モバイル導入に当たってチェックすべき26のポイント:必要なツールは部署によって違う
ユーザーのニーズの把握やセキュリティ対策など、モバイル導入プロジェクトの成否を分ける重要なチェックポイントを紹介する。
米調査会社のIDCによると、2010年までにモバイルエンタープライズアプリケーション市場の規模は35億ドルに拡大する見込みだ。モバイル化の波は勢いを増しており、企業はのんびり構えていると後れを取ってしまうだろう。しかし、無計画に飛び込めば岩に激突するのが落ちだ。本稿では、モバイル導入プロジェクトの成否を分ける重要なチェックポイントについて論じる。
ユーザーのニーズを把握する
おそらく最大の誤りは、すべてのユーザーが単一のソリューションで満足できると想定することである。ほとんどの企業の場合、これほど真実からかけ離れた前提はない。最初にすべきことは、従業員を職務別に分類し、それぞれのグループがモバイル化によってどのようなメリットが得られるかを把握することである。
アクセスするアプリケーションの種類は?
電子メールや電話機能に加え、CRMなどのホリゾンタル(一般業務用)アプリケーションや、患者管理などのバーティカル(専門業務用)アプリケーションも含めて検討すること。最もメリットが大きいアプリケーションのモバイル化に最初に取り組む。その際には、長期的な計画に向けた構想も考慮に入れること。
必要な無線接続形態は?
社内で業務アプリケーションに定期的にアクセスするのか、それとも社外から常にアクセスするのか? 生産性を高め、従業員のイライラを防ぐには、職務に応じて異なる接続性が必要になる可能性がある。
いつ、どの社内システム/データへの接続が必要なのか?
例えば、モバイルデバイスで社内のデスクトップと直接同期化するのか、それともバックエンドシステム/データへのパイプとしてモビリティサーバを使用するのか?
リアルタイム接続を必要とするユーザーはいるか?
あるいはモバイルデバイスとの間でデータをコピーすることにより、ユーザーがオフラインでも仕事を続けられるようにするべきなのか。後者の場合、データのアップロード/ダウンロードのためにどれくらいの頻度で接続できる必要があるのか?
音声通話およびデータ転送に使う時間と帯域幅は?
現実的な予測を立てること。見積もりが低過ぎると後で予算オーバーになるかもしれないし、見積もりが高過ぎると使われないサービスに経費を掛けるという無駄につながる可能性がある。
モバイルデバイスの選択
ノートPCと携帯電話の間には大きな違いがあるが、両者の間に位置するデバイスは数多く存在する。各ユーザーの職務に最適なモバイルデバイスを選定するには、業務アプリケーションに対する理解が重要になる。
音声アプリとデータアプリが必要なユーザーは?
移動中に音声アプリケーションとディスプレイベースのデータアプリケーションの両方を絶えず必要とするユーザー向けには、統合型のモバイルデバイス(スマートフォンやPDA型携帯電話など)を検討すべきである。
キーボードによる入力と軽量さの両方を求めるユーザーは?
キーボードによるデータ入力を行う必要があるけれども、頻繁に持ち歩くのでサイズと重量に対する要求が厳しいユーザーには、UMPC(Ultra-Mobile PC)を検討するといいだろう。
ペン入力が必要なユーザーは?
キーボードによらないデータ入力(タッチスクリーン、ペン入力など)が必要なユーザーには、タブレットPCやコンバーティブル型のノートPCが向いている。使用環境によっては高耐久仕様のモデルが必要なこともある。
Windowsアプリをローカルで実行するユーザーは?
こういったユーザーに対しては、サブノートPCやメインストリームノートPCを検討する。サブノートPCは高価だが小型・軽量で、頻繁に移動するユーザー向けに設計されている。
1人で複数のデバイスを必要とするユーザーは?
「スマートフォンとサブノートPC」というように複数のデバイスを使うユーザーのためには、これらのデバイスを連携するインタフェース(Bluetooth、ペアリングなど)を検討すること。
最低限必要なバッテリ持続時間は?
サイズ、重量、入力方式、対応アプリケーション、価格といった要素に加え、バッテリ持続時間の要件も考慮に入れること。例えば、自動車内で長時間使用するためにDCアダプタやACコンバータを必要とするモバイルユーザーもいるかもしれない。
ベンダーの選定
モバイルデバイスは、キャリア、デバイスメーカー、システムインテグレーターなどから調達できる。ベンダーの選定に際しては、以下のポイントをチェックする。
すべてのデバイスを1社のベンダーが供給できるか?
逆に、もし供給元を1社だけにするとデバイスの選択肢が制限されることはないか?
接続性の選択肢に制約はないか?
メーカーからデバイスを直接購入する場合には、接続性の選択肢(特に通信キャリアの選択肢)に関してどういった制約や影響があるか?
サービスプランにはどのような条件があるか?
キャリアからデバイスを購入する場合には、どういったサービスプラン、機能、条件を受け入れなければならないか、また、それらは接続性のニーズに合致するか?
パッケージソリューションはあるか?
ベンダー(メーカー、キャリア、ISV)は、デバイスに対するニーズだけでなく、ビジネスアプリケーションおよびモビリティサーバのニーズにも対応したパッケージソリューションを提供することができるか? ベンダーのソリューションを、自社開発ソリューションの実現可能性およびコストと比較する。
価格、通信距離、信頼性、通信速度の確認
通信キャリアを選択する場合は、当然の(そして重要な)チェック項目として、価格、通信距離、信頼性、通信速度を確認する。また、同一のデバイスからキャリアのネットワークとプライベートなネットワークの両方にアクセスするユーザーがいるのであれば、ネットワーク間のシームレスなローミングとコールハンドオフ/アプリケーションパーシステンスに対するキャリアのサポートを確認すること。
管理戦略の策定
ほとんどの企業はノートPCを管理する方法を知っているが、それ以外のモバイルデバイスを管理するための総合的な戦略を確立している企業は少ない。米国企業を対象とした最近の調査によると、CIOの10人中8人は、モバイルデバイスの管理ソリューションの提供についてはキャリアが主導的役割を果たすべきだと答えている。しかし、どういった機能がモバイル管理ソリューションに求められるのだろうか?
すべてのデバイスを把握できるか?
あるかどうか分からないものを管理することはできない。資産管理とIT統制を行うために、すべてのモバイルデバイスを把握できるか?
自動化できるか?
管理効率を改善し、コストを削減するために、自動化技術を利用することができるか? 例えば、最初の接続時にモバイルデバイスの検出、承認、プロビジョニングを行える(ワイヤレスで実行できることが望ましい)管理システムを検討するといいだろう。
ソフトやポリシーのアップデート管理は?
さまざまなモバイルデバイスにおける唯一の共通項は「変化」だ。社外にいるユーザーが次に社内ネットワークにアクセスしようとしたときに、ソフトウェアやポリシーのアップデートをプッシュ配信できるか? あるいは、社内での時期遅れのアップデートまたは手作業のアップデートに伴うリスクやコストを受け入れられるか?
利用状況を把握できるか?
モバイルデバイスが従業員に実際にどう使われているかを把握、評価できるか? このような可視性は、適切なプランニング、正確な予算策定、そして(もちろん)セキュリティに不可欠な要素だ。
モバイルワーカーのセキュリティ
プラットフォーム的な制約、IT管理の欠如、そしてその脅威を過小評価する故に、モバイルデバイスのセキュリティはなおざりになっているのが実情だ。これは多くの企業にとって、モビリティの拡大がビジネスリスクの増大を伴うことを意味する。モバイルリスクを把握して適切な対策を講じるには、以下のポイントを確認する必要がある。
重要情報が含まれるデバイスの保護
法規制の対象となるセンシティブなビジネスデータや顧客情報が含まれているデバイスは、保存されているデータの暗号化や厳格なユーザー認証などによって防護しなければならない。
認証システムによるデータの保護
社内ネットワークにワイヤレスでアクセスできるデバイスでは、セキュアな電子メールやモバイルVPNなどで使用する認証メカニズムによって、通信中のデータを保護する必要がある。
バックアップとリカバリソリューション
モバイルデバイスへの依存度が高く、デバイスの紛失、盗難あるいは故障によって仕事ができなくなる可能性があるユーザーについては、強力なバックアップと迅速なリカバリソリューションが必要だ。
モバイルマルウェア対策
ユーザーが保存しているデータ、ユーザーに許可されたアクセス、あるいは彼らの業務の重要性のせいで、攻撃を受けたモバイルデバイスはどういった脅威をもたらす可能性があるか? モバイルマルウェアはまだ比較的少ないが、いずれほとんどのモバイルデバイスでファイアウォールやIDS、ウイルス対策/スパイウェア対策などの防護が必要になるだろう。
モバイルセキュリティポリシーの一元的な定義・適用
すべてのモバイルデバイスに対して、モバイルセキュリティポリシーを一元的に定義・適用する必要があるか? 業界関連の法規制やプライバシー法へのコンプライアンスを含む社内的・社外的要件を考慮すること。
従業員教育
モバイルデバイスに対する脅威、ビジネスリスク、必要な対策について従業員を教育・訓練するプランは作成したか?
結論
このチェックリストは完全なものではないが、自社のニーズを評価し、モバイル配備計画を策定する際の参考になるだろう。モバイル導入の実施は、複数のフェーズにわたることが多い。小規模な導入からスタートして試験運用を行った後で、徐々に導入規模を拡大していくといいだろう。各フェーズが完了した段階でチェック項目の再確認を行い、それまでに得られた知識に基づいて計画を修正する。配備が完了した後も定期的にニーズを見直すこと。ユーザーもデバイスもアプリケーションも絶えず進化するため、モバイル戦略も進化する必要があるのだ。
本稿筆者のライザ・ファイファー氏は、ネットワークセキュリティ/管理技術を専門とするコンサルティング会社、Core Competenceの副社長を務める。同氏は20年余りにわたり、データ通信/インターネットワーキング/セキュリティ/ネットワーク管理製品の設計、導入、評価に携わってきた。各種の業界カンファレンスで無線LANやVPNなどのテーマについて講演を行っており、広範なIT関連メディアにネットワークインフラやセキュリティ技術に関する記事を寄稿している。
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