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管理ツールのベンダーロックイン回避がIT部門の負担増を招くシステム管理ツール選びの勘所【前編】

システムの運用管理が重要視される昨今、それをサポートする管理ツール選びが課題になっている。ツールの提供でロックインを狙うベンダーと、それを回避しようとするユーザー。その結果、何が起こったのか?

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 IT分野で最も広く浸透している変化の1つは、ハードウェア的なスキルよりもシステム管理の能力が重視されるようになってきたことだ。サーバを配備・設定することよりも、サーバとそのコンピュータリソースを理解・運用する能力に対するニーズの方がずっと大きくなってきた。

 この変化を促した2つの大きなファクターが、サーバの仮想化とリモート管理だ。管理者は、コンピューティングリソースを従来のような考え方で捉えることができなくなった。加えて、仮想化によりハードウェアとワークロードとの関係が分かりにくくなった。この変化はシステム管理のハードルを高くした。企業が従来の管理ツールを変更するに当たっては、現実的な目標を設定し、実際的な基準で新しいツールを選択しなければならない。

 システム管理ツールには、特定機能に限定されたシンプルなツールからエンタープライズ環境の管理に対応した高度なフレームワークに至るまで広範な種類が存在する。適切なツールを選択する作業は、適切な目標を設定することから始めるのが基本だ。

 システム管理プロジェクトが障害に突き当たったり頓挫したりする原因として多いのが、新しいツールとその機能に対して非現実的な期待を抱いたために、初期の段階でつまずくというものだ。このため、導入する可能性のある管理ツールを評価するのに先立ち、管理する必要がある要素──これは絶対に把握しておかなければならない情報だ──を注意深く検討することから始めることが重要だ。

ベンダーロックインの可能性

 システム管理ツールには最低限の条件として、管理対象のハードウェアプラットフォームに関する有意な情報を、IT部門の生産性を高めるような形で提供することが求められる。しかし1つのツールだけでは、種類が異なる複数のプラットフォームを通じて同じレベルの情報を提供することはできないだろう。そのツールが特定ベンダーのシステムに特化した製品の場合はなおさらそうだ。特定機能用ツールでベンダーロックインに陥る可能性は、データセンターの管理者にとっては重大な関心事でもある(関連記事:「ベンダーロックインの名人Oracle」からの脱却)。

 多くの企業は、数種類のツールを利用したり、汎用的なオープンアーキテクチャのツールを選択したりすることによって、ベンダーロックインを回避しようとしている。しかし複数のツールを使ったり、オープンアーキテクチャを採用することで、IT部門の苦労がさらに増える。

 「新たなツールを購入・実装するたびに、誰かがメンテナンス、パッチ適用、設定、運用を行わねばならず、そのための訓練を受ける必要などもある」と指摘するのは、「The Lone Sysadmin」サイトの技術コンサルタント兼ブロガーのボブ・プランカーズ氏だ。「ツールで苦労が増えるようでは本末転倒だ」

 大抵のツールは、ハードウェアのインベントリ整理、ハードウェアの環境条件(CPUの温度やファンの回転数など)の監視、一般的な「Lights out」機能(リモートコンフィギュレーション、リモートリブートなど)などに関しては十分な機能を備えている。プランカーズ氏によると、最近では仮想化に伴って管理ツールのデザインも進歩しつつあるという。ベンダー各社が米VMwareのvSphereのような総合的な製品との連係に取り組んでいるからだ。

 しかし各社の管理ツールはWebインタフェースという面では不十分であり、そのせいでJavaActiveXに関連する問題が生じる可能性もある。

 米ビジネスメディア企業のThomson ReutersでWebサービス管理主任を務めるアイアン・パーカー氏は「一般に、リモートコンソールはJavaランタイムがベースとなっているため、Javaランタイムのバージョンの影響を受ける。もっと標準化されたインタフェースによるアプローチが望まれる」と話す。

 パーカー氏によると、プラグイン型のWebベースの管理ツールのユーザーインタフェースでよくある問題として、マウスポインタの動きが遅れることや、ダイアログ画面の大きさが不適切だといったことがある。このため、購入を決める前に検証と評価を行うことが不可欠だという。

 また、システム管理ツールの多くはWindows環境用に設計されているため、多くのLinux運用企業がコマンドライン型の特定機能用ツールと格闘しなくてはならない。データセンターでLinuxの普及が進むのに伴い、Linuxベースのツールの充実が求められるようになるだろう。

 一方、どこからでも利用できるインタフェースを通じて1つのツールあるいはツール群を管理できることで話題となっている「一括管理」(Single Pane of Glass)方式はどうだろうか。一括管理のコンセプトには大きな技術的障害はないが、ベンダー各社は異なるシステムやツールに対応したオープンな管理を可能にするというよりも、新たなロックイン手段としてこういったツールを位置付けているようだ。

 サードパーティーの管理ツールの多くは、相互運用性を実現するために細かい機能を犠牲にしている。しかし管理ツール分野でサードパーティーベンダーが活躍する背景には、ハードウェアの相互運用性の重要性が認識されていることがある。

 「一括管理というのは、きちんとした機能があってこそ重宝するものだ」とプランカー氏は話す。「もし一括管理ウィンドウの分かりにくい表示と、本格的な機能を備えたクライアントが別々に動作するのとどちらを選ぶかと言われたら、ユーザーは本格機能を備えた使いやすいクライアントを選ぶだろう」

 企業での仮想化の利用が浸透するのに伴い、ツールとシステムとの間の相互運用性をめぐる問題が企業の長期的な成長を阻害する要因になる可能性もある。このため、管理者が自社環境の状態とトレンドを正確に把握するのに必要な機能を提供できるよう、システム管理ツールがさらに進化する必要がある。

 後編「システム管理ツール選定時に考慮すべき点は?」では、これらを踏まえつつ、システム管理ツールの選定に当たってあらためて何を考慮する必要があるかを整理する。

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