情シスがクラウド、自動化を味方に付ける3つの方法:従来型の運用管理はもう限界
パブリッククラウドの登場により、コスト、スピードを社外のサービスと比較されている情報システム部門。今後どうすれば存在意義を発揮できるのか? 3つの着眼点を紹介する。
仮想化、クラウドの浸透はシステム運用管理に変革を促している。ITシステムには維持管理だけではなく、業務部門のリクエストに応じたサービス提供など、動的な管理が求められるようになった。市場環境変化の速さに対応し、これをスピーディに行うためには、維持管理を軸とした従来型の運用管理スタイルでは限界が見えつつある状況だ。これがスピード、コスト面で、情報システム部門が社外のサービスと比較されがちな傾向に拍車を掛けている。
では現在、情報システム部門は具体的にどのような変化を迫られているのだろうか? ガートナー ジャパンは2013年4月24〜26日にかけて「ガートナー ITインフラストラクチャ&データセンターサミット 2013」を開催した。サミットにおける同社主席アナリスト 長嶋裕里香氏の講演「ITオペレーションの重大ミッション 2013」から、情報システム部門が社内で生き残るためのポイントを紹介する。
システム、サービスの重要度に応じて運用にメリハリを付ける
まず長嶋氏が発表したのは「運用にメリハリをつけよ」というメッセージだ。一般に、業務部門は全てのシステムに高い稼働率を求める傾向が強い。インシデントへの対応要請も頻繁に寄せられ、対応の優先順位が付けられない例も多い。現在はこれにスタッフの数、個々人のスキルといった人の力で何とか対応しているわけだが、「属人的なやり方では、運用管理の品質、スピード、作業量に限界があり、目の前にある対症療法的な課題解決しかできない」と長嶋氏は指摘する。
事実、同社が毎年行っている「ITデマンド調査」でも、属人的な運用管理スタイルが課題となっている傾向が浮き彫りになった。同調査において過去3年間、「IT運用管理ツールの導入目的」を聞いてきたが、3年連続で「運用管理業務の効率化」「IT運用管理コストの削減」「運用管理スタッフの負荷軽減」が上位を占めたという。
「3つの課題は全て運用管理スタッフに起因するもの。原因としては、運用管理支援ツールの利用が足りない、ツールを適切な場所で利用できていない、ツールそのものが優れていない、管理対象の拡大・複雑化が進んでいるなど、さまざまなことが考えられる。だが多くの企業が何らかのツールを利用して努力している現状を踏まえると、この結果は従来の運用管理に抜本的な改革が必要なことを示唆している」
これに対して長嶋氏は、「全てのシステム、サービスを一様に高品質で管理、提供するのではなく、ビジネスに対する重要度に応じて、3〜5段階ほどでシステム、サービスの重要度をレベル分けし、それに応じて運用管理レベルも分けるべきだ」と提案する。例えばシステムに保証する稼働率、監視項目の量、手作業の量などを管理レベルに応じて分ける。仮に松竹梅の3段階に分けるとすれば、松クラスのシステム、サービスにリソースを集中させ、竹、梅クラスでは仮想化やパブリッククラウド、運用自動化ツールを使うなどしてできるだけ効率化を狙う。
「つまり運用管理においても“選択と集中”が必要になっている。人や時間を投入して品質を高くする領域、量やスピードによって効果を上げていく領域を分けて考えることが大切だ。ポイントは、ITオペレーションをビジネスとして考えることにある」
とはいえ、既存のやり方を変えるのは難しいことが多い。そこで「できるだけ新しいサービス、システムを対象にやり方を変えていく」のが現実的な方法だという。
自動化を少しずつでも拡大する
仮想化が浸透し始めた2009年ごろから運用自動化は企業の関心を集めてきた。だが「コストが掛かる」「人がいらなくなる」「すぐに導入するのは難しい」などネガティブな見方が多く、導入企業は一部にとどまっている。だが長嶋氏はそうした傾向に警鐘を鳴らす。
「例えば、管理対象サーバ4000台で運営する150人万人向けのサービスを4人で管理している、といった事例もある。そうした話に対して『うちはそんなサービスを提供していないから関係ない』と考える人は多い。だが重要なのは、事実としてそうしたスケール、スピードを実現した企業が登場しているということ。つまり今後、競合、協業のIT活用が進化し、変わってくる可能性がある。また業務部門がパブリッククラウドを利用するケースも増えた。つまりIT部門は外部のサービスと競争する時代になっている。コスト、迅速性を支える自動化は、情報システム部門にとって待ったなしの課題として理解するべきだ」
だが一気に進めるのは難しい。そこで比較的スモールスタートがしやすいパターンとして、以下の3つが有効だという。
- 異常検知の初期対応:監視ツールから上がってきたアラートを受けて自動的にインシデントチケットを発行しプロセスを流す。既知の問題なら初期対応まで自動化する
- 変更作業:パッチの適用や設定変更、IDやパスワードの変更、再発行、新規発行などもサービスとして自動実行する
- 実行環境の提供:例えば「CPUやOSなど、業務部門から必要なリソースの情報を受けてイメージを展開し、ネットワークやストレージを設定して実行環境として提供する」といった一連のプロビジョニング作業を自動化する
自動化の前提となるのが作業の標準化だが、長嶋氏は「ITILを取り入れて標準化していても、属人化した作業が残っていたり、一部のプロセスが形骸化していたりする例もある。どれだけ標準化できているのか点検してほしい」と勧める。
また、自動化をいきなり本格導入するのは難しいため、「まずは新しいサービス、システムで自動化を推進し、そこで培ったノウハウを横展開していくスタンスが有効」だ。特にコスト削減より「ビジネスへの貢献や、エンジニアの単純作業からの解放と(創造的な仕事に対する)機会創出」に目を向け、少しずつ自動化の範囲を拡大していく姿勢が大切だという。
クラウドはあくまで「サービス」として管理しよう
3つ目はクラウドの“適切な”管理だ。これについて長嶋氏は、「クラウドとはサービスであり提供形態のこと。すなわち、クラウドの管理とはサービスの管理であり、要求、提供、変更、終了というライフサイクル全体にわたって管理することが肝要だ」と指摘する。
特に重要なのは、仮想環境やプライベートクラウドにおいて「サービスが管理対象になる以上、サーバなど各システム構成要素が正常に稼働していることだけが稼働を保証するとは限らなくなる」という指摘だ。例えば性能管理もサーバの性能管理ではなく、それが支えているサービスの性能管理と捉える。CPUリソースの利用状況だけではなく、どんなサービスに、どのリソースがどのように使われているのかをひも付けて性能を管理する。また、インフラは動的に変化する。このため、従来のようにシステムが完成してから運用を設計するのではなく、「しきい値や権限など、管理ポリシーを事前に設計しておくことが不可欠だ」と強調した。
一方、パブリッククラウドについても管理が重要となる。従って、社内外のクラウドを管理するための一定の管理ポリシーを決めた上で、「そうした管理ができるかどうか、パブリッククラウド事業者に説明を求めることが大切」だという。こうした説明がベンダー側からきちんとなされていないケースが目立つためだ。また、パブリッククラウドは進化し続けている。従って、今提供されている管理機能のうち使えるものだけ使い、必要に応じて新しい機能を取り入れて改善していくスタンスが重要だという。
なお、プライベートクラウドでは、「CPUリソースに対する業務部門からのリクエスト受付→提供→課金→継続的なサービス管理」といった一連の流れの自動化が鍵となる。運用管理ソフトウェアベンダーや仮想化ソフトウェアベンダーの製品でもこうした機能が組み込まれ始めているが、「まだ成熟度としては高くない」という。社内外のクラウドを一元的に管理するハイブリッドクラウド管理についても、パブリッククラウドは短期間でサービスの内容が変わることが多い他、プロバイダーによっては必要な管理APIが提供されていないこともある。この点で社内外のクラウドを一元管理するハイブリッドクラウド管理は難しく、「現時点では議論先行の感がある」。
「そもそもクラウド自体が発展途上で進化し続けている。従って、有効活用する上では今後進化することを踏まえて、今使える管理可能を着実に使いつつ、継続的にシステムを改善していくスタンスがポイントだ。プライベートクラウドも、3年かけて環境を作り込み10年同じ運用で管理する、といったような従来のやり方はなじまない」
選ばれる情報システム部門になるために
この他、長嶋氏は人材の問題にも言及した。特に昨今は管理対象がクロスオーバーしていることから、例えばサーバ管理に深い知識を持っていても、それだけでは障害に対応できないケースも増えている。そこで「複数領域の専門知識・スキルを持つハイブリッド型の人材」が必要になるという。また、「自社の戦略に基づいてシステムのキャパシティプランニングやサービス提供プロセスを策定/改善し、実行責任を持つ人材」「サービスの利用状況を分析して今後の企画を提案できる人材」が重要になるという。
「つまり人にしかできない仕事の重要性がますます高まる。個々人の努力も必要だが、人を育てるコスト、制度なども必要だ。トップダウンが理想だが、チームマネージャーのような人が取り組みをリードするミドルアウトと、個々人の努力というボトムアップの組み合わせが有効だろう」
また昨今は、開発チームと運用チームが連携して、ユーザーニーズの変化を反映しながらスピーディかつ着実にシステム、サービスを開発する概念「DevOps」が注目されている。これも多くの企業にとって今すぐ適用するのは難しいが、「情報システム部門がエンドユーザーにとって満足度の高いサービスを、より早く、確実に提供するための1つのアプローチとして理解し、注視しておくことが大切だ」という。
最後に、長嶋氏は「今までの運用はいわれたことを高品質で満たしていくことが中心だった。しかしパブリッククラウドの登場により、情報システム部門は社外のサービスと比較される状況になりつつある」と強調。「情報システム部門はどうすれば選ばれるサービスを提供できるのか? 今あらためてITオペレーションの在り方に対する議論を開始してほしい」とまとめた。
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