QoS制御とデータ階層管理の自動化を実現する「HP StorageWorks P9500」:エンタープライズ向けディスクストレージ紹介:日本HP
日本HPが2010年9月に発表したディスクアレイシステムの新シリーズ「P9000ファミリー」。アプリケーションの重要度に応じた処理の優先付けや自動階層化機能などが追加された。
従来機種より処理性能が50%向上した「HP StorageWorks P9500」
日本ヒューレット・パッカード(以下、HP)は2010年9月、ハイエンドディスクアレイの新製品「HP StorageWorks P9500」(以下、P9500)を発表した。同社が1999年から提供してきた「XPファミリー」のハイエンド向けディスクアレイ製品「HP StorageWorks XP24000」(以下、XP24000)」の後継機種となる。これまでXPファミリーで培ってきた技術をベースにして、今回新たに独自の機能強化を行った。同社は今後の製品ラインアップを「P9000ファミリー」として展開する。
P9500は、業界標準の19インチラック、2.5型HDD/SSDを採用したディスクアレイシステム。最大6ラックの構成が可能で最大搭載ドライブ数は2048基。その仮想容量は外部ストレージ接続時に最大255P(ペタ)バイトまで拡張できる。
P9500ではCPUとプロセッサ間の効率的な負荷分散を実現する「プロセッサー・ブレード」技術を採用することで、XP24000と比べて50%の性能向上を実現した。また、設置スペースはディスク1000基の搭載時でXP24000の約3分の2に、消費電力も新たに高集積アーキテクチャの2.5インチディスクを採用することで約40%削減できたという。
日本ヒューレット・パッカード エンタープライズサーバー・ストレージ・ ネットワーク事業統括 ストレージワークス事業本部 製品マーケティング本部 担当マネージャーの諏訪英一郎氏は、「P9500では、特にコスト削減を目的とした機能を追加した」と語る。
その理由として、諏訪氏は「これまでミッションクリティカルシステム向けの製品は、“高可用性を担保するために高コストもやむなし”と見られていた。しかし、昨今の不況もあってか、近年ではハイエンド製品にもコスト削減効果が求められてきた」と説明する。
ストレージのI/O要求に対するQoS制御
ミッションクリティカルシステムにおけるストレージ環境の運用には、なぜ多大なコストが掛かってしまうのだろうか? その主な原因の1つが「ディスクの利用効率の悪さ」だ。これまでは、業務ごとに個別最適化されたサイロ型システムが構築され、ディスクボリュームもアプリケーションごとに専用領域が割り当てられていた。そのため、アプリケーションの可用性を担保するためにディスク容量を多めに見積もって割り当てられ、使われない余剰ディスクが散在することになった。
こうした課題を解決するためにはストレージを個別最適化するのではなく、アプリケーションを包括した全体最適の観点から配分し、管理する必要がある。そのために開発された技術が「ストレージ仮想化」と「シンプロビジョニング」であった。
P95000の前身となるXPファミリーでもこの技術は実装されていたが、ミッションクリティカルシステムで要求される高いサービスレベルを満たすためには、まだ課題が残されていると諏訪氏は指摘する。
「ストレージ仮想化を使ってストレージを集約すると、さまざまなアプリケーションからのアクセスが単一のストレージ装置に集中する。その結果、SANの帯域やディスクアレイの処理能力などがボトルネックになり、個々のアプリケーションの性能が確保できなくなる」
アプリケーションサーバやSAN、ディスクアレイ、ストレージなどの各レイヤーを個別最適化できても、サーバからストレージに至るパス全体を見ると、ボトルネックはまだ多く存在するというのだ。
そこでP9500に導入された新機能が「APEX」(Application Performance Extender)だ。これは、アプリケーションのQoS(Quality of Service)に基づいた優先度のタグを付加することで、P9500がサーバからのアプリケーションのI/O要求を優先度の高い順に処理するという仕組みである。
この優先度のタグは、ツールを使ってアプリケーションごと(2010年10月時点、HP-UXのみ。WindowsおよびLinuxはホストごとの設定)に16段階まで設定でき、さらにその処理実行時間をスケジューリングすることも可能だ。例えば、「日中はオンラインアプリケーションのI/O要求に高い優先度を設定し、夜間はバッチアプリケーションのI/O要求を優先的に処理する」といったQoS制御が可能になる。
また、ディスク利用率の向上という面でも「ストレージ仮想化やシンプロビジョニングの技術にはまだ改善の余地がある」と諏訪氏は指摘する。
一般的なシンプロビジョニングでは、アプリケーション側でディスク領域を破棄しても、その領域は仮想ストレージのプールに戻されずに保持されたままだった。そこでP9500では、破棄された領域を上書きしてプールに戻して再利用する機能を追加した。
データの階層化管理を自動的に実行
企業が保有する全データの中で、定常的に参照されているのは全体のわずか5%程度にすぎないともいわれる。そこで使用頻度に応じて性能の異なる記憶媒体に分けて保管する「ILM」(Information Lifecycle Management)が活用されている。ILMでは、「高速かつ高価なもの」「中速で中程度の価格のもの」「低速かつ低価格なもの」とストレージ装置を分類・階層化し、使用頻度の高いデータを高速なストレージに、使用頻度が低いデータを低速なものに分けて保管する。大部分のデータを低価格のディスクで保管することで、全体としての運用コストを低く抑えるという考え方だ。
しかし、諏訪氏は「実際にデータを階層化して管理する場合、そう簡単にはいかない」と指摘。一般的なデータ階層化はボリューム単位で行われるが、ある階層のストレージから別の階層のストレージにボリュームを移動させる際には、アプリケーションの設定も含めてさまざまな手作業が発生する。さらに、同一ボリュームに使用頻度の高いデータと低いデータが混在することもある。その結果、データの階層化がかえってストレージの管理を複雑にしてしまうことにもなりかねないというのだ。
そこでP9500では、仮想ボリュームの「内部」にデータ階層を持つことができる機能を追加し、仮想ボリューム内に3つのデータ階層を持たせている。階層間のデータ移行はボリューム内に閉じて行うことで、ボリュームの移動や設定に伴う煩雑な作業が不要になる。また、データを「42Mバイト」に分割した上で、それぞれの使用頻度を基にP9500が自動的に階層間のデータ移動を行う。ストレージ管理者の手を煩わせることなく、自動的にデータの階層化管理を実現できる。
こうした自動化機能はストレージ環境に限らず、将来のクラウドコンピューティング基盤を構築する上では極めて重要なファクターになると諏訪氏は力説する。
日本HPでは「Converged Infrastructure」という次世代のクラウド基盤を提唱しているが、これを支えるインフラの運用管理において、同社は「自動化による運用効率化と全体最適化は不可欠な要素だと考えている」という。
そのほかにも、P9500の管理ツールにはさまざまなウィザード機能が装備されている。ストレージ運用管理の自動化を重視する同社製品ならではの機能だといえる。同製品 の販売価格は、最小構成時で3280万2000円(税込み)。
項目 | 仕様 |
---|---|
システム構成 | 最大6ラック構成 |
ドライブ数 | 最小5〜最大2048ドライブ(DKCラックは256ドライブ、DKUラックは384ドライブを搭載可能) |
ドライブインタフェース | デュアルポート 6Gbps SAS、デュアルポート 3Gbps SAS(200Gバイト SSDのみ) |
システム容量 | 最小575Gバイト〜最大1.178P(ペタ)バイト(raw)、最小287Gバイト〜最大1.030Pバイト(usable) さらに外部ストレージにより仮想論理容量を最大255Pバイトまで拡張可能 |
RAIDレベル | RAID 1、RAID 5、RAID 6 |
論理デバイスの最大数 | 6万5280 |
キャッシュメモリ | 最小16Gバイト〜最大512Gバイト |
ホストインタフェース | ファイバーチャネル、FICON |
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.