契約作成からKYCまでAIが完結 独金融大手が3000人を削減してまで狙う破壊的効率化:「金融DX」の極致
独コメルツ銀行がAI投資を加速させ、全従業員の約8%にあたる3000人の人員削減に踏み切る。AIエージェントによる契約作成や本人確認の自動化で、年間5億ユーロの価値創出を狙う。
ドイツのコメルツ銀行は、今後4年間で6億ユーロ(約1100億円)を投じて人工知能(AI)への投資を強化し、全従業員の約8%に相当する3000人の人員を削減する。
同行は、2030年以降、このAI投資によって毎年5億ユーロの付加価値がもたらされると予測している。今回の人員削減とAI投資は、同行の戦略「Momentum 2030」の一環だ。イタリアの銀行大手ウニクレディトによる買収提案が進む中で発表された。
コメルツ銀行は声明で「Momentum 2030により、AIの可能性をさらに活用する」と述べた。実証済みのビジネスモデルを拡張し、計画にAIの可能性をより強く反映させるという。これにより、収益性の高い成長を加速し、効率性を高め、技術革新を前倒しで進める方針だ。
同行では既にAIアプリケーションを導入しており、生産性とサービス品質を向上させているという。その結果、顧客と従業員の双方に目に見えるメリットがもたらされている。
具体例として、自律的に判断してタスクを実行する「エージェンティックAI(自律型AI)」を活用した苦情管理プロセスを導入する。また、大量のデータを分析してマネーロンダリング(資金洗浄)や金融犯罪を正確に検知するAIモデル「Hawk AI」も活用する計画だ。以下では、生成AIがもたらす破壊的効率化と、組織変革のリアルな代償を詳解する。
リスクの特定
「金融DX」に関連する編集部お薦め記事
コメルツ銀行では、年次報告書のAI分析を通じて、リスクを早期に特定する取り組みも進めている。
同行は「次の段階では、口座の切り替えや本人確認(KYC)、書類チェック、契約書の作成に至るプロセス全体をサポートするためにAIエージェントを一貫して配置する」と説明。これにより、労働集約的な業務を大幅に削減できるという。
人員を3000人削減する一方で、AI投資によって業務能力の約10%を解放し、一部を再配置できるようになるとしている。
なお、同行が発表した直近の四半期(1〜3月期)決算では、営業利益が前年同期比11%増の約14億ユーロ、純利益は9%増の約9億ユーロを記録した。
コメルツ銀行のCEO、ベティーナ・オルロップ氏は「好調な滑り出しは当行の戦略が機能しており、当初の想定以上の可能性があることを証明している。2030年に向けた新目標は野心的だが、確実に実行可能だ」と述べた。同行は、2028年に150億ユーロ、2030年には168億ユーロまで通期収益を拡大させる計画だ。
銀行業界のAI規制
- 最新のAIモデルが数千件のソフトウェア脆弱(ぜいじゃく)性を特定したことを受け、規制当局が銀行を招集
- 金融サービスのAIリスクを英議員が警告する中、銀行業界からAI推進担当者が任命される
- バークレイズ、エクスペリアン、UBSなどが、金融行為規制機構(FCA)のAIテスト構想に参加
大手伝統的銀行がAI活用による変革に取り組む事例は、同行に限らない。スペインのサンタンデール銀行は2024年2月、AI投資によるコスト削減と収益成長を通じ、10億ユーロのビジネス価値が創出されるとの見通しを示している。
同行はロンドンで開催されたイベントで、データとAIがデジタル変革プログラム「One Transformation」の重要要素だと説明。2028年までに顧客基盤を現在の1億8000万人から2億人に拡大する目標を掲げている。また、2026年4月に完了したTSB銀行の買収により、英国内の顧客数が約500万人増加する見込みだ。
また、ロイズ・バンキング・グループが実施した2025年版の金融機関意識調査によると、調査対象企業の59%が過去12カ月間にAIによる生産性向上を実感したと回答した。2024年版の調査では32%だった。
同調査では、AIがビジネス成長を直接けん引していると考える企業も前年の8%から21%に上昇した。また、回答者の33%がAIによって顧客体験が向上したと答えており(前回14%)、同数がAIを通じて顧客への洞察が深まったと回答している(前回18%)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
中国金融業界の生成AI市場が4年で5倍に急成長 金融DXの成否を分ける潮流
中国の金融業界の生成AI市場は2029年に445億元規模へ達し、試行段階から大規模実装への転換点を迎えている。IDCの最新調査は、自律的に動く「AIエージェント」が競争の核となり、合規性と投資対効果の高度な両立が必要になると指摘。単なるツール導入から、業務を再構築する「価値エンジン」への進化が加速している。
「AIで代替」は建前? Oracle“3万人削減”から読み解くリストラの真実
好業績をうたうOracleで、推計3万人に及ぶ解雇が進行している。同社は「AIツールによる業務代替」を推し進めると主張するが、専門家はその裏にある“焦り”を指摘する。AI技術に対する幻想を打ち砕く事実とは。
5年で5倍、58兆円市場へ――日本企業が今すぐ問い直すべきAI投資の優先順位
IDCの最新調査によると、アジア太平洋地域のAI支出は2029年までに5倍に膨れ上がり、生成AIがその半分近くを占める見通しだ。単なる自動化を超え、自律的に業務を遂行する「AIエージェント」が組織に何をもたらすのか。
欧州の警察組織さえ防げなかったシャドーIT 管理不全が招いた信頼の崩壊
欧州刑事警察機構(Europol)が、規制当局の監視を逃れる形で「シャドーIT」を長年運用していたことが判明した。ペタバイト規模の機密データには無実の市民の情報も含まれ、深刻なセキュリティ上の欠陥とガバナンスの欠如が露呈。欧州議会は信頼失墜を重く見て、組織の権限拡大を一時停止すべきとの声を強めている。