「6Gの正体」が見えてきた――オウル大学の研究が示す“無線通信の可能性”:6Gの最前線で起きていること【後編】
フィンランドのオウル大学が中心となっている6Gの研究開発プロジェクトから、6Gの方向性が見えてくる。6G によって通信やアプリケーションの利用はどう変わるのか。
フィンランドのオウル大学が推進する「6G」(第6世代移動通信システム)に関する研究プログラムおよび産学連携の組織である「6G Flagship」では、6Gの技術だけでなく、6Gを生かしたアプリケーションやサービスについても研究が進められている。
6G Flagshipのディレクター、マティ・ラトヴァ・アホ氏は、6G Flagshipについて次のように語る。「約100人の研究者が1つの学部で働き、無線通信から材料工学、機械学習のアルゴリズムなどのAI(人工知能)技術、アプリケーション、サービスまで、さまざまな分野を研究している」。同研究は、6Gによって何を実現しようとしているのか。
オウル大学の研究から見えてきた「6Gの正体」とは
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連載:6Gの最前線で起きていること
見えてきた6Gの正体
6G Flagshipには、以下のような戦略的研究分野がある。6G Flagshipは技術基盤を確立した後は、アプリケーションの開発に焦点を当てる計画だ。
- 無線アクセス技術
- ミリ波やテラヘルツ波といった周波数帯を扱うためのネットワークアーキテクチャやデバイス、回路技術
- 速度や遅延を改善するための新技術
- 分散型インテリジェント無線コンピューティング
- 機械学習などのAI技術を効率的に分散して実行する方法や、デバイス間での協調動作を促進させてネットワーク全体の性能を向上させる技術
- 持続可能な人間中心のサービスおよびアプリケーション
- 遠隔医療やウェアラブルデバイスによる健康モニタリング
- 拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を用いたメディア体験など人間の生活を向上させるためのサービスや技術
アホ氏は「特に無線接続が重要な分野だ」と述べる。6G Flagshipの目標を実現させるためには、無線信号の伝送方法や、ネットワークの機能、必要なデバイス、回路技術などについての研究を進める必要がある。
6Gで実現するサービス
アホ氏は次のように強調する。「どこに住んでいても、裕福でなくても、全ての人に6Gの接続を提供する必要がある」。この考え方の下で、オウル大学の研究チームは、6Gを研究する際に以下のテーマを持っている。
- ユビキタス接続(いつでもどこでも接続できること)
- AIおよび通信システム
- 統合センシングおよび通信(ISAC)
- ISACは無線通信と複数のセンサーをシームレスにつなげることで、センシングをより高度にする概念
オウル大学の研究チームは、健康と医療、エネルギー、セキュリティと防衛など、特定の産業分野での展開を目指して研究を進めている。防衛と医療はネットワークに信頼性と低レイテンシ(遅延)を特に求める分野であり、6Gでは5G以上にこれらの特性を強化する必要がある。
アホ氏によれば、地方やへき地でも6Gが利用できるようになるには無線技術も重要だが、政治や経済、社会的な協調も必要だ。同氏は6Gのプライベートネットワーク「プライベート6G」(ローカル6G)について、教育施設、空港、病院などに周波数免許を許可するかどうかが検討事項の一つになると指摘する。
オウル大学の研究チームと6G Flagshipは、6Gを利用したアプリケーションで社会全体が利益を享受できるようにすべきだと考えている。例えば、6Gを利用したアプリケーションによって医療費を削減できる可能性があるという。
今後に期待が掛かる通信技術は6Gだけではない。無線LANの次世代規格「IEEE 802.11be」(Wi-Fi 7)も登場している。とはいえ、一般的なエンドユーザーは6GだろうとWi-Fi 7だろうと、どの接続方法を使用しているかは気にしない。
アプリケーションの価値を高めるためには、「誰が」「どこで」「何をしているか」という情報が重要だ。ユーザーが工場や病院などどこにいるのか、その場所で何をしているかに応じて、必要とされる通信サービスやアプリケーションが変わる。人や場所、状況に応じて適切なアプリケーションを提供するには、さまざまな分野の企業が協力する必要がある。
開発者はサービスの背景情報に焦点を当てる必要がある。空港やスポーツ会場、病院、家庭と、場所や状況に応じて異なる接続とアプリケーション必要になる。「サービスとネットワークアーキテクチャの進化はゆっくりとだが進行している」(アホ氏)
機械学習を含むAI技術の分野では、オウル大学はネットワーク機能の最適化と、無線ネットワークの分散性を利用したAIアプリケーションの開発に取り組んでいる。AIアプリケーションをクラウドインフラで処理する場合、いかに動作にリアルタイム性を持たせるかが課題になる。同大学はデータの収集からAI処理までをリアルタイムで実行できる無線ネットワークとAI技術の研究を進めている。
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