Windowsアプリ管理はどう変わる? パッケージ新形式「MSIX」のメリット:「MSIX」を知る【後編】
「Windows」アプリケーションのパッケージングにおいて、「MSI」に代わる新たな標準ファイル形式を目指す「MSIX」。MSIから進化した機能にはどのようなものがあるのか。MSIXに乗り換えるメリットとは。
Microsoftは、「Windows」用のソフトウェアインストーラー「Windows Installer」用のファイル形式「MSI」の改良版として、「MSIX」を導入した。MSIXはMSIとどう異なるのか。従来のパッケージ形式から切り替える意義はあるのか。
「MSIX」でWindowsアプリ管理はどう変わる?
併せて読みたいお薦め記事
連載:「MSIX」を知る
Microsoftの戦略
Microsoftは2018年、アプリケーションのパッケージ形式「AppX」の拡張版として「MSIX」を導入した。AppXの開発当初の目的は、「Windows 10」以降のWindowsで実行するアプリケーションを開発するための枠組み「ユニバーサルWindowsプラットフォーム」(UWP)を支援することだった。MicrosoftはMSIXの設計に当たり、MSIの他に以下で得た知見を活用した。
- クライアント型アプリケーション仮想化製品「Microsoft Application Virtualization」(App-V)
- 「Win32」や「.NET」に基づくアプリケーションを、UWPに基づくアプリケーションとして利用できるようにする仕組み「Desktop Bridge」
- Win32はWindows用アプリケーションを開発するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)。
- .NETはMicrosoftが提供するアプリケーションフレームワーク(実装のための枠組み)。
MSIXの構造はAppXやApp-Vに似ている。その中身は、アプリケーション本体のファイルと、設定を記した「XML」形式のファイルをまとめた「ZIP」形式のファイルだ。
MSIXはモダンな開発手法で作られたアプリケーションに加えて、従来のWin32に基づくアプリケーションもパッケージ化できる。IT管理者は必要なアプリケーションをMSIX形式でパッケージ化して、「Microsoft Intune」「Microsoft Configuration Manager」などの管理ツールで配布可能だ。
MSIXを使用するメリット
MSIと比較して、MSIXは以下の新しい機能と利点を備える。
- アプリケーションのパッケージ化
- MSIX形式ファイルは、デスクトップPCやモバイルデバイスなど、さまざまなWindows搭載デバイスに対して、一貫した方法でアプリケーションをインストールできる。
- 強化されたセキュリティ
- MSIXは、パッケージに署名と認証を適用することによって、正規のアプリケーションであることを保証し、安全なインストールプロセスを提供する。悪意のあるアプリケーションをインストールするリスクを軽減できる。
- 効率的なアップデート
- MSIX形式のファイルを用いたインストールでは、アプリケーションの変更箇所だけをダウンロードして適用する差分更新が可能だ。これはインストール時の時間と通信容量の削減に役立つ。
- 状態管理
- MSIXは、アプリケーションの状態を管理するための仕組みを標準で備える。この仕組みを通じて、アプリケーション更新時にユーザー設定とデータを引き継ぐことができる。
- コンテナ化
- MSIXを使用してインストールしたアプリケーションはコンテナ内で実行できる。アプリケーションをコンテナ化することで、他のアプリケーションとの干渉を防ぎ、OSの安定性を向上させることが可能だ。
- 後方互換性
- Win32、グラフィックサブシステム「Windows Presentation Foundation」(WPF)、アプリケーションフレームワーク「Windows Form」といった旧来形式で作成したアプリケーションも、MSIX形式でのパッケージ化の対象だ。開発者は既存のアプリケーションを大きく改修せずに、MSIX形式に移行できる可能性がある。
MicrosoftがMSIXを公開した際、企業の間にMSIからMSIXに切り替える流れが生まれたとは言い難い。MSIXの初期バージョンにはバグがあったり、アプリケーションをMSIX形式でパッケージングするためのツールが不足していたりしたためだ。特にApp-Vを使用していた企業にとっては、MSIXのコンテナ化機能がApp-Vのものと完全に一致していないため、コンテナ化したアプリケーションの機能の一部が失われかねない問題があった。このため、App-VパッケージをMSIXフォーマットに直接変換できず、既存のアプリケーションをMSIX形式に適応させるための作業が必要となった。その後、MicrosoftがApp-Vのサポートを2026年に終了すると発表したことで、App-VからMSIXへの移行が加速しつつある。
企業のMSIX移行を支援するツール
Microsoftやコミュニティーが、MSIXの導入やMSIからの移行を支援するツールを開発している。
MSIXへの移行を支援するツールとして、Microsoftは以下を提供している。
- Package Support Framework(PSF)
- 古いアプリケーションがMSIX形式で正しく動作するようにするためのツールキット。
- MSIX Packaging Tool
- MSIX形式でのパッケージングを支援するツール。
「TMEditX」は、仮想化技術の活用を支援するベンダーTMurgent Technologiesが提供する、MSIXパッケージの編集ツールだ。アプリケーションの互換性向上を目的として、PSFを内包している。TMEditXは、MSIや「EXE」といった形式のインストーラーファイルの挙動を解析して、MSIX形式でも問題なく動作するよう機能の互換性を維持する。アプリケーションが必要な時にだけ仮想マシンに接続する技術「App Attach」を適用できるようにする機能も利用可能だ。その他CitrixやVMwareといったベンダーは、VDI(仮想デスクトップインフラ)でMSIX形式のファイルを扱えるようにしている。
MSIXの将来性は?
企業やソフトウェアベンダーの間でMSIXが普及することは、市場におけるMSIXの成功の鍵を握っている。
MicrosoftがMSIを導入した際、企業は程なくMSI形式のパッケージを受け入れ、ベンダーも広く採用するようになった。そうした流れが、WindowsアプリケーションのパッケージングフォーマットとしてMSIが定着している現状を作り出している。App-Vも企業間に普及したが、MSIを完全に置き換えるまでには至らなかった。
現在、MSIXは苦戦を強いられている。大手ソフトウェアベンダーはMSIXを全面的には採用していない。ベンダーにフォーマットを切り替える動機があまりないためだろう。
現代ではさまざまなアプリケーションがWebアプリケーションとして提供されるようになったが、Windowsアプリケーションも存続すると思われる。MSIXとApp-Vの互換性に関する問題は解消されつつあり、MSIXのエコシステムも成長している。
MSIXの導入をまだ検討していない企業、特にApp-Vを利用している企業は、MSIXに移行することでメリットを得られる可能性がある。既存技術との互換性、アプリケーション管理を効率化するポテンシャルは、Windowsアプリケーションを利用する企業にとって貴重な資産になるはずだ。
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.