中小企業でも「ヘッドレスコマース」を諦めてはいけない理由とは?:ヘッドレスコマース vs. 従来型コマース【中編】
ECに注力する企業の中で、顧客接点となるフロントシステムとバックエンドシステムを分離させる「ヘッドレスコマース」の考え方が浸透しつつある。大企業のみならず中小企業においてもこれが有効である理由とは。
旧世代のEC(Eコマース:電子商取引)ソフトウェアは、Webブラウザでの利用を前提とし、コンテンツとオンラインストアを密接かつ直線的に制御していた。顧客設定となるフロントシステムとバックエンドシステムを分離させる「ヘッドレスコマース」においては、「ヘッド」(Webサイトやモバイルアプリケーションのプレゼンテーション層)が「ボディー」(コンテンツリポジトリ:各種コンテンツファイルのデータ群)から切り離される。
だから中小企業でも「ヘッドレスコマース」に取り組める
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ヘッドレスコマースでは、企業がストアを構築するのは1回だけで済む。開発者はビジネスの進展やニーズの拡大に合わせ、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を通じて新しいチャネルにオンラインストアを移植できる。Webブラウザやモバイルアプリケーションだけでなく、例えばSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やスマートスピーカー、さらにはモノのインターネット(IoT)などにもECを拡大可能だ。さらに言えば、実店舗にいる消費者にオンラインで買い物をしてもらうことさえできる。
ソースコードを全く記述しない「ノーコード開発」やわずかしか記述しない「ローコード開発」といったアプリケーション開発手法が流行する今日において、ヘッドレスコマースは受け入れがたいと考える人がいてもおかしくない。ノーコード/ローコード開発では、基幹業務システムのユーザーが開発者の助けを借りずに自由にWebサイトをセットアップし、バックエンドシステムに接続できる。しかしヘッドレスコマースは今まで通り開発者の関与を必要とする。Shopifyの「Shopify」やBigCommerceの「BigCommerce」などの中堅・中小企業に適した製品を使ったとしても、その点は変わらない。
ITサービス企業のPactera Technologies(Pactera Edgeの名称で事業展開)でインテリジェントエクスペリエンス部門のマネージングディレクターを務めるブライアン・バイヤー氏は次のように述べる。「ブランド企業が『WordPress』などのシンプルなCMS(コンテンツ管理システム)を使用してコンテンツを更新するなら、ノーコード/ローコード開発よりもヘッドレスコマースの方が、ずっと幅広いユーザーを受け入れられるようになる可能性がある」
Pactera Edgeが現時点で把握する範囲では、ヘッドレスコマースを採用しているのはほとんどが大企業だ。オンラインで突き抜けた存在感を放つことが重要なブランド企業もヘッドレス化を推進している。ただしバイヤー氏によれば、より規模が小さな企業においてもヘッドレスコマースを導入する場合がある。いかにもShopifyのテンプレートを基に構築したとみられるECサイトがあふれる中で、自社を目立たせるためにだ。
バイヤー氏は、ヘッドレスコマースが増加する背景として、Googleの「Angular」、Facebookの「React」、オープンソースの「Ember.js」といった各種フレームワーク(プログラム部品やドキュメントの集合体)の登場があると考える。これらのフレームワークを使用すれば、バックエンドシステムのアーキテクチャやインフラを変更することなく、頻繁な更新が可能になる。
「自社のECをやり直したいと考えるときは、誰もがヘッドレスコマースを希望する。あるいはヘッドレスという言葉を思い浮かべる」とバイヤー氏は語る。ヘッドレスコマースが適しているかどうかは、実際のところ自社の技術や成熟度、そして最終的に何を目指すのかによって異なる。「顧客基盤からB2B(企業間取引)の注文を受けるだけなら、既存のECソフトウェアのすぐに使えるテンプレートで十分ということもあり得る」(同氏)
調査会社IDCのアナリストを務めるジョーダン・ジェエル氏によれば、システムインテグレーターの中には「BigCommerceのアプローチこそがヘッドレスコマースの未来だ」と説明する者さえいる。「平均すると、小売業者はヘッドレスコマースを実装する方が、コストは高くなる」とジェエル氏は述べる。故に、差し当たって、このモデルを受け入れるとしたら中堅・中小企業の中でも比較的規模が大きいところになる。
もちろんシンプルなヘッドレスコマースサイトならば設定や保守が比較的安価になる可能性はあるとジェエル氏は補足する。WordPressをフロントシステムに使用する場合は特にそれが顕著だ。ただしSEO(検索エンジン最適化)やメールマーケティング、コンテンツパーソナライゼーション、製品レコメンデーション、モバイルサイトなど、やりたいことが増えれば増えるほど、コストは膨れ上がる。
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