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「生成AI」対「法規制」 企業はどう備える?トムソン・ロイターが考える倫理的なAI活用【後編】

生成AIの進化とともに、生成AIを安全に利用するための法規制も日々洗練されている。Thomson Reutersでデータガバナンスを管轄する経営幹部が重視する「監視体制」と心構えのバランスは。

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 カーター・クシノー氏は、経済や金融などさまざまな分野で情報サービスを提供するThomson Reutersの経営幹部だ。クシノー氏の役職はデータおよびモデルガバナンス担当バイスプレジデントであり、その役割はデータ分析基盤の構築から、安全なAI(人工知能)技術活用の推進、データガバナンスの周知徹底まで、幅広い領域にわたる。

 技術革新の進歩に伴い、それを利用する際のポリシーや業界標準も継続的に変化している。クシノー氏が目下取り組んでいるのは、エンドユーザーの指示を基にテキストや画像、音声などのデータを生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)を、企業が安全に利用する仕組みの構築だ。同氏が注視する、AI関連の法規制の動向は。

AI技術の法規制に揺れる産業界 データガバナンスに必要な「監視体制」は

 クシノー氏にとって大きなミッションの一つが規制への順応だ。同氏は生成AIの進化に応じて企業の助けになり得る法律が制定される可能性を見据え、「今後2年間の主要優先事項は、規制とその施行に関連している」と話す。「世界各地で、AI技術に関する新しい法律が施行待ちの状態になっている。既に幾つかの法律が施行されており、今後さらに多くの法規制が登場するはずだ」(同氏)

 欧州連合(EU)の「一般データ保護規則」(GDPR)だけではなく、欧州議会においてAI技術を包括的に規制する「Artificial Intelligence Act」(AI Act)がカナダや米国の各州で制定されようとしていることについてもクシノー氏は注視している。それを受けて「Thomson Reutersはこうした全ての規制を取り込み、計画を策定している」と同氏は説明する。そのため、新たな規制が制定された場合でも、同社では新規制に対処する準備が整っているという。「Thomson Reutersは、絶えず新しいデータを用いて新しいモデルを構築している。そのため今後1年半の主な焦点は、ビジネスの変革を促進できるように、適切な監視体制とバランスを確保することだ」(同氏)

 Thomson Reutersが分析のために作ったデータとデータモデルは、自社だけではなく外部のエンドユーザーが利用することもある。その一例が、法曹・法務担当者向けの判例データベース閲覧サービス「Westlaw」だ。Westlawには、エンドユーザーが求める情報についてのアラートを受信できる機能がある。エンドユーザーが指定した法律に対して、改正や更新、削除があるかどうかをWestlawがデータベースと照合し、検出したら公布や施行のタイミングでメール通知を送る仕組みだ。

 従業員や外部のエンドユーザーが、Thomson Reutersのデータモデルをどのような方法で使用するとしても、クシノー氏のチームは「責任あるAI」のポリシーが確実に適用される仕組みを構築した。責任あるAIは、AI技術の利用において公平性や透明性、安全性の確保を考慮する考え方のことだ。「生成AIの新たな可能性が現れるにつれて、こうした仕組みを構築したことがいかに重要だったかが証明されることになる」と同氏は説明する。全てのデータモデル利用事例で、GDPRが掲げる「データ保護影響評価」(個人データの処理の前に実施される、個人データ保護に関する影響評価)を実施することが望ましいというのが同氏の考えだ。

 クシノー氏は「情報と洞察の安全な活用」を軸としてキャリアを築いてきた経験から、生成AIを中心とする新しい取り組みに関心を寄せる。ただし同氏は「興奮を慎重に抑え、『ITが全ての解決になる』とは考えず、頼り過ぎないようにすべきだ」と警告する。その上で、「人々の働き方を改善する方法は間違いなくある。だが情報を信頼することには誰もが注意する必要がある」と続ける。その好例が「ハルシネーション」だ。ハルシネーションはAIが事実に基づかない情報を生成する現象のことで、「機械がエラーを起こしたことをうまく言い換えているに過ぎない」と同氏は話す。

 人間が関与できる状況で生成AIを使用し、生成されたコンテンツをどこかに送る前にレビューする機会があるのであれば、業務効率を向上できる余地はある。「これまで何時間もかかっていた作業は、今後はるかに短縮される可能性がある」とクシノー氏は期待を寄せる。

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