AI導入企業の8割が「レイオフ」実施もROI改善せず Gartnerが指摘:「AI疲れ」の現実
AI導入企業の8割が人員削減を報告する一方で、それが収益向上に結び付いていない実態が明らかになった。コスト削減を目的とした安易なレイオフは、むしろ中長期的なROIを阻害するリスクがある。自律型ビジネスへの移行期で、情シスが取り組むべきは「人員排除」ではなく、AIを導くための組織構造への投資だ。
AI(人工知能)を導入した。人は減らした。しかし、期待したほど利益が出ていない――。そんな「AI疲れ」ともいえる状況が、数字として裏付けられた。
Gartnerの最新調査によると、AI導入企業の8割が人員削減に踏み切りながらも、それがROI(投資収益率)の向上に直結していない実態が浮き彫りになった。コスト削減だけを追い求める「レイオフのわな」を回避し、AIを真の武器にするために、日本の情シスが今すぐ見直すべき「投資の優先順位」を解き明かす。
人員削減とROIに相関なし 露呈した「レイオフのわな」
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自律型テクノロジーを試験導入または展開している組織の約80%が人員削減を報告している。しかし、その削減は必ずしも投資収益率(ROI)の向上には寄与していない。Gartnerの調査では、高いROIを得ている組織と、成果がわずか、あるいはマイナスである組織との間で、人員削減率にほとんど差がないことが判明した。
Gartnerのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト、ヘレン・ポワトヴァン氏は「多くの経営幹部がROIを示すためにレイオフへ走るが、この考え方には誤りがある。人員削減でコストは下がるが、それだけでは利益につながらない」などと指摘する。ROIを向上させている組織の共通点は、人材の排除ではなく、人間が自律型システムを導き、拡大するためのスキルやオペレーティングモデルへの積極的な投資にあるという。
AIエージェントへの支出は2027年に約3700億ドルへ
AIエージェントの導入拡大に伴い、自律型ビジネスへの投資は加速している。Gartnerの予測では、AIエージェントソフトウェアへの支出額は、2025年の864億ドルから、2026年には2065億ドル、2027年には3763億ドルにまで達する見通しだ。
ここで定義される「自律型ビジネス」とは、単なる自動化の延長ではない。AIエージェントやデジタルツイン、資産のトークン化などを活用し、マシンと人間の双方がより高い自律性を持つ状態を指す。これは人間不在のビジネスではなく、テクノロジーによって「強化された人間」が主導するビジネスモデルへの進化を意味している。
2028年には「雇用創出」へ転換 日本企業が取るべき策
短期的には人員削減の圧力が強まっているが、中長期的には様相が変わる。自律型ビジネスの運営や管理には、AIだけでは担えない新しい形の仕事が生まれるため、2028〜2029年には逆に雇用を創出するとGartnerは見ている。特に人口減少という構造的課題を抱える日本では、人員削減よりも「人材不足への対応」が本質的な課題となる。
ガートナージャパンのディレクター アナリスト 林宏典氏は「日本のCIO(最高情報責任者)はCHRO(最高人事責任者)と緊密に連携すべきだ」と提言する。限られた人員で事業を拡大するためには、従業員のAIスキル向上を単なる業務自動化の手段にとどめず、AIを活用して「新たな価値」を創出する段階へと引き上げる必要がある。人員を「コスト」として削るのではなく、AIを使いこなす「資本」として再定義できるかどうかが、自律型ビジネス時代の勝敗を分けることになる。
調査概要:2025年第3四半期、世界中の経営幹部350人を対象に実施。対象は、年間売上高10億ドル以上で、AIエージェント、インテリジェントオートメーション、自律型テクノロジーのうち少なくとも1つ以上を試験導入または既に展開している組織。
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