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“日立クラウド”の実績で提供 〜プライベートクラウドを3週間で構築するレディーメード型パッケージプライベートクラウドソリューション最前線【第6回】

自社事例のノウハウを基にクラウドソリューションを体系化した日立は、必要なハードウェア/ソフトウェアがあらかじめ設定された、レディーメード型のプライベートクラウドパッケージソリューションを提供する。

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 サーバメーカー、SIer(システムインテグレーター)、通信事業者など、今や多くのベンダーが注力して取り組むクラウドコンピューティング。次世代の企業システムに変革をもたらすものとして期待されているものの、実際に企業システムに適用し、ビジネスに活用している事例はまだ少数だ。そうしたベンダーが多い中、“絵に描いた餅”ではないとばかりに自社のシステムに取り入れ、国内はもとより世界でも有数規模のクラウド環境を運用しているのが日立製作所だ。同社では、日立グループの20万ユーザーを対象にクラウド環境をベースにした「日立クラウド」を構築。その構築・運用実績を基にしたクラウドソリューション「Harmonious Cloud」を提供している。

自社の情報システム改革から始まったクラウドへの取り組み

 これまで企業の情報システム部門は、各事業部門の依頼に基づいてシステムを開発・運用する“下請け”に近い立場だった。IT部門を分社化して、企業本体から切り離すという例も、そうした意識が強く働いた結果なのかもしれない。しかし、企業のビジネスが情報システムに強く依存するようになった今、経営層が考える情報システム部門の在り方もダイナミックに変化しつつある。既に先進的な企業は、情報システムを上手に活用することが自社のビジネスを成功に導く鍵だと気付き、情報システム部門には全社の経営に貢献する役割を求めつつある。

 これに応える形で情報システム部門でも、コスト意識を持ちながら企業のIT基盤全体を考えるようになってきた。振り返ってみると、各事業部門の個別要求に対応してきたシステムは、他のシステムと連携することのない個別最適化されたものであり、運用管理は個別最適化されたシステムの数だけ複雑化し、コストも掛かっている。この課題を解決するために注目を集めるようになったのが、企業システムの全体最適化、仮想化によるサーバ統合、そしてクラウドコンピューティングである。

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日立製作所 情報・通信システム社 クラウド事業統括本部 担当部長 小川秀樹氏

 「企業が全社でITガバナンスを実現し、ビジネスの変化に即応できる体制で臨むには、情報システム部門がこれまでのように開発・運用だけを担当するのではなく、サービスプロバイダーになっていく必要があります。さらにその先には、情報を活用して新たな価値を生み出すバリュークリエーターへ発展していくことが望まれます。日立グループでは、こうした情報システムの変革に挑戦し、取り組んできました。そうした情報システムの新しい在り方を実現する手段として、クラウドコンピューティングは最適だと考えています」(日立製作所 情報・通信システム社 クラウド事業統括本部 担当部長 小川秀樹氏)

 日立がこうした考えを基に、自社の情報システム部門の改革を始めたのは、クラウドコンピューティングという言葉が一般化する以前のことだった。だが、業務をサービス化し、情報システムの形態を所有から利用へと変えて、ビジネスの変化に合わせてスケーラブルかつ迅速にシステムを構築し、オンデマンドで利用可能にするという日立の思想は、クラウドコンピューティングそのものだった。その後、日立は自社で構築した情報システム基盤を“日立クラウド”という通称で呼び、クラウドコンピューティングの可能性を探り始める。この出発点は、クラウドを新たなビジネスとして考えて取り組み始めた多くの事業者と一線を画すものである。

自社事例を基にクラウドソリューションを体系化

 日立は現在、日立グループ各社の20万人のユーザーに対し、メールやスケジュール、ポータル、ファイル共有といった情報共有基盤など、多くの共通業務をクラウド環境上に構築、運用している。小川氏によると、日立グループ全体で1万3000台以上あったサーバを5000台程度に削減することを実現したという。こうした運用実績を基に、クラウドソリューションをビジネスとして体系化したものが、「Harmonious Cloud」である。

 Harmonious Cloudでは、顧客企業が共有する共通インフラ基盤を提供するパブリッククラウドから、日立のデータセンターや顧客の企業内に顧客専用のクラウド環境を構築するプライベートクラウドまで、さまざまなクラウド環境に対応することが可能だ。

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日立製作所 情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部 プラットフォームSI第一本部 プラットフォームソリューション開発部 主任技師 吉田高明氏

 「クラウド事業者の中には『パブリックでなければクラウドにあらず』という言い方をする企業もあります。しかし、日立はそうは考えていません。もちろん、パブリッククラウドも適用可能な分野では活用することを考えていますが、これから企業にとって最もニーズが高いのは、システム再構築の手段となり得るプライベートクラウドです。そして、パブリックとプライベートを適材適所で組み合わせたハイブリッドなクラウド環境が今後の主流になっていくものと考えています」(日立製作所 情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部 プラットフォームSI第一本部 プラットフォームソリューション開発部 主任技師 吉田高明氏)

 Harmonious Cloudには、随所に“日立らしさ”がちりばめられている。大きな特徴の1つとして日立がアピールするのが、クラウド環境の基盤となる仮想化に関する各種技術だ。

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 「日立は、メインフレームで培った論理パーティショニングの技術を応用した独自のサーバ仮想化機構『Virtage』を持っています。また、ストレージ仮想化についても技術の蓄積があります」(吉田氏)

 ハードウェアだけでなく、データベースサーバや基幹アプリケーションサーバなどのミドルウェア、それらを一元的に監視・運用管理できるシステム運用管理ソフトウェア「JP1」、自社で設計・建設したデータセンターなども、すべて日立グループで提供している。SIerのクラウドソリューションでは、ベンダーロックインしないことが特徴として挙げられることが多いが、日立はむしろ真逆であり、データセンターからハードウェア、ソフトウェア、運用管理サービスまですべてを丸抱えできることが大きな特徴となっている。

プライベートクラウドのレディーメード型パッケージを提供

 日立ならではの特徴を生かし、他社に先駆けてサービスメニュー化したものが、レディーメード型のプライベートクラウドソリューション「Harmonious Cloud Packaged Platform」である(図1)。これは、企業が所有するオンプレミス型のプライベートクラウドを迅速に導入するために、クラウド環境を構築するためのハードウェアやソフトウェア、導入サービスをパッケージ化したものだ。

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図1 Harmonious Cloud Packaged Platformの概要

 「プライベートクラウドは、適用効果を検討した上で要件に合わせた構成を組んだり、設計したり、運用設計したりといったオーダーメード型のソリューションが一般的です。日立でも、コンサルティングから設計・構築・運用方針、計画フェーズから運用フェーズまでを全般的にサポートするメニューを用意しています。しかし、企業によっては、すぐにでもプライベートクラウド環境を構築したいというニーズがあります。そうしたニーズに応え、プライベートクラウドを迅速に導入するために、システム検証済みのサーバ、ネットワーク、ストレージなどのハードウェア、運用管理関連のソフトウェア製品、仮想化機構とそれらを導入するサービスを組み合わせたパッケージを用意しました。このHarmonious Cloud Packaged Platformにより、詳細設計や検証などの導入前の事前準備に数カ月かかったプライベートクラウド環境の構築が、約3週間程度に短縮できます(図2)」(吉田氏)

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図2 Harmonious Cloud Packaged Platform導入までの工程と期間

 また、顧客のデータセンター内に日立が所有するクラウド基盤を用意し、サービスで提供するプライベートクラウドの導入例(現時点では個別対応)も出始めている。さらに、日立ではクラウド環境のフレームワーク作りに着手し、2011年にはサービスとして提供を開始する構想を持っている。

 「これからの企業システムは、プライベートクラウドやパブリッククラウド、オンプレミス型の個別システムが混在した環境になっていくと考えています。そうなると、企業はそれぞれのクラウド環境やシステムを相互に接続・連携しなければなりません。そうした課題に対し、日立では他社のクラウドサービスも視野に入れながら、ハイブリッドなクラウド環境を統合的に管理できるフレームワークを作っていこうと取り組んでいます」(小川氏)

 自社事例や総合電機メーカーといった独自の強みを持つ日立のクラウド戦略には、今後も注目していきたい。

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