メジャーリーグが「AWS」ではなく「GCP」を使う理由:MLBがGoogleと実現する試合データ活用【後編】
MLBはセンサーを活用して選手やボールの動きを追跡している。こうして得たデータの用途とは何か。データの処理と管理に「Google Cloud Platform」を使う理由とは。担当者に聞く。
米プロ野球のMLB(メジャーリーグベースボール)は試合データ分析システム「Statcast」を利用して、試合中の選手とボールの動きを追跡し、観客や報道機関、チームに向けてそれらの分析結果を提供している。2020年にインフラをGoogleの「Google Cloud Platform」(GCP)に移行することで、Statcastに新たな機能を追加できるようになった。前編「メジャーリーグは『データ野球』をどう変えたのか 進化の歴史を振り返る」に続き、GCPを利用するMLBの狙いを説明する。
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Statcastは試合中に選手の身体の18カ所をセンサーで追跡し、各センサーから位置情報を取得する。MLBでStatcastのソフトウェア工学シニアディレクターを務めるロブ・エンゲル氏によると、MLBは1シーズン(約6カ月)で約30TBのデータを収集する。リアルタイムでこのデータを洞察に満ちた利用可能な情報にするには、データの収集と処理、提供を瞬時に実行できるインフラが必要だ。
メジャーリーグが「GCP」を使う理由
収集したデータの分析結果は、試合中のチームがデータ分析に基づいて選手を起用したり、戦略を立てたりするために、リアルタイムでチームに提供しなければならない。実況放送や統計情報の順位表、リーグの順位表などを管理するシステムに送り込む必要もある。各チームは、本塁打の飛距離や新記録といった、試合に基づく新情報を即座に可視化するために、こうしたデータを使う。
「打者がボールを打ったら、速やかに関連情報を提供したい」とエンゲル氏は言う。これまでで最長の飛距離なのかどうか、その選手の最長の飛距離なのかどうか、幾つの球場で本塁打になるのかを知りたいという。「例えば『新人選手のスティーブン・マッツ(2015年当時)がMLB昇格の初試合で、投手として初めて3安打4打点を記録した』といったこともすぐに分かるようにしたい」(同氏)
MLBの狙いは単なる情報提供ではない。同団体は視覚的に面白く、理解しやすい形で情報を提供することを目指している。「『データオタク』だけではなく、全てのファンが理解しやすい形で情報を提供したい」とエンゲル氏は言う。
Statcastで利用されているGCPサービスの一部を紹介する。
- オンプレミスでKubernetesを実行する「Google Anthos」が、球場でデータを収集、処理し、GCPのクラウドインフラに送信する。
- クラウドデータウェアハウス(クラウドDWH)サービスの「BigQuery」はリアルタイムでデータを処理するため、各チームとMLBは試合中に洞察を得ることができる。
- ビジネスインテリジェンス(BI)ツールの「Looker」は視覚的な分析が可能で、各チームとMLBの経営判断に役立つ。
MLBのデータ活用の可能性
エンゲル氏はMLBがGCPを選んだ理由として、
- Googleのビッグデータ管理ツールの豊富な実績
- MLBとGoogleのパートナーシップで築いた強固な信頼
- クラウドサービスの安価な利用料金
を挙げる。
「MLBのデータ分析能力は、全てのスポーツの中で最先端レベルになった」とエンゲル氏は言う。北米の4大プロスポーツのうち、米プロアメリカンフットボールNFL(ナショナルフットボールリーグ)と米プロアイスホッケーNHL(ナショナルホッケーリーグ)は、統計分析にAmazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群を採用している。米プロバスケットボールNBA(ナショナルバスケットボールアソシエーション)はMicrosoftとパートナーシップを結んでいる。
「他のスポーツと競争していきたい」とエンゲル氏は語る。「野球には統計分野における豊富な実績があり、データを視覚化するためのシステムがある」と同氏は指摘。選手の動きをリアルタイムで追跡している今、このデータで何ができるのかについて考えているという。
エンゲル氏はStatcastの追跡データの使い道の一つとして、仮想現実(VR)技術を挙げる。VRヘッドマウントディスプレイを利用すると、ファンは球場の観戦席のみならず、グラウンドの一地点から試合映像を視聴するといったことが、理論的には可能となる。
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