次世代テクノロジーを会社へ
「没入型コンピューティング」で未来の職場はどう変わるか
企業のIT管理者はユーザーによる入力や対話操作の増加を見越して、視線認識や音声認識に注目している。だが没入型コンピューティングはまだ初期の段階にある。
企業のIT管理者は今後、音声認識などの技術やイマーシブな(訳注)コンピューティング環境の出現が従業員の働き方にどのような影響をもたらすかを検討する必要がある。
訳注:“イマーシブ”(英語immersive)は、「現場にいるような」「臨場感のある」「実際に体験しているような」の意味。「没入型」ともいわれる。
この先、プロセッサやハードウェア、ソフトウェア、サービスなどの進歩により、企業ユーザーは従来とは異なる方法でコンピュータや同僚と対話できることになりそうだ。
Siriでおなじみの音声認識
音声認識の導入による恩恵を受けるのには、恐らくそれほど手間は掛からない。多くの企業ユーザーは既にスマートフォンで、米Appleの「Siri」や米Microsoftの「Cortana」、米Googleの「Google Now」などの音声アシスタントに慣れ親しんでおり、米Nuance Communicationsの「Dragon Naturally Speaking」など、サードパーティーの音声認識アプリも人気だ。
「今では、モバイル端末や、インテリジェントなバックエンドを搭載する自動車など、話し掛けて操作できるタイプのデバイスが数多く存在している」。そう指摘するのは、インドのITサービス企業WiPro傘下の米WiPro Technologiesでソリューションアーキテクトを務めるマイク・ドリップス氏だ。
一方、視線や手や体の動きを感知して入力したり動的な視点をシミュレーションしたりする技術や、没入型の操作性に関しては、将来性はあるものの実用レベルに達するにはまだ時間がかかりそうだ。
「われわれのコミュニケーションはジェスチャーが主体ではない。音声がコミュニケーションの基本だ」と、ドリップス氏は語る。
職場にもたらす変化
2015年、企業では、従業員が最新のコラボレーション環境でプロジェクトに取り組めるよう、より没入型のコンピューティング体験を提供しようという動きが広がりそうだ。
「臨場感のある体験という概念は特に新しいものではないが、そうした体験を実現するための技術は着実に向上しつつある」と、米調査会社Moor Insights & Strategyの創業者で主任アナリストのパトリック・ムーアヘッド氏は語る。
プロジェクタとタッチ入力装置「タッチマット」を搭載する米HPのWindows PC「Sprout」や、米Intelの3Dカメラ「Real Sense」などの製品は、いずれもこれまでにない新しい方法で独創的なアプリケーションの開発を支援する。
また高解像度の大型ディスプレーを使えば、より優れた圧縮技術でデータをネットワーク送信でき、より高度なコラボレーション環境を構築できる。そう指摘するのは、米調査会社TECHnalysis Researchの創業者で主任アナリストのボブ・オドネル氏だ。
同氏によれば、60~80インチの大型ディスプレーなどの技術は今後、企業の会議室を「同時に複数の画面上でドキュメントやプロジェクトを操作しながらコラボレーションできる打ち合わせの場」へと変え、企業に変化をもたらすという。
「超高解像度の超大型ディスプレーや、データをネットワーク送信するためのより高速で優れた圧縮などの技術はいずれも、より興味深く、コラボレーション性も高いIT環境の構築に役立つ」と、オドネル氏は語る。
同氏によれば、ビデオ会議の品質は現状ではまだお粗末であり、そのせいで集中をそがれることが少なくない。
「Microsoftが提供するPerceptive Pixel(PPI)ブランドの超大型タッチディスプレーを動画と組み合わせれば、面白いことになる。2015年は、そうした技術が会議を進化させることになるだろう。ユーザーははるかに臨場感のある方法で対話できるようになる」と同氏は続ける。
コストに見合うか
だがば、没入型コンピューティングが普及するのははるかに先になりそうだ。ジェスチャーコンピューティングを手掛ける米Oblong Industriesが“Infopresence”と呼ぶ、ビデオ会議とコラボレーションを組み合わせたシステムには、高額なコストが掛かるからだ。こうしたシステムを企業向けにフル装備でそろえた場合、コストは優に10万ドルを超え、ときには15万ドルに及ぶ可能性もある。
Oblongが提供するInfopresenceシステム「Mezzanine」は、同一ネットワーク上の複数のユーザーがコンテンツとアプリケーションを同時に共有するための製品だ。このシステムは、トラッキングシステムとMezzanineアプライアンスの他、ビデオ会議カメラをサポートするテレプレゼンスコーデック、ホワイトボード上のコンテンツをキャプチャーするためのカメラ、部屋の正面にぴったりと並べて設置される3つのスクリーン(コンテンツを表示したり、リアルタイムでビデオフィードからコンテンツを操作したりできる)、側面に設置するコンテンツ表示用のスクリーン3つで構成される。
「素晴らしいのは、複数のスクリーンを連係させ、ディスプレー間でコンテンツをドラッグできるマルチサーフェス機能だ」と、Oblongのビジネス開発担当副社長デビッド・クン氏は語る。「コマンドラインがGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)に進化し、さらにマルチスクリーンディスプレーへと進化した。GUIのおかげでユーザーはデータの制約から解放された。これからはデータを複数の画面をまたいで操作できる」
Mezzanineシステムでは、オンサイトの従業員はワンド(片手で操作できる細長い形状のリモコン)を使って、複数のスクリーン間(大型の壁掛けディスプレーからiOSやAndroidタブレットの小型画面まで)でコンテンツを操作でき、リモートサイトの従業員はタッチ入力や従来の入力方法を使って、リアルタイムでコンテンツを共有できる。
企業は、この技術が投資に値するかどうかを見極める必要がある。
「要は、どのようにして創造性を飛躍させ、この技術への投資を回収できるかだ」と、ドリップス氏は語る。
さらにIT部門は、帯域幅とストレージを増強したり、追加で装置を設置したりといった必要性にどう対処するかも検討しなければならない。
「私物端末の業務利用(BYOD)戦略の検討やより柔軟な職場環境の整備を求められるなど、IT責任者は突如新しい空間でのスペースプランニングを求められている。ユーザーのニーズに敏感に対応するだけでなく、より積極的に先を見越して行動する必要があるということだ」と、クン氏は語る。
こうした技術をどのように応用したいかによっても、答えは変わる。例えば、米不動産投資会社CBRE/New Englandは顧客や従業員がよりダイナミックな方法でプレゼンテーションやコラボレーションを行えるよう、OblongのMezzanineプラットフォームを1年前に導入した。
CBRE/New Englandの戦略的プランニング・仲買業務担当上級副社長であるタイド・マクローリー氏は「皆、スワイプやタッチ操作には慣れている」と語る。「Mezzanineを使えば、専門家にならなくても誰もが、玉ねぎを手に取って皮をむくように問題の中身を明らかにして、問題点を細分化したり見方を変えたりすることができる」
データのセキュリティ
2015年には、バイオメトリクス認証(生体認証)など、パスワード入力を不要にするシステムも勢いを伸ばしそうだ。
「パスワードが全くなくなるという意味ではない。認証が今よりもはるかにシンプルになるということだ」と、前出のアナリスト、ムーアヘッド氏は語る。
同氏によれば、最近はIntelなどの企業が生体認証や位置情報認識を用いた新たなユーザー認証技術に投資している他、米SynapticsはデバイスやWebサイトやアプリへのセキュアなログインとアクセスを提供できるよう、ノートPCのタッチパッドに指紋センサーを直接組み込んだ製品を開発している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 取引先のセキュリティをどう管理する? 「SCS評価制度」対応の勘所を解説 -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] SCS評価制度「★4」取得のカギ 最大の壁を突破する方法とは? -
製品資料
[NTTインテグレーション株式会社] 2026年度末から運用開始 「SCS評価制度」に備えて製造業がやるべきことは? -
事例
[ネットワンパートナーズ株式会社, アイビーシー株式会社] ハイブリッド環境の一元管理と快適な無線LAN環境、三井ホームはどう実現した? -
市場調査・トレンド
[TD SYNNEX株式会社] 調査で学ぶセキュリティ運用の実態 人を増やさず品質を維持する方法とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
3
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
4
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
5
ITエンジニア1265人調査 生成AIを使い込むほど「人の確認」が重い理由
-
6
AIが本番環境を削除し復旧に13時間 「暴走」ではなかったAWS事例
-
7
高額GPUを買っても成果ゼロ? 「プライベートAI」の落とし穴
-
8
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
9
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
-
10
【漫画付き】"RAG導入失敗3例"と処方箋 「入れても使われない」を終わらせる
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
9
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー