次のビッグウェーブ「SDN」、移行が始まるのは2014年か:ゆっくりとSDNへ傾くCIO
SDNは新しい技術であり急速に進化している。大手ITベンダーを中心にSDN移行のタイミングについて神経をとがらせている。しかし、秘密裏に既に予算化に着手している企業が多い。その理由とは?
ほとんどの会社や企業は、SDN(Software-Defined Networking)計画の話になると、ステルスモードになる。この技術は議論ばかりで行動が伴わないという誤解につながりやすいからだ。だが、だまされてはいけない。既にSDNは視野に入っている、とCIOたちは話す。
では、なぜステルスである必要があるのか? SDN計画について、企業が明らかにしない理由の1つは、SDNスキルを持ったネットワーキングチームの所属メンバーが露出すれば、他社からのヘッドハンティング攻勢にさらされる危険性があるからだ。
Google、Facebookの極秘事項
加えて、既にSDNを取り込みつつあるCIOたちは、ITをビジネス戦略の中核と考える傾向にあり、技術的転換をあまりオープンに話さない。「Google、Facebook、Rackspace、Microsoft、Deutsche Telecom、NTTコミュニケーションズ、Goldman Sachsなど、SDNの先行者(アーリーアダプター)は、インフラストラクチャを通してアプリケーションで何をするかということを競争優位性と捉え、実装の詳細を極秘事項として固くガードしている」と語るのは、米調査会社IDCのデータセンターネットワーク担当リサーチディレクタ、ブラッド・ケースモア氏だ。
最初に超巨大企業がSDNに取り組み始めたが、多目的万能型のアプローチというものはなく、他の企業もそれぞれ独自のペースでSDNに向かっている。
「SDNの魅力は、ネットワークの仮想化により、管理に視認性がもたらされること。それによって、ネットワークインフラとアプリケーション要求を機敏にマッチさせることが可能になる」とケースモア氏は説明する。「つまり、計算アーキテクチャのためにある既存のリソースを自動的に調整することが可能になるのだ」
典型的な広範囲なエンタープライズ市場は、いまSDNの可能性を探求して、目まぐるしく動いている。ところがベンダーは、そうした動きに追い付いていない」とケースモア氏。結局、「伝統的なベンダーには1つのビジネスモデルがあり、顧客のデータセンターやネットワークにインストールされた製品を抱えている。そうしたベンダーは、次世代の製品を用意しているものの、これまでの流れを変えたくないというのが本音だ」
SDNはデータセンター間接続とクラウドプロビジョニングに
電気通信大手のNTTコミュニケーションズは「長年、SDNに関わってきた」。そう語るのは、NTT Americaのコーポレートマーケティングコミュニケーションズ担当上級ディレクタ、クリストファ・デービス氏である。
いまから4年前、NTTの現サービス基盤部担当副社長で、Open Networking Foundationのボードメンバーである伊藤幸夫氏は、スタンフォード大学を訪れ、ニック・ミケオウン教授とグル・パルルカー教授と会い、OpenFlowの研究について話し合った。「彼らは、この技術がデータセンターのネットワークコンフィギュレーションを変革すると信じていた。そして伊藤氏は、NTTのデータセンターとトランスポートネットワーク全体のために、この技術に取り組む決断をした」とデイビス氏。
NTTは、SDNから何を得ようとしているか? サービスの市場投入までの時間短縮、サービス差別化、そして初期投資と運用コストの削減だ。デイビス氏によると、「OpenFlowは、帯域幅オンデマンド、クラウドおよびオートメーション化への移行に加え、グローバルなデータセンター間のバックアップに用いられてきた」
NTTは、SDNをゲートウェイとして用い、クラウド内と同じIPアドレスをオンプレミスのロケーションでも利用できるようにしている。この方法によって、データはより簡単にクラウドへ移行することが可能になり、帯域幅オンデマンドが容易になった。
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SDNでビッグデータ攻略を目指す大学
米ウィスコンシン大学による大規模ビッグデータアプリケーションへの取り組みが、同大学のCIOにSDNをアピールすることになった。
「SDNは、われわれの目指す戦略的方向性によく合致した」と語るのは、ウィスコンシン大学のCIO、ブルース・マアス氏だ。同大学では現在、Ciscoの次期SDN製品ラインであるCisco ONEのβテストを行っている。「われわれは7万人のユーザーにサービスを提供し、毎年10億ドルの研究成果をもたらす非常に堅牢なネットワークを運用している。そのため、われわれは大規模ビッグデータアプリケーション用に、大量の研究データを高速に移動するための技術を常に探し求めている」
マアス氏によると、SDNの導入により、少人数のスタッフで、ネットワーク需要に迅速に対応することが可能になったという。「専用接続を比較的高速かつダイレクトに、ソフトウェアを通じて適切なセキュリティの下で利用できるようになった」と同氏。
SDNがサーバ仮想化を支援
多くのCIOは、SDNを仮想化の論理的帰結と見る。サーバやアプリケーションの仮想化が進むと、「他のインフラの仮想化に向かうのは自然の流れだ」と語るのは、銀行向け独立系認証サービスプロバイダー、米Kroll Factual Dataの主席技術アーキテクト、クリストファ・ステファン氏である。ただ、サーバ仮想化の初期段階にある企業のCIOは、SDNにまだ目を向けることはなさそうだ。
「中小・中堅企業の場合、まだ仮想化インフラは多くない。当面、クラウド移行に力を入れるか、残りのサーバファームの仮想化の方が先の話になるだろう」とステファン氏は語る。
SDN移行の管理
SDNへの移行はそれほど簡単ではない。ITオペレーション全体に影響を及ぼすからだ。
「SDN移行には統一した目標の設定が不可欠だ。その目標は、ネットワーク全体のアプリケーション、パフォーマンス、デリバリーをカバーしたものでなければならない」と前出IDCのケースモア氏は忠告する。同氏は、あるCIOと話したことがある。そのCIOの会社は、ネットワークの重要性を認識させるためにシステムやソフトウェアスタッフの再教育が必要だった。もちろん、アプリケーションニーズや仮想化に対するネットワーキングスタッフの認識も徹底する必要があった。
このCIOや、SDNに取り組み始めたばかりの他のCIOに対するケースモア氏のアドバイスは、それぞれの業界で現在進行していることに目を見張り、業界の会合に出席して多くのベンダーや信頼できるパートナーから積極的に意見を聞けということである。
実際にSDNに取り組むときは、まず実験的なラボからスタートし、エンジニアがさまざまな課題をチェックできるテスト環境を準備しなければならない。
例えば、ウィスコンシン大学ではキャンパスに実験的な非武装地帯(DMZ)を構築するために、アメリカ国立科学財団から研究費50万ドルの交付を受けた。「DMZはファイアウォールの影響を受けずにデータをやりとりできる場所だ。障害のないデータ移動を可能にする。研究者が実験を行うためには、100%の信頼性を持つことが極めて重要だ」とマアス氏はいう。「現在、われわれはコアのキャンパスネットワークに使用されていない光ファイバー回線でDMZを構築中だ。そこでは、通常の本番稼働中のネットワークに影響を与えることなく、さまざまな実験的作業が行えるようになる。研究者たちは、このDMZ環境でOpenFlowの研究を開始する予定だ」
現在、米国の多くの大学でSDNの研究が進められている。それらの研究の多くは非常にオープンで、情報共有も積極的に行われている。「コミュニティーとして、われわれ自身がリソースであり、民間セクタはこのアドバンテージを活用すべきだ」とマアス氏は語る。
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SDN投資の正しいタイミング
SDNは新しい技術であり、いまも急速に進化している。そのため、とくに大手ITベンダーは、SDN移行のタイミングについては神経をとがらせている。
「非常に多くの要因が絡み合っており、大手IT企業はそれらを注意深く見守っている状況だ。SDNを取り巻く課題は、コンピューティング、ストレージ、管理システムなど、必ずしもネットワーキングだけではない。企業がより大規模に仮想化へ進み、クラウド機能がプライベートからハイブリッドへ移行し、クラウドの爆発的普及といった現象が押し寄せれば、そのときこそ、顧客はIT部門を再構築して、SDNに対応したネットワークの仮想化に本腰を入れるだろう」とケースモア氏。
ITベンダーは状況が落ち着き、技術が成熟するのを待っている。しかし、その一方で、移行のタイミングを逸することも恐れている。
「IT企業は、あまり拙速に先へ進みたくない。顧客たちの準備が間に合わない可能性があるからだ。一方で、乗り遅れてしまうことも望んでいない」とケースモア氏。「もし出遅れたら、当事者になるチャンスを失うだろう。いま彼らが注目していることは、顧客がどのようにデータセンターを仮想化しているかである。それがネットワーキングの動向を決定し、クラウドの導入、進化を方向付ける。そして究極的には、SDN導入を促進することになるからだ」
技術の成熟を何年も待てないCIOやITディレクターにとっては、「SDN移行のタイミングは2014年だ」と、前出Kroll Factual Dataのステファン氏は断言する。「われわれと似たような会社であれば、恐らくSDNに真剣なまなざしを向け、既に予算化に着手しているはずだ」
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