IBMはなぜ「2ナノ」半導体チップを開発したのか?:ヒートアップするチップ開発競争【後編】
IBMは半導体分野の研究開発成果を収益化することに関して積極的ではなかった。2ナノプロセスの半導体チップの開発で、その姿勢は変わる可能性がある。IBMはこの新技術を事業にどう生かそうとしているのだろうか。
IBMは2ナノの作成プロセスを採用した半導体チップを開発した。前編「IBMが開発した『2ナノ』半導体チップとは サーバの処理性能を高速化」に続き、IBMがこの研究開発の成果をどう生かそうとしているのかを説明する。
IBMは2ナノプロセスの半導体チップを生かし切れるのか
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2ナノプロセスの半導体チップ実用化に向けてIBMは非常に長いロードマップを用意している。ただしそのせいで同社が不利になることはないと、調査会社Moor Insights & Strategyのプレジデント兼プリンシパルアナリストを務めるパトリック・ムーアヘッド氏は予測する。「IntelとSamsung ElectronicsがIBMの半導体チップを利用し、IBMはその対価として収入を得るだろう。実用化されれば、IBMの2ナノプロセスの技術は、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)の技術に対抗できる」(ムーアヘッド氏)
IBMは半導体チップ技術のブレークスルーを実現してきた長年の実績がある。ただし同社は、そうしたイノベーションを収益につなげることに必ずしも熱心ではなかった。同社は概して新技術の実現と特許使用料で満足し、イノベーションを自社製品に採用すること以外の収益機会を追求してこなかった。
「IBMの2ナノプロセスの半導体チップに関する興味深い問題は、同社が大規模に収益化しようとするかどうかだ」。調査会社Futurum Researchの創業パートナーでプリンシパルアナリストのダン・ニューマン氏はそう指摘する。
過去にIBMが実現した半導体分野のイノベーションは、同社の大幅な売り上げ拡大には結び付いていなかった。一方でニューマン氏は「2ナノプロセスの半導体チップの開発は、同社が研究開発の成果をしっかり収益化する体制に移行するチャンスだ」と指摘する。
「2ナノプロセスの半導体チップは、スマートフォンからスーパーコンピュータまで、幅広い機器に実装される」と、IBMのハイブリッドクラウドリサーチ担当バイスプレジデントを務めるムケシュ・カレ氏は見通しを示す。だが、この半導体チップの採用に関心を示す具体的なベンダー名は挙げていない。「この半導体チップは、幅広いアプリケーションのニーズに応えることができる。どのような製品に採用されても、この技術を生かした適切なプロセッサが作られるだろう」(カレ氏)
IBMの2ナノプロセスの半導体チップは、処理の大幅な高速化と省電力化により、同社製サーバの性能を高めるだけでない。AI(人工知能)技術を使うアプリケーション開発の加速や、「5G」(第5世代移動通信システム)と「6G」(第6世代移動通信システム)、エッジコンピューティング、量子コンピューティングといった分野の発展にも貢献する。
Samsung ElectronicsはIBMの長年のパートナーだ。IBMはSamsung Electronicsに2ナノプロセスの半導体チップの製造を委託する可能性がある。IBMは2021年3月下旬に、Intelと次世代半導体チップの設計やパッケージング技術の共同開発に関する提携を発表した。その取り組みの一環として、2ナノプロセスの半導体チップに関する協業も進みそうだ。2社の共同開発の取り組みは、半導体製造のエコシステムを形成してイノベーションを加速させ、アジアの半導体メーカーに対する競争力を維持することが目的の一つだ。
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