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Pythonの「GIL」廃止で“悪夢”がよみがえる? 代わりに台頭する言語はPython破滅への一歩か?【後編】

開発の制約を取り除くために、「Python」での「GIL」廃止が現実味を帯びてきた。ただしこの方針は、過去と同様の混乱を招くだけではなく、ユーザー流出の恐れもあると有識者は警告する。

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 プログラミング言語「Python」の成長に伴い、往年の課題である「GIL」(Global Interpreter Lock)の制約が顕在化してきた。GILはCPython(Pythonの標準実装)が持つ仕組みで、複数のスレッドが同時にPythonプログラムを実行することを妨げる。これはマルチコアCPUの効率的な活用を困難にする要因となっている。

 この問題に対処するため、Pythonの新機能や仕様に関する提案文書「PEP 703」は、GILを段階的に廃止することを提唱した。この変更によって、Pythonの並列処理能力が向上する可能性がある一方で、既存のソースコードやライブラリ(プログラム部品群)への影響も生じることになる。その影響は小さなものではなく、深刻になるというのが筆者の見方だ。どのような問題が起こり得るのかを考えてみよう。

「Python 3」の悪夢再び?

 一部のPythonライブラリの管理者は、こうした事態に既視感を覚えるはずだ。「Python 2」から「Python 3」へのアップデート時、両バージョン間での互換性が確保されなかったため、開発者はプログラムのアップデートを迫られることになった。GILの廃止は、開発者にこれと同様の経験を強いる恐れがある。

 Python 2からPython 3への移行において、開発者が互換性の問題に対処するための時間は限られていた。移行以外の代替手段がなく、Pythonに依存していたIT部門は、まとまったコストを投じて、Pythonのバージョンに取り組まざるを得なかった。

 こうした経験を持つPythonユーザーは、GILがあるバージョンからGILがないバージョンへの移行に際して、同じ経験を繰り返す気にはなれないのではないか。

 幸い、今回は状況が異なる。PEP 703が示す計画では、GILの廃止は2028〜2030年になる見込みだ。開発者やアーキテクトには、この変更に対して計画を立てる時間があると言える。Python以外のプログラミング言語に乗り換える計画を立てることも可能だ。

救世主は「Mojo」

 PythonからGILが廃止されることになれば、プログラミング言語「Mojo」が移行先の候補になる。

 Mojoは原稿執筆時点で開発中だ。Mojoの開発チームはMojoがPythonとの完全互換性を持つように設計することを目指している。そのため基本的にはPythonで記述したソースコードをMojoの文法で書き直す必要はない。

 AI(人工知能)技術に関するさまざまなプログラムの開発で活躍が見込めるのもMojoの利点だ。PCのCPUで動作するPythonプログラムから、GPU(グラフィックス処理装置)を用いたプログラミング向けの開発者ツール群「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)を使用するプログラムまでを開発できる。Pythonで並列処理が可能になることで修正が必要になる「C」「C++」といったプログラミング言語の関数も、Mojoで書き直すことが可能だ。オープンソースの機械学習ライブラリの幾つかは、既にMojoに移植されている。

 筆者はこれまで「Mojoの正式バージョンが公開されたら、AI関連の新規プロジェクトはPythonではなくMojoで開発される」と主張してきた。Mojoでの開発は、CPythonを前提にしなくてもよいからだ。PythonでGILが廃止された場合も同様に、ソースコードの書き直しやコードベース(ソースコード群)の長期的な保守性を考えなければならなくなったプロジェクトリーダーが、Mojoに移行する可能性がある。

筆者からの忠告

 Pythonの進化が遅いことに不満を感じているPythonコミュニティーの開発者は一定数いる印象だ。一部の開発者はGIL廃止の提案文書を見て、「ようやくGILがなくなる」と沸き立っているが、筆者からすれば彼らは全体像を見失っている。

 GILをPythonから取り除くことは“もろ刃の剣”だと筆者は考える。Mojoをはじめとする他のプログラミング言語へのユーザー流出が起きるだろう。Mojoが高速かつ効率的なプログラミング言語であり続け、専門家によるメンテナンスが続く限り、PythonコミュニティーはGILに手を付けるべきではない。

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