クラウドの“本当のお値段”:クラウドでコストは上がる? 下がる?
クラウドの売りの1つは、コスト削減を期待できることだ。Forrester Researchのアナリスト ジェームズ・スタテン氏に、クラウドへの投資で結果を出すための秘訣を聞いた。
コスト削減を期待できることがクラウドの大きなセールスポイントだ。しかし、単純にクラウドを採用すればコスト削減を実現できると考えて、期待はずれに終わることがある。米調査会社のForrester Researchのバイスプレジデント兼主席アナリストのジェームズ・スタテン氏は、クラウドによるコスト削減を図るなら、アジリティ(敏しょう性)、既存のレガシーシステム、現在の人材を考慮して、投資効果を計算する必要があると話す。
スタテン氏は、全ての従業員が常時使用し、休眠期間が発生しないシステムをクラウドサービスに替えてもコスト削減は期待できないとし、ERPを例に挙げて次のように説明する。「従来のERPシステムには確立されたインフラストラクチャがあるので、都度払いや従量課金制のプラットフォームが持つ流動性を生かせない」
クラウドの正しいコスト分析
クラウドの採用に関しては、社内システムを置き換えるコストと、システムまたはサービスをクラウドに移行するコストを比較する必要がある。スタテン氏は通常、既に導入しているものを移行または置き換えることでコストを削減できるかどうかを判断するようCIOにアドバイスしている。
問題なのは、この比較は簡単にできそうでいて、実際は一筋縄でいかないことだ。パブリッククラウドへの移行を例に考えてみよう。企業がパブリッククラウドに移行する場合、移行前とアプリケーションの構成を同じにする必要はまずない。「ライセンスの仕方が変わってくる。特にOracleの場合など、利用した時間を基に課金される従量制のプラットフォームを利用することになるため、(クラウドに移行すると)間違いなくコストは増える」とスタテン氏は言う。
サーバの管理と保守が不要になる(クラウドプロバイダーが対応する)ため、移行直後はコストを大幅に削減できるが、ITの運用コストを完全になくすことはできない。スタテン氏によると「やはり利用者側でしなければならない作業は存在する。運用コストは、ざっと見積もって70%ほど削減できる可能性があるが、ゼロになることはない」ということだ。
アプリケーションの管理については、恐らくクラウド導入前と管理の仕方は全く変わらない。ただし、アプリケーションの構成に関わる部分(パフォーマンス管理、キャパシティー管理、拡張)は変わってくる。コストを節約できるケースが多いが、場合によっては、かえって費用がかさむこともある。これは、アプリケーションがどれほど複雑で、どのようなシステムと連携するかによって決まる。
クラウドコンピューティングではソフトのコストに注目
スタテン氏によると、クラウドはサービスであるため、“ハード”のコストよりも“ソフト”のコストの方に注意しなければならない点が多いという。
「例えば、IaaS(Infrastructure as a Service)の候補としてGoGridとAmazonを考えているとする。どちらが費用を節約できるかを判断するため、双方を突合せて検討したいが、提供されるサービスの内容は同じではない。両者の間で追加機能、サービス、コンサルティングスキルにどのような差があるか? それが本当にコストの節約につながる部分なので、この部分を調べる必要がある」(スタテン氏)
社内でクラウドの管理を担当する人材についても考慮が必要だ。例えば、まず1アプリケーションのみをクラウドで運用することにした場合、恐らく社内で2人の開発者を割当てれば、問題なくプロジェクトを回せるだろう。これは単純な移行だ。しかしその後、さらに5つのクラウドアプリケーションを追加する、あるいは外部の支援が必要な複雑なアプリケーションを導入することにした場合はどうなるだろうか。
“リリースまでの時間”という観点でのアジリティ(敏しょう性)も検討材料の1つだとスタテン氏は言う。目的がモバイルアプリを提供することで、そのためにネイティブのクラウドモバイルアプリケーションまたはモバイルアプリをサポートするサービスを使えるのなら、1週間以内で新製品をリリースできるだろう。「これなら大幅にコストを削減できるし、この方法を採用することでより短期間でより多くの収入を得ることができるだろう。何かをクラウドとオンプレミスのどちらで運用すべきかを分析したり、長期にわたるコストを計算したりするよりも、恐らくこちらの方が重要だ」とスタテン氏は付け加える。
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