「AI兵器」を巡る国際協議が“失敗”に終わらざるを得ない2つの理由:軍事AIを巡る動き【第3回】
AI技術を組み込んだ自律型兵器の使用を巡り、国際的な協議が進行中だ。一方でそうした協議を「失敗」だと見なす意見も挙がる。その理由を紹介する。
自律型致死兵器システム「LAWS」(Lethal Autonomous Weapons Systems)に関する国連レベルでの専門家間協議は失敗に直面している――。2022年7月、ドイツ国際安全保障研究所(German Institute for International and Security Affairs)はそうコメントした。背景にある問題とは何か。
国際協議が「失敗」だと言われる理由
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連載:軍事AIを巡る動き
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国連の政府専門家会合(GGE:Group of Governmental Experts)は、2017年から自律型兵器システム(AWS:Autonomous Weapons Systems)についての議論を重ねてきた。国連がAWSを規制する可能性は徐々に薄くなってきており、協議を失敗と見なす代表者もいるという。背景には、国際的コンセンサスの欠如がある。
1つ目の懸念は、GGEにおけるロシアの不在だ。同会合は、満場一致を意思決定の条件と定めている。2022年2月に始まったウクライナ侵攻以来、ロシアは同会合の協議に参加していない。そのため、LAWSに関する国際的議論には別の公開議論が必要だ。一方でそもそも、ウクライナ侵攻前から、同会合が合意に至ることは困難だった。LAWSの正確な定義や関連用語についての意見対立があったためだ。
2つ目の懸念は、米国やロシア、中国の新しい技術分野における軍拡競争だ。ノースイースタン大学(Northeastern University)の教授デニス・ガルシア氏と博士号取得候補者のジャスティン・ヘイナー氏は、2019年9月にレポートを発表した。その中で「自律型兵器技術の活用を推進しているのは、米国と中国、ロシア、韓国、EU(欧州連合)だ」と指摘する。
レポートによると、米国は2010年時点でAWSの研究に約40億ドルを投資していた。加えて2020年までの予算に約180億ドルを割り当てたという。
一方で異なる姿勢を示す国もある。米国議会調査局は2022年11月に軍事技術に関するレポート「Emerging Military Technologies: Background and Issues for Congress」を発表。これによると、約30カ国と165件の非政府組織(NGO)は、責任の欠如のリスクや紛争に関する国際法への非準拠といった倫理的懸念を理由に、LAWSの使用禁止を求めている。
ヘイナー氏とガルシア氏は、自律型兵器に関する技術が急速に普及することで、テロリストや独裁者による戦術拡大支援や、民主的平和の弱体化といったリスクが強まる可能性があると指摘する。それだけでなく自律型兵器には、判断の偏りやハッキング、故障といった問題が起きやすい傾向にあるため、自律型兵器の機能の監視が極めて重要だ。
第4回は、AI技術を組み込んだ自律型兵器が実戦で利用された事例を紹介する。
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