小売業と製造業が「5G」に“熱視線”の理由 具体的な用途は?:小売り、製造、医療を中心とした5G導入【中編】
複数の調査会社が、「5G」によってまず恩恵を受けるのは小売業や製造業であると指摘している。具体的にどのような用途が考えられるのだろうか。
2020年代に「5G」(第5世代移動通信システム)の恩恵を受けると予測される業界の一つに小売業界がある。特に人口が密集する地域では、陳列棚に取り付けるシェルフセンサー、レジなし決済、QRコードの利用といった取り組みを5Gが補完する見通しだ。
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最初に5Gの恩恵を受ける小売業界
調査会社IHS Markitは2019年11月に発表した調査レポート「The 5G Economy」で、5Gが世界経済にどのように貢献するかを解説している。その中で同社は、実店舗を運営する小売業者がオンラインショッピングサイトと効果的に競争する方法として、映像や情報をディスプレイに表示するデジタルサイネージを挙げている。例えば超高精細映像、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などと5Gを組み合わせた活用方法だ。これによって小売業者は、店舗内における顧客とのデジタルコミュニケーションを改善できる。
一方で調査会社Forrester Researchは、小売業界においてはスムーズな消費者体験を実現する点で5Gの恩恵があるという見方を示している。具体的には、5Gを使うことで次のような通信の仕組みを活用する。
- 拡張モバイルブロードバンド(eMBB)
- モバイルデバイスを使った高速大容量の通信
- 大規模マシンタイプ通信(mMTC)
- センサーやカメラなど多数のIoT(モノのインターネット)デバイスが接続する通信
- 超高信頼性低遅延通信(URLLC)
- 遅延が極めて小さく信頼性の高い通信
Forresterは5Gが販売前、販売中、販売後の仮想的かつ遠隔の顧客サポートにも役立つと指摘する。例えばVRやARの活用、店舗の壁や陳列棚をデジタル化するスマートスクリーン、モバイル端末によるクラウドサービスなどを取り入れた顧客サポートがある。5Gの普及に伴い、小売業界におけるサプライチェーンの透明性と効率性が向上するとも同社は予測している。IoTセンサーが至る所で使われるようになるからだ。
機運が高まる製造業への5G活用
生産設備をネットワークに接続することで生産性を向上させるスマート工場も5Gの恩恵を受けると考えられる。経営コンサルティング企業McKinsey & Companyは、スマート工場でデータ分析やAI(人工知能)技術、高度なロボティクス(ロボット工学)を活用すれば、工場全体の生産性を大幅に向上させることができると指摘している。あるアナリストは、製造業界が5Gのプライベートネットワークを導入してスマート工場における先進技術の活用を進める見込みだと説明する。
製造業の企業が5Gのプライベートネットワークを導入する際、主に2つの方法がある。1つは、5Gの周波数免許を取得し、独自の電波を用いて5Gネットワークを構築、管理する方法。もう1つは、通信事業者のパブリックな5Gネットワークから、ネットワークスライシング(仮想的にネットワークを分割する技術)によって専用のネットワークを調達する方法だ。
調査会社Technology Business Researchの主席アナリスト、クリス・アントリッツ氏は「2030年までに1000組織以上の企業や行政機関が5Gのプライベートネットワークを導入するだろう」と話す。ただし自動化の導入など5Gによる工場刷新を進めるには、数億ドル規模のコストが必要になる可能性がある。そのため短期的には、5Gのプライベートネットワークを利用するのは大規模な企業や組織に限られるだろうと、アントリッツ氏は指摘する。
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