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「100人の財務部門が5人になる」未来 AIエージェントはSaaS課金モデルを揺るがすかオンプレ残留は「AIの恩恵なし」の宣告か

ERPはAIが自律的に業務を遂行する「成果のエンジン」へと進化しつつある。Oracleが投入する1000超のAIエージェントは、SaaSへの集約とシート課金モデルの見直しを促す。

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 数十年にわたり、企業向けソフトウェアはデジタルの保管庫、あるいは従業員が日々の業務を丹念に入力する「記録のシステム(SoR)」として機能してきた。だが、Oracleはこの構図を覆そうとしている。ソフトウェアそのものが自律的に稼働し、業務を遂行するエンジンへと変えようとしているのだ。

 この動きの鍵を握るのが、IT業界で「エージェント型AI」と呼ばれる技術だ。推論や連携が可能なAIエージェントが、人間の介入を最小限に抑え、複数の工程にわたるタスクを実行する。

 シンガポールで開催された「Oracle AI World Tour Singapore」の合間に、アプリケーション開発担当エグゼクティブバイスプレジデントのロンディ・エン氏がComputer Weeklyの取材に応じた。エン氏は、ERP(統合業務)システムが受動的なデータの貯蔵庫から、自律的に成果を出すシステムへと進化していると指摘。ビジネスの目標に基づいてシステムが自らタスクを実行する時代が来ているという。

 エン氏は重要な点についても言及した。最新のAI機能は、同社のSaaS製品である「Oracle Fusion Cloud Applications」に限定して提供される。Fusionは現在、同社のアプリケーションを利用する顧客の約70%が採用している。一方で、従来のオンプレミス製品は保守のみを継続する「メンテナンスモード」にある。

 「かつてのレガシーなアプリケーションは、企業ごとに異なる非標準的なプロセスで構築されていた」とエン氏は指摘する。

 「データがバラバラに定義されている環境でも、その差異を認識するエージェントを構築することは可能だ。しかし、それには多大な労力がかかる。さらに、間違いや『ハルシネーション(もっともらしい嘘)』が発生するリスクも高まってしまう」(エン氏)

 エン氏はさらに、SaaSへの移行を強く推奨した。「整理された標準的な環境であれば、より早く正確に、高度な自動化を実現できる。SaaSに移行すれば、AIをはるかに効率的に導入できるからだ」。

 以下では、人員が激減する未来に、情シスはどう備えるべきかを解説する。

生成AIから1000以上のエージェントへ

 Oracleは過去18カ月にわたってAI戦略を具体化してきた。当初は生成AIを組み込み人事評価や財務報告の要約など、テキスト作成の支援に注力していた。そこから、特定の目的を持つ50種類のAIエージェントの構築に着手した。

 現在、その数は1000種類を超えるタスク特化型エージェントへと拡大している。これらの管理に向け、同社はFusionアプリケーション内に「AI Agent Studio」を導入した。顧客のほか、KPMG、デロイト、PwCといったシステムインテグレーターが、複数のエージェントを組み合わせたり修正したりできる環境だ。コンプライアンス維持のため、人間が最終承認を行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の仕組みも組み込める。

 さらに2026年3月、ロンドンで開催された「Oracle AI World London」では、新世代のエージェント型アプリケーションが披露された。対象はカスタマーエクスペリエンス(CX)、人材管理(HCM)、財務、サプライチェーンと多岐にわたる。

 従来のERPは、業務履歴を記録し、ポリシーを順守させるためのものだった。だが、エージェント型アプリケーションでは、ユーザーがデータを確認して次の行動を決める必要はない。エン氏によれば、ユーザーは目的や目標、パフォーマンス指標(KPI)を指示するだけで済むようになる。

 例えば、売掛金管理部門を考えてみよう。マネジャーはAIエージェントに、「特定のキャッシュインフローを維持する」あるいは「売上債権回転日数(DSO)を目標値にする」といった指示を出す。すると、エージェントが裏で取引状況やデータを分析し、最適な戦略を提案する。戦略が選ばれると、エージェントは人間の担当者に回収業務を割り振る。顧客の支払い履歴や係争中の事案に基づいて、電話用のスクリプト(台本)まで作成するという。

 「このケースでは、複数のエージェントが連携してデータを解釈し、推論を行っている」とエン氏は説明する。「意思決定を支援し、それを実行に移す。これは、ビジネスを推進する上での極めて自律的なアプローチだ」

ガバナンスとライセンスモデルの未来

 ガバナンスやデータセキュリティへの懸念に、エン氏はAIエージェントがAPIを通じてFusionアプリケーションと直接やりとりしている点を強調した。「アプリケーションに存在する既存のガードレール(制約)は、AIレイヤーでも順守される。AIエージェントは、特定のセキュリティ権限を持つ人物の代理として業務を遂行しているにすぎない」

 Oracleは自社内の業務にもこれらのツールを活用している。AIエージェントを使ってアプリケーションを構築し、一次的カスタマーサポートにも充てている。開発者がシステムの挙動を自然言語で記述するだけで、複雑なルールエンジンを置き換えることも可能になった。

 一方で、AIエージェントが多くの業務を担うようになると、従来のSaaSの価格モデルに疑問が生じる。多くのSaaSは、アクセスする人数(シート数)に基づくライセンス体系を採用してきたからだ。現在、OracleはAI機能で追加料金を課しておらず、約3000万トークン分を無料で提供している。

 エン氏は、将来的に100人必要だった財務部門が5人で回るようになれば、価格モデルを適応させる必要があると認めた。「現時点では、会計士がレポートを作成する必要があるため、シート課金を継続している。シート(ライセンス枠)がすぐになくなるわけではない」。

 「しかし、例えば5年後にシート数が減り始めれば、Oracleも人数ベースの課金は行わなくなるだろう。ただ、今のところ契約者が一斉に解約するような動きは見られない」(エン氏)

 エージェント型AIが普及しても、中核となるERPシステムがコモディティ化することはないとエン氏は否定する。

 「売上高が20億ドルの企業が、財務総勘定元帳の管理をあいまいにすることは許されない。当局に、どのように財務コンプライアンスを証明するのか。SoR(記録のシステム)の層がなくなることはない。進化するのは、ユーザー体験や生産性の層、そしてデータとの対話方法なのだ」(エン氏)

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