実は深刻な「AIに仕事を奪われる」恐怖症、人を大事にするマネジメントとは?:AIがもたらす離職リスク
調査によると、「AIに仕事を奪われる」という恐怖心に起因する生産性低下の損失は数百万ドル規模になる可能性がある。従業員に不安を与えずにAI技術を普及させるために、経営層はどのような配慮が必要なのか。
AI(人工知能)技術の普及が進むにつれて雇用喪失が生じ、自分の仕事がいつかAIに奪われる――こうした「AI技術に対する雇用不安」を抱いている従業員ほど、離職を考える傾向があるという。ただしAI技術が普及する速度は企業によってまちまちであり、こうした雇用不安も一律に発生しているわけではない。
調査会社Gartnerは2023年10月に米オーランドで年次カンファレンス「Gartner ReimagineHR」を開催した。同社アナリストのヘレン・ポワトバン氏がカンファレンスの場で公開した調査データによると、AI技術に自分の仕事を奪われることを恐れている従業員は、そう考えていない従業員に比べ、「自社で長く働きたい」という意識が低かった。
「AIに仕事を奪われる」といううわさ話は離職リスクに
「こうした職場定着志向の低さは離職につながりかねない。離職と生産性低下に伴う企業の出費は、年間で数百万ドル規模になることがある」とポワトバン氏は指摘する。
Gartnerの予測によると、従業員がAI技術に恐怖心を抱いて離職や生産性低下を招くことは、従業員1万人の企業の場合、年間5300万ドルの損失に及ぶ。
米国学術機関の統合団体である全米アカデミーズ(United States National Academies)が2023年10月に公開したウェビナー「AI in the Workplace: Implications for Mental Health」でも同様に、AI技術の普及が離職リスクにつながるという意見が見られた。英ラフバラー大学ビジネス校(Loughborough Business School)の労働心理学教授であるエバ・セレンコ氏をはじめ、複数の専門家が同様の懸念を示す。「従業員は『AI技術が自分の業務を変化させたり、現在の職場における自分のポジションに取って代わったりするかもしれない』という不安を感じている。その従業員が高度なスキルを持っていれば、転職を考える可能性は非常に大きい」とセレンコ氏は話す。
企業が取り組むべき対策の一つは、AI技術の導入に関して「従業員が不確かな推測をしないようにすること」だとセレンコ氏は主張する。従業員が「自分たちはもう不要なのか」「もう何の発言権もないのか」と感じるようになると、仕事に対する不安が生まれ、それが原因で退職を決意する可能性が高くなるためだ。
研究機関MITREのスー・マレー氏もセレンコ氏の意見に同意する。マレー氏は企業の変革や戦略に関する専門家として、「経営者が従業員の不安を和らげるためにできることは、その企業がAI技術をどう利用するかを明確にし、透明性を持たせることだ」と助言する。
Gartnerのアナリストであるグレアム・ウォーラー氏は、Gartner ReimagineHRの講演の場で「AI技術は職場にパラドックス状態を作り出す」と述べた。AI技術は職場を混乱させる一方で、従業員を単純作業から解放し、働き方を大幅に改善する可能性がある、ということだ。
調査会社Forrester Researchは2023年8月に公開した調査資料「Forrester's 2023 Generative AI Jobs Impact Forecast, US」で、米国の雇用の4.9%が2030年までに自動化技術やAI技術に取って代わられると予測している。この状況を、同資料は「AI技術はホワイトカラー職を追いかけている」と表現している。
テキストや画像などを自動生成するAI技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)を導入する場合、まずはサブスクリプション型オフィススイート「Microsoft 365」に付属する生成AIツール「Microsoft 365 Copilot」を利用する企業が少なくないと考えられる。Forrester Researchの予測では、Microsoft 365 Copilotを利用する米国のナレッジワーカーは2024年末までに約690万人に達する見込みだ。
Forrester Researchは「近い将来においては、AI技術がそれほど多くの仕事を奪うことはない。だがいずれは事務職や管理職に影響を及ぼす」と予想する。同社アナリストのJ・P・ガウンダー氏は「雇用喪失の予測値は、実際の雇用喪失の値よりも多くなっているのが常だ。それがAI技術と雇用の歴史だ」と語る。
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