DPC時代の急性期病院の経営改善を支援する「病院ダッシュボード」:病院経営支援システム紹介:グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン
病床機能の分化や地域医療連携の推進、DPC制度の浸透など、急性期病院を取り巻く環境は変化している。GHCジャパンの「病院ダッシュボード」は、急性期病院の経営状態の可視化や課題抽出、改善策の立案を支援する。
診療報酬の改定でデータ分析の重要性が増す
全体で0.004%のプラス改定となった2012年度の診療報酬改定。今回の改定は「7対1一般病棟入院基本料」の要件が厳格になるなど、「急性期入院の機能分化・強化」「地域医療連携の推進」を目指す厚生労働省の意図が反映された。急性期病院では今後、報酬率が引き上げられた手術への医療資源の集中投入や一般病床の平均在院日数の短縮などが、その経営の安定化につながる。
現在、そうした急性期病院で導入が進んでいるのが「Diagnosis Procedure Combination(診断群分類別包括評価)」(以下、DPC)制度だ。全国の急性期病院の内、DPC対象病院は約1600施設、DPC非対象の急性期病院は約7000施設(2013年3月現在)。DPCデータを含めた院内のデータを分析して、自病院の戦略策定や課題解決に役立てることがますます重要になっている。
しかし、その取り組みは必ずしもうまくいっているとは言えないようだ。病院の現場にはレセプト、手術、地域連携などさまざまなデータがあるが、それらを管理する担当部門は多岐にわたり、データを集約できない病院もある。また、分析担当者のノウハウが不足していると、各種データをひも付けても改善につながる分析結果をアウトプットすることは難しい。
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHCジャパン)の広報副室長 湯原淳平氏は「多くの病院では、経営改善のために関係者が集まって委員会や検討会を開いている。本来であれば、その場で現状の把握や課題抽出、解決に向けたアクションにつなげなければならない。しかし、資料作成などに時間がかかり、単なる情報共有の場になることが多い」と指摘する。
2004年に設立されたGHCジャパンは、急性期病院の医療の質と経営効率の向上を支援するコンサルティング事業を展開し、これまで国内700病院以上のDPCデータ分析や経営改善プロジェクトを手掛けてきた。同社はその経験やノウハウを基に、2011年から急性期病院向けの経営支援サービス「病院ダッシュボード」を提供している。「病院ダッシュボードは、病院職員自身が質の高い意思決定を迅速に行うことを支援する」(湯原氏)という。
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院内のさまざまなデータをベンチマーク分析する「病院ダッシュボード」
病院ダッシュボードは院内にあるさまざまなデータを収集し、病院の経営状況や他病院との比較などを自動分析して可視化するWebサービスだ。
病院ダッシュボードでは「DPC分析」、地域の医療圏における診療ニーズや自病院のポジションを把握する「マーケット分析」、自病院の財務状況を可視化する「財務分析」の3つの分析機能を「Base(基本)パッケージ」として提供している。
GHCジャパンのコンサルタント 井口隼人氏は「病院ダッシュボードは、院内に散在する多様なデータを一元管理できる点が、他の分析ツールとの差別化ポイント」と語る。また、「データの入力が不要で、各種分析結果をPDF出力できるなど分析作業に伴う負荷が少なく、病院経営の戦略立案を簡単に実施できる」という。毎月更新され入院データを使うDPC分析の利用頻度が最も高く、年次や四半期のタイミングなどでマーケット分析や財務分析などが利用されている。
GHCジャパンは2006年、メディカル・データ・ビジョンとDPC分析ベンチマークシステム「EVE」シリーズを共同開発した。EVEは在院日数や症例数、収益要因などの要素で他病院と比較する「ベンチマーク機能」を搭載している。病院ダッシュボードはDPC分析だけでなく、マーケット分析や財務分析などでもベンチマーク分析を行うことができ、それぞれの分析結果を横展開できる。
GHCジャパンのシステムエンジニア 堀江政数氏は「EVEは、分析の切り口を自由に設定できるが、使いこなすためにはある程度のノウハウが必要。一方、病院ダッシュボードは当社のコンサルティングのノウハウを生かし、標準的な分析指標に絞っている。導入病院がすぐに改善アクションに活用できるアウトプットを提供するように開発しており、2つのツールを使い分けることでより高い効果を得られる」と説明する。
自病院のポジションを信号機3色で表示
病院ダッシュボードの各種ベンチマーク分析では、他病院と比較した結果を自病院のポジションに応じて以下の3色に分けて表示する。
色 | 内容(他病院との比較結果) |
---|---|
青色 | 上位25%以上 |
黄色 | 上位26%以下〜下位26%以上 |
赤色 | 下位25%以下 |
1. DPC(診療)分析
DPC(診療)分析機能は、以下3つの手順で診療の効率化や標準化を支援する。この機能によって、疾病別の自病院の改善ポイントを把握し、具体的な改善策を立案してアクションにつなげることが可能だという。
- (他病院との乖離が大きい)改善が必要なコードを抽出
- 該当コードの概況、経年変化を表示
- コンサルティングノウハウを基にした改善手順を表示
まず、「DPC俯瞰マップ」で病院全体の状況を俯瞰し、自病院の課題を抽出。そこから「DPC分析ロードマップ」機能によって、診療科ごと、または「冠動脈ステント留置術」「内視鏡的大腸ポリープ切除術」などの疾患ごとに詳細な要素に分解し、他病院との比較状況を色で分けて表示する。2013年3月現在、90疾患に対応している。さらにDPC分析ロードマップの項目を選択すると、全国の病院とのベンチマーク結果を「DPCケース分析」画面で視覚的に表示する。
堀江氏は「自病院の改善ポイントを視覚的に分かりやすく表示する。また、今月分の状態を前年度同月と比較でき、改善状況の経年変化をモニタリングすることも可能」と語る。
2. マーケット分析
マーケット分析機能は、地域の医療圏(マーケット)における自病院の弱みや強みを把握し、戦略策定に役立てるツールだ。DPCデータを基に周辺の競合病院の診断群分類別の症例数や割合、年度別の地域シェアの変化などを分析してグラフ表示する。
患者の入院経路を分析する「患者エリア分析」では、「どのエリアから来院しているのか」「紹介の有無」「救急搬送」「疾患別」などの切り口から分析できる。また、その分析結果をGoogleマップと連動したイメージで表示する。
以下の画面イメージは、入院経路が「紹介状あり」患者を分析した「患者エリア分析」の例だ(編注:イメージ画像。実際の画面とは若干異なる)。バブルの大きさが症例数を示し、患者数が多ければ「緑色」、少なければ「赤色」で色分け表示する。また、地域の医療機関との連携状況などを一目で把握できる。
「マーケット分析機能は、経営会議や地域連携室などの会議で用いることができる。地域医療連携は、これまで感覚的にしか分かっていなかった部分があり、医師の中には勘違いや思い込みをしていることもあった。可視化によって説得力が増し、より客観的な判断ができるなど、最適な戦略を立案することにつながる」(湯原氏)
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3. 財務分析
財務分析機能は、財務データを基に自病院の経営状態を多角的に分析できる。病院全体の状況を把握できる「財務俯瞰マップ」、全体収支や各種収支の内訳を分析する「自病院分析」、収益性や効率性など20の指標で他病院と比較する「ベンチマーク分析」などが搭載されている。
GHCジャパンは2013年1月、財務分析のメニューに「財務指標シミュレーション」機能を追加した。この機能は過去データを基に、実施年度の医業収益の着地予測や損益分岐点などの数値を自動算出。達成のために必要な「患者受け入れ数」「病床稼働率」などの目標値が把握できる。財務分析機能について、井口氏は「中長期的な経営戦略の立案を支援できる。長期間利用するほど、その精度が増して導入効果は高くなる」と語る。
収益構造を改善に役立つ2つのオプション
病院ダッシュボードは、Baseパッケージの他に「外来分析」「手術分析」の2つのオプションを用意している。外来分析はレセプトデータ、手術分析は手術台帳データを基に分析を行う。湯原氏は「急性期病院では今後、地域で求められる難易度の高い手術件数を増やすために、外来診療を周辺の診療所や病院へシフトさせる適正化が求められる。2つのオプションは、医業収益の構造を改善するとともに、院内スタッフの業務負荷の軽減や地域医療連携の足掛かりにもなる」と導入メリットを説明する。
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