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女性が辞める理由と「賃金格差」の根深い関係 なぜIT業界は男性ばかり?英国のIT業界に「女性離れ」の波【中編】

英国IT業界では女性労働者の業界離れが進行している。「DEI」の取り組みは拡大しているが、社会には「賃金格差」という根深い問題がある。

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 英国国家統計局(ONS)が2023年8月に公開した産業別・性別別の雇用データによると、2023年第1四半期(1月〜3月)から第2四半期(4月〜6月)にIT業界の労働者は男女合計で約8万5000人増加したが、女性労働者だけを見ると約3000人減少していた。IT業界で女性が働き続けることを困難にしている要因は何なのか。

女性が離職を選んでしまう理由と「賃金格差」の根深い関係

 IT業界における女性の離職と関連が強いと考えられるのは、男女間の賃金格差だ。ONSが2023年3月に公開した資料「Gender pay gap reporting guide」によれば、英国の全業界における男女間の賃金格差は14.9%だった。IT業界に焦点を当てても、男女間には顕著な賃金格差がある。調査会社の50inTechとFiguresが2023年に公開した資料「The Gender pay Gap Guide」によると、英国のIT業界における男女の賃金格差は26%だ。ドイツの場合は22%、オランダは20%、フランスは15%だった。

 賃金格差によって生じる問題について、人材コンサルティング企業Nash Squaredでテクノロジーとデジタルの管理職スカウト部門の責任者を務めるリリー・ハーケ氏はこう説明する。「家族の中で誰が働くかを決める場合、高い報酬を得られる人を選ぶはずだ。つまり男女に賃金格差があるのなら、選ばれるのは男性になる」

 もう一つのポイントは、コスト削減を目的に人員整理をする動きがあることだ。コスト削減を理由に、雇用契約を更新しない事態につながる可能性はある。「『契約更新されないのは女性の方が多い』とまでは言えないものの、一般論としてNash Squaredの求職名簿に登録する女性は増えている」とハーケ氏は語る。

 IT業界で女性の定着率が低い背景には、他にも根深い問題がある。職業相談サイト「womenintech.co.uk」(Free-Work Groupが運営)が2023年度に実施した調査「Women In Tech Survey 2023」によると、職務経歴10〜20年の女性労働者のうち56%がIT業界を離れている。この割合は、男性の2倍だという。子どもを抱えている女性はこの「職務経歴10〜20年」の間、母親業を兼務しているようなものだ。「母親になる」という出来事は、仕事を完全に辞めるか、契約社員のように時間の融通が利く働き方を選ぶか、大きな変化のターニングポイントになる。

 見落としがちな要素は、会社への帰属意識の有無だ。恵まれない生い立ちの若者に教育、トレーニング、メンタリングを提供する慈善団体SEO Londonで最高責任者を務めるナタリー・リチャーズ氏はそう指摘する。

 企業が「DEI」(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)の施策を適切に進めているなら、自社に帰属意識を感じる貴重なプロフェッショナル人材を獲得できるはずだ。しかしリチャーズ氏によれば、IT業界の女性のほとんどは、自身が上級幹部になれるとは思っていない。「メンタリング、コーチング、サポートが不足していると感じていたり、同僚からの仲間意識やサポートを実感できなかったりする女性は多い印象だ」(リチャーズ氏)


 後編は、女性従業員の定着率を向上させるための取り組みについて解説する。

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