銀行のクラウド移行を長年妨げてきた“ある障壁”とは?:クラウド移行に踏み切る銀行【前編】
銀行はクラウドサービスへの投資を躊躇(ちゅうちょ)する傾向にあったが、2022年度は変化があった。銀行のクラウドサービス移行を阻んできた原因と、新たに移行対象となり始めたアプリケーションとは。
調査会社IDCの調査によると、アジア太平洋(APAC)地域における92%の銀行が、2022年度の事業計画においてクラウドサービスへの投資額を2021年比で増やしたことが明らかになった。銀行のデジタル戦略において、クラウドサービスの重要性が高まりつつある。どのような変化が起きているのか。
何が銀行のクラウドサービス移行を妨げてきたのか?
APAC地域における銀行の93%が、2023年までにクラウド移行のターニングポイントを迎えるとIDCは予測する。オンプレミスインフラとクラウドサービスを併用するハイブリッドクラウドや、複数のクラウドサービスを併用するマルチクラウドでシステムを運用する銀行の動きが広がる見通しだ。
銀行のクラウドサービスへの投資を阻んできたのが、複雑な法規制だ。例えば、
- 規制当局による各規制が細分化されていることで社内の審査と承認に時間がかかる
- 規制の内容を一義的に解釈することが難しい
といった問題がある。このような問題を踏まえると、銀行がクラウドサービスへの投資額を増やすことは大きな前進だと言える。
「クラウドサービスがアプリケーションのインフラになっている」。IDCで金融分野の調査を担う組織IDC Financial Insightsのアソシエイトバイスプレジデント、マイケル・アラネタ氏はこう語る。ミッションクリティカルなアプリケーションにおいても同様の動きがあるという。アラネタ氏によれば、どのアプリケーションをクラウドサービスに移行すればビジネス価値を最大化できるのか、優先順位を付けることが銀行にとっての重要な課題となっている。
銀行がクラウドサービスへの移行で優先しているのは、銀行特有のアプリケーションではなく、他の業界にも共通するアプリケーションや機能が中心だとIDCは指摘する。例えば以下のようなものだ。
- 財務アプリケーション
- バックオフィス機能
- コンタクトセンター機能
- ERP(統合基幹業務システム)
- 電子メール
ただし、銀行特有のアプリケーションや機能もクラウドサービスへの移行対象となっている。代表的なアプリケーションや機能は以下の通り。
- 消費者および小中規模企業向けの住宅ローンの編成アプリケーション
- バンキングアプリケーションのサイバーセキュリティ機能
- 金融取引における不正行為の検出と防止の機能
- 銀行の支店スタッフが対面応対時に利用する機能
- チャットやビデオなどのデジタルサービスチャネルの機能
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