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専門家がそっと教える「事業目標を設定する10ステップ」いまさら聞けない「事業目標の立て方」【後編】

事業目標を設定するに当たって、どこから情報を調達し、どのような過程を踏めばよいのか。専門家の声から、適切な事業目標を設定するための10ステップを紹介する。

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 事業目標の設定は、経営層にとって悩ましい問題の一つだ。事業目標を設定する上で役立つフレームワークやノウハウについて、専門家が推奨する「10ステップ」を紹介する。

ステップ1.SWOT分析を使って自社の現状を評価する

 事業目標を設定するに当たって必要なのは現状の把握と、業界、市場、経済、人口動態の影響などの評価だ。企業の状態を分析したり測定したりする方法として一般的なのが「SWOT分析」だ。SWOT分析は、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)という切り口で、プロジェクトや製品、組織、個人の実行可能性に影響を与える要素を分析するフレームワークだ。例えば以下の分析に役立つ。ベンチマークテストや市場分析を通じてさらなる洞察を手に入れることも可能だ。

  • どの事業が順調で、どの事業には改善が必要なのか
  • どのような市場、製品、サービスが自社の成長につながるのか
  • 自社の存続を脅かす課題や、競合する要素はあるか

ステップ2.社内外に情報提供を求める

 アイオワ大学ティッピー経営大学院(University of Iowa Tippie College of Business)でリサーチプロフェッサー兼幹部教育の担当ディレクターを務めるスティーブン・コートライト氏は「経営層はマネジャー層ともっと話をすべきだ」と指摘する。業務の最前線にいるマネジャー層は、経営ビジョンの実現に貢献するための目標を設定する立場であると同時に、たとえその目標が野心的であっても達成可能かどうかを見極められる立場だ。「事業目標は企業のミッションと足並みをそろえるものであり、従業員がやるべきことを明示し、やる気を引き出すものでなければならない」とコートライト氏は補足する。

 ベテランから新人まであらゆる従業員に意見を求めることで、有益な洞察を得られる可能性もある。社外の関係者に意見を求めることも重要だ。「顧客や取引先と面談する中で、価値あるフィードバックや意見を得られる場合もある」と、IT調査会社Info-Tech Research Groupのインダストリープラクティスでシニアリサーチアドバイザーを務めるジェニファー・ジョーンズ氏は語る。

ステップ3.具体的な事業目標を設定する

 SWOT分析から得た内容に基づいて、具体的な事業目標を設定する。「事業目標は『市場で勝ち残るために必要な取り組みは何か』という問いに対する答えであることが望ましい」。コンサルティング企業UST GlobalでCTO(最高技術責任者)兼データサービス責任者を務めるニランジャン・ラムサンダー氏はそう話す。

ステップ4.事業目標ごとに期限を設定する

 事業主や経営陣は、短期、中期、長期の事業目標を設定し、カテゴリまたは目標ごとに期限を明確に定める。

 期限を決める際は、業界や市場ごとの要因を考慮することが重要だ。例えば変化のペースが速い業界の企業や、スタートアップ(創業間もない企業)であれば、期限はタイトなものになり得る。経営基盤が安定している企業なら、期限を長めに設定することが可能だ。

ステップ5.「SMART」などのフレームワークを活用する

 「SMART」は、具体性(Specific)、測定可能性(Measurable)、達成可能性(Achievable)、実現可能性(Realistic)、期限の明確さ(Time-bound)という5つの要素に基づいて組織や個人の目標を設定する手法だ。SMARTは特に有名だが、ジョーンズ氏によると、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)、法律(Legal)、環境(Environmental)を分析する「PESTLE」も有益なフレームワークだ。潜在的な事業目標を明らかにしたい場合は、以下の要素を基に事業の構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」が役に立つ。

  • 顧客セグメント(Customer Segment)
  • 価値提案(Value Propositions)
  • チャネル(Channels)
  • 顧客との関係(Customer Relationship)
  • 収益の流れ(Revenue Streams)
  • リソース(Key Resourses)
  • 主要な活動(Key Activities)
  • パートナー企業(Key Partnership)
  • コスト構造(Cost Structure)

ステップ6.指標に基づいて事業の進捗を管理する

 「マネジャー層が事業目標を設定する際には、進捗(しんちょく)をどのように測定するかを検討することが不可欠だ」。コンサルティング企業/国際会計事務所KPMGでアドバイザリー部門のナショナルマネージングプリンシパルを務めるアーテフ・ゼイム氏はそう語る。メトリクス(指標)の選定においては、すでに設定した事業目標と事業計画に応じて既存のメトリクスを活用するか、新しいメトリクスを生成するかを検討する。

 OKR(目標と成果指標:Objectives and Key Results)を利用し、目標達成までの進捗を測定することも「有用な取り組みだ」とコートライト氏は説明する。

ステップ7.社内に事業目標を浸透させる

 事業目標と事業計画を統合し、マイルストーン(中間目標)を設定することが目標の達成を後押しする。「事業目標は経営層が策定する。その内容を全社で共有し、目標の達成に向けて各部門がどのような取り組みを実施すべきかを検討できるようにしなければならない」。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院でプリンシパルリサーチサイエンティストを務めるジョージ・ウェスターマン氏はこう指摘する。部門や個々の従業員が担う役割と責務が事業目標にどのように影響するかを「全社一丸となって理解する必要がある」とウェスターマン氏は主張する。

ステップ8.事業目標の管理に役立つツールとソフトウェアを選定する

 事業目標の設定やその到達度を計測するソフトウェアは幾つかあり、データの視覚化に関する機能やシステム連携などの面で、それぞれに特色がある。目標達成までの活動を支援する機能を持った製品もある。必要に応じたソフトウェアを選び、利用するとよい。

ステップ9.事業目標の進捗状況を定期的に追跡する

 「事業目標があることでビジョンを実現でき、事業についての説明責任を果たせるようになる」。こう語るのは、調査会社Gartnerでディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリストを務めるアービング・タイラー氏だ。

 目標地点に到達するためには、自社が正しい方向に向かって進んでいるか、想定する結果に予定通りに進むことができているかどうかを定期的に確認する必要がある。

 とはいえ、事業の最中にトラブルに見舞われたり、予想もしなかったような技術に出会ったり、想定外の事態に遭遇したりすることもある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の発生は、その最たるものだ。そのような場合には事業目標の調整や再設定が欠かせないことを、経営層は理解する必要がある――と専門家たちは口をそろえる。

ステップ10.マイルストーンを確認する

 事業目標の進捗から成果を見いだし社内に共有することで、部門や従業員同士の連携を強め、やる気を高められる。全社会議といった情報共有の場は、全従業員の貢献が事業目標の達成に欠かせないことを伝える機会になる。

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