会社支給AIは現場で“無能”? ロームが「Gemini」に乗り換えた理由と効果:1年かかる見込みのコード解析が1週間に
業務効率化のためにAIツールを導入しても、専門的な業務では十分に活用できないケースがある。大手半導体メーカーのロームが、「Gemini」に切り替えて半導体開発の専門業務で成果を導き出した方法は。
全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環として、利用中のグループウェアに標準搭載されているAIツールを従業員に利用してもらうことは一つの手だ。しかし、この手段を安易に選ぶだけでは、期待した効果を得られない可能性がある。一般的な情報収集や議事録作成には役立っても、専門的なデータを扱う業務では回答の精度が足りず、現場がさらに高度なAIツールを要求するケースが後を絶たない。
大手半導体メーカーであるロームは、AIツール活用における壁に直面していた。同社は2024年初頭から生成AIの業務利用を模索し、既存のグループウェアの機能として提供されるAIアシスタントを導入した。しかし、半導体設計や特許検索といった専門的かつ大規模なデータを扱う現場では十分な効果が得られなかった。
その結果、現場のエンジニアの中には高性能な生成AIの導入を待ち望む声や、プライベートでGoogleのAIアシスタント「Gemini」を個人的に契約して使う人も現れた。ロームはいかにしてこの事態を打破し、月4時間にとどまっていた従来のAIアシスタントの短縮効果を約8倍(月31時間)に引き上げたのか。
「1年」の作業を「1週間」に
半導体・電子部品大手のロームは、半導体開発のスピード向上と全社的なDXの推進に向け、Googleのクラウドサービス部門Google Cloudが提供する「Google Workspace with Gemini」を採用した。2026年6月24日、Google Cloudが情報を公開した。2025年5月からの試用プログラムを経て、その4カ月後に正式導入を決めた。すでにLSI(大規模集積回路)開発部門などで顕著な成果を上げており、1年を要する予定だったソースコード解析・改善プロジェクトをわずか1週間で完了させるなどの業務効率化を達成している。高い解析能力と伴走支援体制によって、開発のスピードと品質を両立する生成AI活用体制を確立した。
ロームは品質第一を企業目的として掲げ、アナログからデジタルのLSI、パワー半導体まで幅広く手掛ける大手メーカーだ。同社は品質向上と業務効率化を目指して全社的なDXを進めており、2024年初頭には生成AIの業務利用を模索し始めた。当初は既存のグループウェアに標準搭載されているAIアシスタントを導入したものの、一般的な情報収集や議事録作成には有効だった一方で、半導体設計や特許検索といった専門的かつ大規模なデータを扱う業務では十分な効果が得られず、より高度な解析能力を持つ生成AIの確保が課題となっていた。IC(集積回路)設計の現場では、膨大な仕様書や数千ページに及ぶ設計ツールのドキュメントの整理、検索が従業員の大きな負担となっていた。
こうした中、Google Cloudからの提案を受けて500人規模でのGoogle Workspace with Geminiのトライアルを実施した。前述のソースコード解析プロジェクトの大幅な期間短縮に加え、社内アンケートでは1人当たり月31時間の作業時間短縮が見込めるとの試算が得られた。これは従来のAIアシスタント(月4時間)の約8倍の効果に当たり、基礎性能や信頼性の高さが評価されて正式導入に至った。導入に際しては、Google Cloudのサポートチームがシステム構築から社内説明資料の作成、勉強会の準備までを伴走支援した。
2026年6月時点で900人以上の社内ユーザーが利用しており、社内DWH(データウェアハウス)の検索、シミュレーション時のバグ発見、クエリ作成の自動化、ソースコード生成などに幅広く活用されている。特にLSI開発部門では、企画時の市場調査から設計時の壁打ち、ドキュメント生成、検証・評価のチェックまで、全工程に適用されている。
2026年には新たに策定された「AI戦略」の下、全社的な取り組みがスタートしている。今後は、これまで培ってきた多様で膨大なナレッジをGeminiで構造化データとして集約し、品質向上に資するデータベースやAIエージェントの構築を目指す。営業部門の顧客対応や製造部門の歩留まり向上・リードタイム削減など、より大きな業務プロセスの改善に向けて生成AIの適用領域を拡大する。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「ローム、Gemini導入でコード解析を1年から1週間に短縮」(2026年6月26日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.