の31%から急増した数字だ。また、58%が今後12カ月間に習得したいスキルとしてAIコスト管理を挙げており、最も需要の高いスキルとなっている。

 専門家らは、FinOps for AIの目的は単なるコスト削減ではないと強調する。重要なのは、AIへの支出が確実にビジネス価値を生んでいるかを確認することだ。

 ジェイン氏は、FinOpsチームにはデータの収集以上の役割が求められると指摘する。

 「ダッシュボードを作るだけでは最適化は実現しない。最適化を完遂するのはエンジニアリングだ。支出の発生場所を把握することは重要だが、それを実際の成果に結び付けるのはエンジニアリングの領域だ」(ジェイン氏)

 これが実現したとき、FinOps for AIは組織にとって強力な価値提案となる。メータ氏は、コスト予測をはるかに超えるメリットがあると考えている。モデルの選定、実験の実施、アーキテクチャの変更、ユースケースの評価といったチームの意思決定を支援できるからだ。

 「FinOps for AIの本質は運用の規律だ。これにより組織は、漠然としたAIへの野心を、どのワークロードを拡張すべきか、誰が支出に責任を持つのか、そしてビジネスが対価として何を得ているのかという地に足のついた理解へと転換できる」(メータ氏)

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