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「生成AI×市民開発」がそう簡単でも“うまい話”でもない理由AI時代における市民開発の実態【前編】

生成AIの台頭によって、非技術者にとっての開発のハードルは下がりつつある。しかし、こうした市民開発には幾つかの問題がある。注意したい“3つの落とし穴”を紹介する。

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 テキストや画像を自動生成する人工知能(AI)技術「生成AI」の台頭が、コーディングの民主化を促している。これによって、非技術者も開発に参加できる「市民開発」への期待が高まっている状況だ。

 組織における市民開発が活発化することで、イノベーションの加速や業務効率化といったメリットが得られるものの、市民開発には注意しなければいけない点もある。AI時代における市民開発の“落とし穴”とは何か。専門家の意見を基に紹介する。

「生成AI×市民開発」に潜む“3つの落とし穴”とは?

マーケティングにおける生成AIの実力と限界

 マーケティング企業Kantar Groupは、AI技術を用いて、2万5000人の実在人物のデータセットを基にした「合成ペルソナ」(ペルソナは架空の人物モデルという意味)を作成した。合成ペルソナには実際のユーザー行動や特性などが反映されているため、マーケティングや市場調査に役立つ。企業は合成ペルソナを使用することで、特定の顧客層に対する仮説を立て、その行動や反応を予測できる。

 Kantar Groupの実験では、合成ペルソナを用いた場合、顧客層の行動や反応の予測精度は75%だった。この数字は、単なる統計データを基にした予測精度の52%を上回っているが、Kantar Groupのプロファイル部門でイノベーション担当バイスプレジデントを務めるジョン・プレストン氏は、「商業利用には、入力するデータ量を増やすなどの改善が必要だ」と分析している。

 同氏は「適切な市場調査には、人間による洞察が依然として欠かせない」と説明する。特定の市場での文化的背景や個々の消費者の微妙な心理状態などは、生成AIではくみ取れない場合があるからだ。

AI開発における「ガバナンス」の重要性

 ソースコード最適化を手掛けるAIベンダーTurinTech AIの創設者兼CEOレスリー・カンサン氏は、生成AIを用いてアプリケーション開発に取り組むことは「アイデアの創出」という観点で有益だと話す。一方で、「ガバナンスの重要性」についても強調する。

 「開発者は、自身が書いたソースコードを適切に理解し、説明できるようにすべきだ」というのがカンサン氏の主張だ。例えば、コーディングの知識がない開発者が、機密データを扱うアプリケーションを生成AIで作成したとする。「その場合、開発者はアプリケーションがどのように機密データを管理しているかを、コンプライアンス部門や規制当局に説明するのは難しいだろう」とカンサン氏は指摘する。

 生成AIの進化に伴い市民開発者は増えるだろう。しかし、堅牢(けんろう)なテストやレビュー、ユーザーによる受け入れは依然として必要だ。生成AIツールは専門家の代わりではなく、専門知識を補助するアシスタントとして使用するのが最適だ。

AIツールを「使える」だけでは意味がない?

 誰しもが容易にAIツールを使えるようになったが、実際にうまく使えるかどうかは別の話だ。AIベンダーDomino Data LabでAI戦略責任者を務めるシェル・カールソン氏は、Amazon Web Services(AWS)のソースコード生成アシスタント「Amazon Q」を例に挙げる。Amazon Qは、プログラミング経験のない人でも使えるように設計されているが、その使い道は限られているという。「ツールの価値を引き出すためには、最終的にはユーザーのスキルや知識が求められる」とカールソン氏は話す。

 リソース不足に悩む企業では、経験の浅い開発者がOpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」を使ってアプリケーションを作成する場合もある。しかしカールソン氏は、「このようなアプリケーションの品質に太鼓判を押すのは難しい」と懐疑的な視線を向ける。

 生成AIを開発で利用する場合、従来の開発と同様、ユーザーには深い知識が求められる。生成AIは、迅速に情報を把握したり、基本的なタスクをこなしたりする際に非常に役に立つ。一方で、「『SQL』『COBOL』といった、専門的な知識や経験を必要とするプログラミング言語のタスクには適していない」とカールソン氏は指摘する。


 次回は、生成AIの進化と市民開発の今後について解説する。

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