社内のワークスタイル変革として検討される「デスクトップ仮想化(VDI)」。いろいろな実現方法があるが、コストや運用管理などを考えた場合の最適な選択肢について考える。
従業員のワークスタイル変革によって、業務効率や生産性の向上を図るという戦略を採る企業が増えつつある。そこで多くの場合、検討されるのが「デスクトップ仮想化」(VDI:Virtual Desktop Infrastructure)だ。この仕組みを取り入れると、従来のクライアントPCと比べて、管理性の向上も図れ、運用負荷の低減も見込めるというメリットがある。
だが、VDIと一言でいってもその手法には大きく2つある。1つは「DaaS」(Desktop as a Service)だ。もう1つは「オンプレミスVDI」である。それぞれの長所と短所を把握し、整理してニーズにあわせどちらがより適切な手法なのか判断をするのは意外と難しい。具体的にVDIを検討したいが、手法選択というスタート地点で悩んでいるIT担当者も少なくないのではないだろうか。そうした悩みを解決する、新たな選択肢がある。その選択肢とはどのようなものなのか詳しく解説する。
PC環境を改善するプロジェクトは、大抵既存のクライアントPCの入れ替えのタイミングで発生するものだ。企業によって検討の順番は異なるだろうが、下記の3つの方針を立てることになることが多いのではないだろうか。
まず、新しいクライアントPCを購入する場合はどうなるだろう。最近のクライアントPCは性能のわりに安価で、導入コスト自体はそれほど高額にはならない。しかし、運用の煩雑さはこれまで通りで、資産を持ち続ける点でも何も変わらない。セキュリティや情報統制の複雑さも、従業員の業務効率や生産性も、改善されることはない。
次に、オンプレミスVDIについて検討してみよう。まず、アプリケーションをリモートから集中管理できるため、一つ一つのクライアントPCを管理する手間が省ける。ただし、運用そのものは継続する必要がある。資産はクライアントPC以上で、高額なサーバやストレージが増えることになる。安価なクライアントPCに比べれば、非常に高額になるという点で、経営者の負荷は高い。
それではクラウドを使ったDaaSについてはどうだろうか。運用はサービスベンダーがするため、ほとんど負荷は掛からない。自社で資産を保有する必要がないというのは、パブリッククラウドサービスの大きなメリットの1つだ。導入費用が小さく、月額課金で利用できるため、コストの最適化を図れるという点もメリットのように見える。ところが、さまざまな要素を検討していくと、実はトータルコストが肥大化してしまうケースも少なくない。
特に忘れられがちなのが、プリンタだ。ドキュメントを印刷するときは、必ずデスクトップからプリンタへデータが送信される。DaaSの場合、デスクトップ環境はサービスベンダーのデータセンターに、プリンタはユーザーのオフィスに設置される。印刷データは想像以上に大きいため、データセンターとオフィス間のネットワークに膨大なデータが流れることになる。
この他、データセンターと社内システムの距離が離れているために、パフォーマンスが低下する場合もある。結果的に、回線を増強する必要があり大きなコストが掛かってしまう。アプリケーションのインストールや運用方法について自由度が低いという点も、DaaSを敬遠する大きな理由の1つである。
こうした問題を解決する新しい仕組みが「デリバリーDaaS」である。
デリバリーDaaSという新しい考え方を提唱するのは、日立製作所と日立システムズだ。デリバリーDaaSは、「DaaSを出前する」という考え方で、クラウド基盤にオンプレミスVDI環境を構築した上で、ユーザーが希望するロケーションへ設置するというものだ。クラウド基盤の資産をベンダーが保有し、ユーザーは初期の導入費の他、月額利用料のみで使い続けることができる。VDI環境のリモート監視や運用・メンテナンスといった業務は、サービスとして提供するため、ユーザーに負担が掛かることはない。
ユーザーが希望するロケーションということは、例えば自社内のサーバルームに設置したり、システムがある他社データセンターに収容したりすることも可能ということだ。システムに近い場所に設置することで、結果的に、ネットワーク回線費用を抑えながら、パフォーマンスを出すことができる。
システム環境は、厳しい制限があるというわけではなく、複数のユーザーでOSを共有する「SBC型」とOSを占有できる「仮想デスクトップ型」という標準的な2つの方式から選択できる。ハードウェア構成も、業務や予算などの要件に合わせて柔軟に最適化することが可能だ。
また、仮想化基盤としてヴイエムウェアの「VMware vSphere」と「VMware Horizon」を使用している。そのため、個々の環境を独立する「フルクローン」方式とマスターを共有する「リンククローン」方式を選択することも可能だ。さらに、VMware Horizonの特長の1つである仮想ストレージを実現する「Virtual SAN」技術が利用できる。VDIで特に重視されるストレージについても、仮想化することで高性能な仕組みが用意でき、拡張性も非常に高い。
セキュリティ面は、トレンドマイクロの「Deep Security Virtual Appliance(DSVA)」を、標準サービスで搭載している。DSVAは、VDI環境に最適化されたアンチウイルスシステムで、エージェントが不要なため、パターン更新などの負荷が非常に低いことで知られている。
日立製作所と日立システムズが提供するデリバリーDaaSの最大のポイントは、両社の調達から構築、運用に至るVDIに関するノウハウ・知識を活用できる点にある。VDI環境は、単に仮想化基盤だけでなく、ネットワークや認証システム、業務システムとの連係など、さまざまな要素が絡み合う複雑なシステムである。両社は、これまでの豊富な導入実績を通じて培われたさまざまなノウハウを有しており、システム全般の設計と構築にも詳しい。
デリバリーDaaSは、ユーザー環境の要件や要望を最適化し、綿密な試験を行った上で、ユーザーが望むロケーションに設置し、安定的に運用するところまでを指す。
最適化といってもさまざまな要素があるが、1つにライセンスの問題がある。一般的なDaaSは1000人の従業員がいれば、1000のライセンスが必要となる。ところが、実際に環境を確認してみると、最大でも600人しか同時接続していないといった場合もある。そこで、社員数にかかわらず、実際に必要となるリソースを配置したうえで、最適化されたライセンス数のみを使用する方式が可能である。
デスクトップ環境について、ユーザー自身が自由に運用し、設定変更も思いのままにできる。DaaSで制限されがちなアプリケーションのインストールなどについても、デリバリーDaaSではオンプレミスVDIの自由度が適用されることになる。
運用面では、実績が豊富な監視ツールが標準で提供されるため、ユーザーで用意する必要がない。担当SEによるワンストップな問い合わせ対応やリモートによる健全性確認/監視および仮想化基盤の障害復旧も標準サービスとして対応する。
また、「仮想デスクトップ再起動」を24時間365日対応するサービスも特長的だ。VDI環境は、クライアントPCと異なり、OSなどにエラーが発生したときにエンドユーザーが再起動できないという問題がある。もし管理者が在籍していない夜間などにエラーが発生すると、エンドユーザーは途方にくれてしまう。そこで、専用フリーダイヤルに連絡すると、再起動を実行してくれるというわけだ。単純なサービスではあるが、夜中に管理者が呼び出しされるような手間からは解放される。
もちろん、さまざまな運用を全面的に任せたいというのであれば、フレキシブルに対応可能だ。要件や要望に合わせて、きめ細やかな対応を行えることが、本サービスの特長でもある。
例えば、あるモバイルコンテンツ事業者では、BCP(事業継続計画)対応として首都圏外のデータセンターにVDI環境を設置した。同社が求めたのは、資産を持たずに自由に運用することであった。そのため、デリバリーDaaSの運用サービスを一切不要として、自社で自由に運用している。
また、ある製造会社では、海外拠点や出張先から安全にシステムを利用するため、VDIを選択した。設計データなどの大きなファイルを扱うために、業務システムの近くにVDI環境を設置する必要があり、デリバリーDaaSを選択したのだ。海外からのアクセスのためネットワーク構成を工夫し、SANストレージも冗長化するなど、自社環境に合わせたカスタマイズを施して利用している。こうした対応が可能なのも、ノウハウのたまものといえるだろう。
今回、紹介したデリバリーDaaSは、新しいVDIの実現方法である。オンプレミスVDIとDaaSの利点を組み合わせたデリバリーDaaSは、これまで導入に踏み切れなかったユーザーにとって魅力的な解決策といえるだろう。
日立グループは、デリバリーDaaSの他にも事前検証済みの構成で提供するオンプレミス型の「Hitachi Unified Compute Platform かんたんVDIモデル」や日立グループが運用と稼働維持をするプライベートクラウド型DaaSを提供する「かんたん Private DaaS」などを用意している。豊富な実績とノウハウを基に、さまざまなユーザーの要望に真摯(しんし)に応え、仮想デスクトップ基盤の導入と運用をサポートする取り組みにぜひ期待していただきたい、と日立グループは語る。
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