2035年までに1億4500万台、急拡大する「フィジカルAI」市場の勝者は誰か:フィジカルAIが創出する収益モデルとエコシステム
現実世界を認識・理解し、自律的に行動する「フィジカルAI」が、2035年までに1億4500万台という驚異的な規模で普及するとの予測が発表された。ITリーダーが組織の自動化戦略を策定する上で避けて通れない「物理世界への知能実装」の核心に迫る。
物理的な実体を持つAI「フィジカルAI」は、機械が現実世界を認識・理解し、自律的に相互作用することを可能にする技術だ。Counterpoint Researchの調査によると、ロボティクス、エッジコンピューティング、生成AI、ビジョン技術、センサー技術の進歩により、世界のフィジカルAI市場は急速な成長期に入りつつある。
同社のレポートは、進化を続けるフィジカルAIの全体像を提示している。具体的には「車両」「ロボット」「ドローン」「AIカメラ」の主要4セグメントのデバイス出荷数を追跡し、AIがいかにして物理世界へと浸透しているかを構造的に示している。
同レポートが対象としている自律型システムは、空間センサーを基盤としたAIとデジタル世界を融合させたものと言える。ロボティクスの分野では、サービス用、産業用、そしてヒューマノイド(人型ロボット)の各セグメントが、フィジカルAIを搭載した自律型システムの大部分を占めると予測されている。
本記事では、急速に進化するヒューマノイドや自律走行車の市場動向を解説し、ITリーダーが組織の自動化戦略を策定する上で避けて通れない「物理世界への知能実装」の核心に迫る。
デジタルから物理世界への進化
Counterpointのプリンシパルアナリストであるスーメン・マンダル氏は、市場の現状と可能性について次のように述べる。「フィジカルAIは、AIの次なる大きな進化を象徴している。AIの第1波は、テキスト、画像、データを理解するソフトウェアという『デジタルインテリジェンス』に焦点を当てていた。対して第2波は、AIを物理世界に持ち込み、機械が周囲を認識して自律的に行動できるようにするものだ」
同調査では、車両、ロボット、ドローンを含むフィジカルAIデバイスの累計出荷数が、2025年から2035年の間に1億4500万台に達すると予測している。ロボティクス分野では、物流、倉庫、ホスピタリティ、ヘルスケア、清掃、セキュリティ、農業など幅広い用途での活用が進み、サービスロボットが出荷台数の最大シェアを占める見通しだ。
一方、現在は導入が限定的な産業用ロボットについても、用途の拡大、スケールメリットの向上、コスト低下、そして導入モデルの簡素化によって、より広範な普及が見込まれている。現時点では自動車、電子機器、重機業界への集中が目立つが、高額なシステムコストと複雑さが普及の障壁となっている。
ヒューマノイドが示す驚異的な成長性
ヒューマノイドについては、まだ開発の初期段階にあるものの、工場や倉庫、サービス現場で人間のような複雑なタスクをこなせる機械の開発を進める企業が増え、勢いを増している。
ベンダー別の年間導入数では、Agibot(智元機器人)が首位に立ち、Unitree(宇樹科技)、UBTECH(優必選科技)、Leju(楽聚機器人)、Teslaがこれに続く。ヒューマノイドは出荷台数ベースで最も成長率の高いカテゴリーになると予測されており、2028年までの累計導入数は10万台超、2025年比で7倍に成長する見込みだ。
Counterpointのリサーチバイスプレジデント、ニール・シャー氏は、ヒューマノイドがフィジカルAIで最もエキサイティングな長期的機会の1つだと指摘する。ただし、業界は「自律型マシンインテリジェンス(AMI)」から「身体を備えた汎用人工知能(AGI)」へと至る大きな溝を乗り越えなければならないとも警告している。
「生成AI、コンピュータビジョン、モーションコントロールの進歩により、人間の生活環境で稼働できる汎用ロボットの実現が近づいている。物理的な『形態』は進化しているが、『知能』の部分はイノベーションが起きる余地がまだ十分にある」とシャー氏は付け加えた。
自律走行車とドローンが開く商用利用
レベル4以上の自律走行車については、当初の普及ペースは緩やかになると予測されている。しかし、ロボタクシーや自律型個人車両の拡大により、長期的には導入規模が大幅に拡大する見通しだ。OEM(自動車メーカー)の視点で見ると、高度な自律性、コンピューティング能力、AI機能、リアルタイム接続に支えられ、このセグメントが最大の収益貢献を果たすと期待されている。
自律走行車について、リサーチバイスプレジデントのピーター・リチャードソン氏はこう分析している。「自律走行車は、現在のフィジカルAIへの移行における基盤となる技術だ。今日のヒューマノイド開発と自律走行車には多くの共通点がある。それでも、自律走行車は高度な技術の集積により、最も高付加価値なセグメントであり続けるだろう」
また、消費者向けや防衛用を除いた商用ドローンについても、平均販売価格の低下と主要市場での規制枠組みの明確化を背景に、累計出荷台数の力強い伸びが期待されている。ドローンはフィジカルAIの最初の大規模な展開事例となりつつあり、物流、監視、企業向け用途での急速な採用が高成長をけん引している。
エコシステム全体の連携が求められる
フィジカルAIシステムが各産業に浸透するにつれ、その可能性を最大限に引き出すためには、OEM、半導体、通信、ソフトウェアのエコシステムを越えた協力がとなる。バリューチェーン全体で強力なプラットフォームとパートナーシップを構築できた企業が、この新興のチャンスをつかむ上で最も有利な立場に立つだろう。
さらにレポートは、「ビジョン・ランゲージ・モデル(VLM)」や「ビジョン・アクション・モデル(VAM)」の台頭が、マルチモーダルな知覚、言語理解、推論、そして実行可能な制御を単一のフレームワークに統合する「重要な転換点」になると指摘している。
リサーチディレクターのマーク・アインシュタイン氏は、関連企業にとっての商機をこう総括する。「フィジカルAIはエコシステム全体に機会を創出する。デバイスメーカーだけでなく、システムの『脳』を支えるコンピューティング企業も利益を得るだろう。通信事業者はデータトラフィックや接続、エッジサービスの増加から恩恵を受け、ソフトウェアおよびサービスプロバイダーはデータ分析、ライフサイクル管理、フリート管理、クラウドインフラを通じて継続的な収益機会を得ることになる」
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