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あなたの会社のAI投資、すでに「負債」――トークンコスト暴走への情シスの防衛策はMetaの株価急落が暴いた「AI巨額投資の死角」

Metaの株価急落は、AI投資が「資産」から「負債」へと変貌する転換点を示唆している。膨れ上がるトークンコストや不透明なROIに、情シスはどう立ち向かうべきか。

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 統計プラットフォームのStatistaによると、大手テック企業は2026年、AIに約7250億ドルを費やす見通しだ。巨額の資金がAIに流れ込む一方で、AIバブルを危惧する声も根強い。

 Metaのような大手企業では、設備投資(Capex)がキャッシュフローを圧迫し始めている。Metaの2026年第1四半期決算報告によれば、198億4000万ドルの設備投資に、フリーキャッシュフローは123億9000万ドルにとどまった。年間の設備投資見通しも、従来の1150億〜1350億ドルから、1250億〜1450億ドルへと上方修正されている。

 同社は決算発表で、「2026年のコンポーネント価格の上昇予測に加え、将来のキャパシティー確保に向けたデータセンター費用の増加を反映した」と説明した。Yahoo Financeの報道によると、決算説明会を受けて同社の株価は約10%下落したという。

 チップやデータセンターの価格高騰、そして技術競争の覇者になろうとする企業間の争いが、AI支出を押し上げ続けている。

 Futurum Groupのチーフテクノロジーアドバイザーで、ウォートンスクールで講師も務めるデイブ・ニコルソン氏は「現在は、過度な期待によって無益な投資に資金が投じられる奇妙な状況にある」と指摘する。

 CIOは、自社をAIの流行に乗せるよう圧力を受けている。しかし、その動きを脱線させず、確実に価値を生み出さなければならない。そのためには、支出が負債に変わる瞬間を見極め、持続可能で責任ある投資フレームワークを構築することが必要だ。

企業にとって市場環境の変化が意味すること

 ニコルソン氏は、今後数年でAI投資はより限定的になると予測している。

 「今後2年以内に、あらゆる企業が現在の投資水準を維持できるわけではないことが明らかになる。ポジティブなROI(投資対効果)を証明できない企業が出てくるからだ」(ニコルソン氏)

 市場は今後、投機的な戦略と持続可能な戦略をより冷徹に見分けるようになる。

 「今後10〜20年の長期スパンで見れば、右肩上がりの継続的な成長が続くだろう。しかし、個別の組織に目を向ければ、深刻な落ち込みを経験することになる」(ニコルソン氏)

 大手テック企業の支出動向と市場の反応を観察する中で、企業の取締役会の視点も「単なる支出」から「いかに優位に立つか」へとシフトしていく可能性がある。

 「『乗り遅れることへの恐怖』は、明確に『失敗することへの恐怖』へと変わった。既存企業の多くは、先駆者ではなくフォロワーとして素早く動く戦略が最善だと気付き始めている」(ニコルソン氏)

AI支出が「負債」に変わる兆候

 AI投資を巡る議論は変化した。もはや実験のフェーズは終わり、価値を証明すべき時が来ている。市場の期待がこの変化を後押ししているが、現場では依然として多くの試行錯誤が続いている。

 調査会社ISGのアナリスト、アレックス・バッカー氏は「AI支出やパイロット運用、試作段階の実験を研究開発(R&D)として捉えているなら、何が機能し、何が機能しないかを知るために資金を投じることに抵抗はないはずだ」と述べる。

 しかし、それは安閑としていいという意味ではない。CIOは、「いつAI投資が戦略的必然から企業の負債に転じるのか」という厳しい問いに直面している。

 測定可能な成果がないまま設備投資だけが膨らみ続ける状況は、取締役会や投資家にとって危険信号だ。「かつてと今」の間で進捗(しんちょく)を示す指標がなく、価値へのコミットがあいまいなままでは、追加投資の正当性は得られない。

 「数百万ドルを費やしながら18カ月間何も達成できず、失敗に終わった例は枚挙にいとまがない」とニコルソン氏は警鐘を鳴らす。

 コスト管理を欠いた支出は、失敗への片道切符だ。価値が具体化しないまま、あるいは価値の創出スピードを上回る速さで、コストだけが忍び寄ってくる。

 「トークン生成のコストは瞬く間に制御不能に陥る可能性がある。エージェントがユーザーに代わってモデルを利用し始めれば、これまでのクラウドコストの肥大化など、取るに足らない問題に見えるだろう」(ニコルソン氏)

 ワークマネジメントプラットフォームを提供するSmartsheetでCIO兼CISOを務めるラビ・ソイン氏は、技術負債を抱え込む前に、AIのビジネスケースを明確にし、それを支出と結び付ける必要があると説く。

 「ユースケースが不明確なままコスト管理を怠れば、イノベーションやスピードという名の下に、実質的な負債を蓄積することになる」(ソイン氏)

 制御不能になったAI支出を隠す方法は他にもある。現在、テックセクターでは大規模な人員削減がトレンドとなっている。Metaは2026年5月20日に8000人の追加削減を予定している。New York Timesの報道によると、同社のチーフピープルオフィサーであるジャネル・ゲイル氏は従業員へのメモで、この削減を「会社をより効率的に運営し、他の投資を相殺するための継続的な取り組みの一環」と説明した。

 このような大規模な人員削減は、AIによる劇的な効率向上を意味するのか、それとも「AIウォッシング(AI活用の過大申告)」にすぎないのか。解雇対象になるかを待っているMetaの従業員、アルナブ・グプタ氏はX(旧Twitter)への投稿で、これらの削減は企業の迷走の結果だと主張する。「AIの使い方を学ぶまで、解雇は続くだろう。AIのトークンを、単なる入力ではなく成果に変換する方法を学ぶまでは」(グプタ氏)。

持続可能なAI投資フレームワークの構築

 AIのコスト管理は他の技術とは異なる面も多いが、賢明な購買と投資という点では、リーダーにはこれまでの経験がある。その経験を、変化の激しいAIの世界にどう応用すべきか。

自社開発か、購入か、パートナーシップか

 大手テック企業は自前のAIインフラを構築しているが、全ての企業がそれに倣う必要はない。自社で開発するのか、外部ベンダーを利用するのか、あるいはハイブリッド型で行くのか。選択肢ごとにコストの在り方は異なる。

 一部の企業にとっては、独自インフラを構築する初期費用が理にかなう場合もある。しかし、ニコルソン氏によれば、それは多数派ではない。

 「他者に販売する製品を開発しようとしているのでない限り、真に新しいものを開拓するリスクに見合う価値はおそらくない。例えばOracleのユーザーがデータベース環境にAIを展開したいなら、Oracleが解決策を出すのを待てばいい。彼らなら数カ月で答えを出すはずだ」(ニコルソン氏)

真のコストを理解する

 ROIは依然としてAIの成否を測る最も重要な指標だ。企業が巨額の資金を投じるのは、最終的にそれ以上の価値が返ってくるという期待があるからだ。しかし、そのためには総所有コスト(TCO)を正確に把握しなければならない。

 「ポジティブなROIを得るには、まず投資額(Investment)を特定する必要がある。だが、トークン課金の時代で、それは極めて困難だ」とニコルソン氏は語る。

 ソイン氏は、多くの組織が総コストの大きさに驚くことになると予測している。「ライセンス料は、AI機能にかかるコストのうち最も小さな部分にすぎない」(ソイン氏)

 CIOは、導入費用、チェンジマネジメント(組織変革管理)、システム統合、そして継続的なプロンプトエンジニアリングに関連するコストを計算に入れる必要がある。自社開発を選択した場合は、さらにインフラコストも加算しなければならない。

支出と価値を直結させる

 AI投資の価値を定量化するための指標が必要だ。数年越しの野心的な巨大プロジェクトが増えているが、こうした取り組みの効果を測定し、継続的な費用を正当化するのは難しい。

 「CIOの職を守るのは、規律に基づいた限定的な『価値証明(POV)』の積み重ねだ。小規模なPOVテストを繰り返すことで、何に投資すべきかが明確になる」(ニコルソン氏)

ROI達成に現実的な期限を設ける

 ニコルソン氏が接するCIOやCTOの間では、AI投資のROI達成期限として18〜24カ月が一般的だという。タイムラインを設定し、それを厳守することで、期待通りに機能しないユースケースへの無駄な支出を避けることができる。

 バッカー氏は「自分自身と測定指標で正直であるべきだ。進展が見られないなら、執着してはいけない。支出をカットし、別のユースケースにトークンや人的リソース、エネルギーを再配分すべきだ」と助言している。

支出をリアルタイムで監視する

 AI支出には、予算を立てて終わりではない、規律ある監視が求められる。

 「AIのコストモデルには、四半期ごとのチェックではなく、リアルタイムの可視性が必要だ。ワークロード単位でコスト超過が発生した際に、即座にアラートを出したり隔離したりできるフレームワークとガードレールを備えているだろうか」(ソイン氏)

投資戦略のストレステスト

 「予算全体に占めるAI支出の割合と、その年次推移を見るべきだ。それが組織が直面する規模と軌道を定義する」とソイン氏は言う。

 その割合は持続可能か。調整は可能か。CIOは、ベンダーの能力の変化、ビジネスニーズ、ユースケースの成果、そして企業の収益に合わせて、AI投資戦略を柔軟に適応させる思考を持つ必要がある。

取締役会や投資家との対話

 取締役会や投資家は、AIへの莫大な投資が効率性と生産性の向上をもたらすと信じている。

 「彼らは世界的な熱狂に引きずられており、その期待が組織で働く人々に重くのしかかっている」とニコルソン氏は分析する。

 CIOは、こうした期待に応え、管理する最前線にいる。取締役会に、AIがどのようにビジネス価値を生むのかを説く役割を担わなければならない。バッカー氏によれば、CIOは取締役会に、あたかも「投資家」に話すように接するべきだという。投資家は支出を理解し、リスクを理解する。両者のバランスをどう取るかを説明するのがCIOの仕事だ。

 「安定したキャッシュフローを持つ高配当企業なら、AI戦略もそれに合わせた慎重なものであるべきだ。一方で超成長企業なら、今はより大きなリスクを取る必要があるかもしれない」(バッカー氏)

CIOにとってのチャンス

 Metaのような大手テック企業はAIに投じる数十億ドルの資金を持っているが、それでも投資家に対する責任がある。一般企業とそのCIOは、市場がAI支出の動向にどう反応するかを観察しながら、自社の投資戦略を磨き続けることができる。

 CIOは、AIをビジネス価値に結び付ける意図的な投資フレームワークを構築することで、組織を導くことができる。

 「私の考える『成功するCIO』とは、AIに最も多くの資金を投じる人ではない。測定可能な価値を伴うソリューションを導入し、責任を持ってスケールさせられるガバナンス構造を提示できる人だ」(ソイン氏)

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