農業版デジタルツインで農業の革新を目指すIGSの挑戦:ソフトウェアで育成を制御
ソフトウェアで定義したパラメーターで農作物の育成を制御し、品質や収穫量の向上と安定を図るIGS。農業にITを持ち込むことで見えてきた新たな可能性とは。
Capgeminiは2020年初め、垂直農法が間もなく現実になると予測した。垂直農法は土壌を使わず、(従来の農法に比べて)水をほとんど必要とせず、自然光と人工照明を組み合わせるため、従来の農業よりも持続可能な方法で作物を育てることが可能だといわれている。
Capgeminiのリュック・バードマン氏(デジタルイノベーションの専門家)は次のように記した。「SignifyやValoyaなどが開発している優れた照明ソリューションにより、垂直農法のコストが削減される」
スコットランドのIntelligent Growth Solutions(IGS)は、農家にメリットをもたらす技術の提供を目指すスタートアップ企業だ。IGSのデイブ・スコット氏(CTO:最高技術責任者)は言う。「技術は農業を置き去りにしている。何かシンプルなものを用意するだけでも農家に感謝される」
スコット氏は元エンジニアで、以前は世界中を飛び回って重機を修理していたという。「8年前、信じられないほどのビジョンととてつもないアイデアを持った農業経営者を紹介された」(スコット氏)
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コストをかけずにリアルタイムの制御と分析を構築するというのがそのアイデアだった。IGSはこの農場経営者の実践的農業経験とスコット氏の技術ノウハウに裏付けられた農業経済の知識から生まれた。
IGSは屋内管理型農業に重点を置いている。特定の農作物の育成条件について完全には解明していない。「光、栄養、空気、ガスの蓄積、水の循環、気象条件、雨など、その組み合わせは無限にあり、成長のあらゆる段階が異なる。植物科学は大いに誤解されている。植物よりも魚の仕組みの方が解明されている」(スコット氏)
農業では、知識は農家の人たちの頭の中にある。「農家の人たちは、農作物についての貴重な情報を持っている」(スコット氏)
IGSは植物科学者と協力して光、水、栄養素、湿度、温度などのパラメーターを変動要素とするレシピを開発した。パラメーターを微調整することで収穫量を増やし、品質を高め、野菜の貯蔵寿命を延ばすことができる。
工業機械のデジタルツインシミュレーションと同様、レシピのパラメーターを微調整すれば植物への効果を確認できるが、「組み合わせは無限にある」(スコット氏)という。
IGSが使う機械の多くは、何年もエラーを起こさずに動作するように設計されたプログラマブルロジックコントローラーを搭載している。ほんの数週間しか必要ではないかもしれない特定の機能には、堅牢(けんろう)性の低いセンサーも利用している。「こうしたセンサーを細かく管理してレシピを改善できる」とスコット氏は語る。
IGSは、植物を育てる機械とデータに基づくレシピを組み合わせて販売する。そのレシピは、植物の成長に影響するパラメーターをソフトウェアで定義する。「顧客は改善されたレシピを6週間ごとに受け取る。当社は、顧客が育てている農作物の改善点をクラウドによってピンポイントで提供する。南極でもサウジアラビアでも、農作物の成果は変わらない。プログラムで何でも育てることが可能だが、コストは異なる」(スコット氏)
IGSは2次元画像と3次元画像を撮影するカメラを使って農作物をスキャンする。センサーで水と硝酸塩を測定する。これらのデータは「Microsoft Azure」で照合される。
現段階では、植物のさまざまな成長パラメーターを変えてその影響を分析する作業は人手で行っている。スコット氏は次の段階として、新たなレシピの発見にAIを使うことを考えている。「機械が過去のデータを調べ、望ましい成果を得るために必要な変更点を提案することを考えている」
明らかにコストがかかる。少なくとも短期的には、そのコストはIGSが使うデジタル農業技術の拡張や垂直農法を提供する企業の増加を制限する可能性がある。「当社は世界を養うつもりはない」とスコット氏は話す。同氏は特定のニッチに目を向けて次のように述べた。「当社が適切なミネラルで適切なスーパーフードを育てることができれば、人々はそこに価値を見いだすだろう」
特定の農作物は、フードマイレージ(生産地から消費地までの距離)が問題になる可能性がある。何千マイルも離れた場所から輸入するのではなく、地元で栽培できるようになる可能性もあると同氏は補足する。香水や特定のワクチンの原材料を育てるというビジネスチャンスもある。
スコット氏との会話から、伝統的農業を助けるという応用分野も可能性として浮かび上がった。伝統的農業では大量のエネルギーが使われている。スコット氏はこうしたエネルギー要件に加えて次の点を指摘した。「天候が極端になっている。一方、厳しい商業条件を抱えるスーパーマーケットは農作物の十分な成長を求める。このバランスを正しく取るのは非常に難しい」
IGSの当面のロードマップには含まれないかもしれないが、完全に制御された屋内農業を利用してシミュレーションを行い、農家が農作物から適切な成果を得ることができるデータを提供する機会があるのは明らかだ。屋内農法を利用すればレジリエントな苗木を生育することも可能だとスコット氏は語る。
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