190万行、丸2日の表計算 カインズはどう「限界突破」したのか:自然言語でBigQueryを操作
発注や在庫管理における表計算ソフトウェアの多用は、業務の属人化や深刻なデータ分断を引き起こす。ホームセンター大手のカインズも丸2日を要する手作業に苦しんでいた。いかにしてこの限界を抜け出したのか。
小売業界において、商品、サービス、店舗を通じたサプライチェーンの最適化と需要予測の精度向上は喫緊の課題だ。しかし、精度の高い需要予測モデルを構築し、予測結果を出力できたとしても、それはサプライチェーン全体における入り口に過ぎない。ホームセンターチェーンとして全国に264店舗を展開するカインズも、予測結果出力後の実務プロセスに極めて大きな課題を抱えていた。
同社には、システムから予測値が出た後、商品の特性や季節性に応じた「予測結果の精査」や「発注・在庫管理のためのメンテナンス」という不可欠な工程が存在し、それを表計算ソフトウェアによる膨大な手作業で処理していた。具体的には、190万行に及ぶデータベースのクエリ結果を作業用シートに書き出すだけで、丸2日を要する状況だったという。出力データは1ファイルに収まらず、20万行ごとに分割して管理していた。
この状況を打破するため、カインズはGoogleのAI(人工知能)エージェント構築ツール「Vertex AI Agent Builder」などのクラウドサービスを活用した新たなデータ処理システムを構築した。膨大な表計算作業からどのように脱却し、発注・在庫管理の自動化を成し遂げたのか。
自然言語で一元化したデータベースを直接操作
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手作業の表計算からの脱却
従来の運用では、現場の担当者が分割されたファイルに対して、棚割りデータや在庫データ、直近の売り上げ実績などからフラグを作成したり、他システムのマスターデータを関数を用いてひも付けたりと、複雑な作業を強いられていた。「この在庫は動かさない」といった個別のフラグ立ても手作業で実施しており、メンテナンス要件が変わるたびにシステム担当者が付きっきりで数式変更や列の追加を処理していた。しかし、列ずれの確認やテストに多大な工数がかかり、現場のニーズに即応することは困難だった。
「こうした表計算ソフトウェア作業でメンテナンスをすること自体が、もはや正解ではないと感じていた」と、カインズの矢口 未知彦氏(ビジネスソリューション部需要予測グループ グループマネジャー)は当時を振り返る。
新たに導入したシステムでは、AIエージェントを介することで、エンドユーザーが「この条件でデータを抽出してほしい」と自然な言葉で指示を出す仕組みを実現した。エンドユーザー自身が必要な条件で、データベースである「BigQuery」内のデータを直接操作し、抽出できるようになり、発注点メンテナンスのプロセスが民主化されたのだ。
結果として、複数のファイルに分散して担当者の個別のPCに保存されていたデータが、単一のデータソースに集約された。属人的な数式ミスや列ずれといった不安が解消された上、抽出と表計算に丸2、3日かかっていた工数が劇的に削減された。現場がやりたいことを、AIエージェントを通じて即座に実行できるスピード感のある内製化の体制を手に入れた形だ。
数理最適化を用いた「車建発注」の内製化と自動化
カインズの取り組みは、AIエージェントによるデータ抽出と業務効率化にとどまらない。需要予測の後工程として特に負荷が高かったのが、酒類などの品目の発注における「車建(くるまだて)発注」の最適化処理だ。
車建発注とは、店舗や倉庫の在庫回転日数を適切にコントロールしながら、トラックの積載量が最大になるように発注量を調整する複雑な計算プロセスを指す。従来、このプロセスはカインズが丸1日かけてベースとなる発注量を表計算ソフトウェアで算出し、翌日に取引先に送付して、取引先で最終的な車建計算をするという、双方にとって負荷がかかる連携作業となっていた。
カインズはこの課題に対し、数理最適化を用いたアルゴリズムを独自に開発し、計算ロジックをシステムに組み込むことでプロセス全体を自動化した。実装後は、取引先に依存することなく、自社内で完結して車建発注量の最適化計算を実行できるようになった。
需要予測の「その先」を見据えたシステム一元化
「需要予測を起点に発注管理から在庫管理まで、全て一元化されたシステムで実行することが可能になった」と矢口氏が語る通り、分断されていた業務プロセスがクラウドサービスで一気通貫に連携されたことが、今回の取り組みにおける最大の価値だ。
単にAIモデルに予測値を計算させるだけではなく、予測後の実務担当者の判断をAIエージェントが円滑化し、複雑な最適化計算をシステムが肩代わりする。これこそが、深刻な人手不足や業務の複雑化に直面する小売・流通業界において、真のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための鍵になる。
今後の展望としてカインズは、担当者の手元のPCで実行している数理最適化計算のリクエスト処理なども、順次AIエージェントに移行する計画だという。シーズン商品の最適化や店舗の棚割りの最適化など、より多くの変数が複雑に絡み合う領域への数理最適化の適用も視野に入れている。予測から発注、在庫管理に至るサプライチェーン全体の最適化へ向け、同社の挑戦は続く。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。