メタバースがいくら話題になっても「安易に使ってはいけない」理由とは?:いま考えるべきメタバースの安全性【前編】
メタバースの活用が広がる中で、その安全性についての議論が十分に進んでいない。市場への参入を考えている企業や、メタバースを利用する消費者は、ある問題を知っておく必要がある。
仮想空間「メタバース」には、ビジネスにおける新しいコミュニケーション手法として企業も消費者も関心を寄せている。メタバースは、対面やオンラインによる従来のコミュニケーションの限界を超えた、より没入感のある、パーソナライズ化された体験を提供できるからだ。
一方で、メタバースのリスクに関してはまだ十分に知られていない。企業や消費者が、メタバースを利用するに当たって考えるべき“ある問題”について解説する。
メタバースに潜む“あの問題”とは
メタバースは、ギリシャ語で「超越」を意味する“メタ”と、「宇宙」を意味する“バース”を組み合わせた造語だ。ユーザーはメタバース上で、アバターを介して他のユーザーとの交流や取引ができる。
メタバースには大きく分けて2つの形態がある。
- 仮想現実(VR)
- VR技術は、「人工的な現実」を作り出すことができる。ヘッドセットでユーザーの視野を完全に占領し、没入型体験を提供する。体の動きや声をトラッキング(追跡)させれば、手などの身体の部位を動かすことで仮想空間上の物体を触ったりアバターを操作したりできるようになる。
- 拡張現実(AR)
- AR技術は、スマートグラスなどを用いて、現実世界の上に仮想空間の情報を重ね合わせることが可能だ。VRよりも没入感は低いものの、現実世界とやりとりできるという特徴がある。
- 例えば、スマートフォンのカメラに映った風景にナビゲーション情報を重ね合わせて案内する地図アプリケーションがある。
今後、メタバースを利用する際の懸念として大きくなると考えられるのが「プライバシーリスク」だ。
メタバースの「プライバシー問題」とは?
メタバース市場に参入する企業やユーザーに影響のあるプライバシーリスクとして、以下のようなものがある。
- 規制の欠如
- メタバースは新しい技術であり、法整備が追い付いていないため、企業やユーザーがどのようにデータを扱うべきかが明確に決まっていない。
- データ収集プロセスの不透明性
- メタバースは、ユーザーの動きや位置、声、視線などさまざまな情報を収集する。これらの情報がどのように使われるか、誰に共有されるかについて透明性の確保が必要となる。
- ユーザーのデータの権利と所有権
- ユーザーは、自分のデータがどのように使用されるか、誰が所有しているかを知る権利がある。だが、メタバースではこれらの権利が明確に定義されておらず、ユーザーが自分のデータをコントロールすることが難しい場合がある。
- メタバースにおける現行規制の解釈
- メタバースにおいて、既存のプライバシー規制が適用できるかどうかが課題となる。例えば、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)や米国の「カリフォルニア州消費者プライバシー法」(CCPA)などの現行規制を、メタバースに適用する際の具体的なガイドラインが必要だ。
- ユーザー間のプライバシー
- メタバース内でユーザー同士が交流した情報(チャット内容や取引履歴)が第三者に漏れる可能性がある。
- 未成年者のプライバシー
- メタバースには未成年者も参加するため、それに適したプライバシー保護が必要だ。未成年者のデータをどのように扱うのか、どういったときに保護者の同意が必要なのかといった、特別な配慮が求められる。
事業者としてメタバースへの参入を計画している企業は、以下2つのポリシーを集約し、顧客が理解しやすいプライバシーフレームワークに落とし込む必要がある。
- プラットフォーム提供企業のプライバシーポリシー
- 自社のプライバシーポリシー
適切なプライバシー管理を実施しないままトラブルが発生すると、メタバース内のユーザーだけでなく、現実世界の顧客との信頼関係も崩れてしまう可能性がある。
反対に、メタバースにおけるプライバシー管理の黎明(れいめい)期に、問題を分かりやすく説明してユーザーの不安や疑問を解消できる企業は、顧客との強固な信頼関係を築くことができるだろう。
後編は、メタバースの安全性確保に向けた5つのステップを解説する。
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