“クラウド印刷”の実力は? Microsoft「ユニバーサルプリント」の長所と短所:Microsoftの「ユニバーサルプリント」とは【後編】
印刷インフラをクラウド化できるMicrosoftの「ユニバーサルプリント」は、現代の企業が抱えるようになった課題を解消し得る一方、懸念点も抱えている。メリットとデメリットの両方を紹介しよう。
企業システムのクラウド化が進む中、オンプレミスシステムとして残っていた印刷インフラもクラウドサービスに移す時が来た。従来の印刷サーバは、ドライバ管理や障害対応、セキュリティ設定など、IT管理者に運用管理の負担を強いるものだった。
こうした問題を解消するために、Microsoftは印刷サーバのクラウド化を実現する「ユニバーサルプリント」(Universal Print)を提供している。印刷インフラをクラウド化し、クラウドベースで印刷ジョブを管理することで、どのようなメリットが期待できるのか。その半面、懸念されるデメリットはあるのか。
ユニバーサルプリントが手放せなくなる3つのメリット
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プリンタ運用のヒント
企業がユニバーサルプリントを利用する主なメリットを以下に挙げる。
メリット1.管理の省力化
IT管理者にとってなじみのあるMicrosoftのサービスで複数のプリンタを一元管理できるようになることは、大きなメリットだ。具体的には、IDおよびアクセス管理システムのクラウドサービス「Microsoft Entra ID」(旧「Azure Active Directory」)や統合エンドポイント管理ツール(UEM)「Microsoft Intune」といったツールを使って管理する。
ユニバーサルプリントはクラウドサービスであるため、企業が自社にオンプレミスインフラを用意する必要がない。ただし対象のプリンタが標準でユニバーサルプリントと連携できない場合はひと手間が必要だ。IT管理者は「Windows」搭載PCを用意して、Microsoftが提供するユニバーサルプリントとプリンタを接続するためのソフトウェア「ユニバーサルプリントコネクタ」をインストールし、運用する必要がある。
ドライバの管理が不要になる点もメリットだ。IT管理者がデバイスに手作業でドライバをインストールしたり、OSごとのドライバを運用したりする必要がなくなる。
メリット2.手軽に利用可能
ユニバーサルプリントはユーザー認証やアクセス制御、プリンタの割り当てなどにMicrosoft Entra IDのアカウントを使用する。そのためMicrosoft Entra IDにユーザーアカウントがあり、適切な権限を持つエンドユーザーであれば、デバイスにドライバをインストールすることなく印刷可能だ。Windows、Appleの「macOS」や「iOS」、Googleの「Android」など、異なるOSで利用できる。
メリット3.セキュリティの強化
ユニバーサルプリントは印刷関連のセキュリティを強化する。エンドユーザーはプリンタに送信した印刷ジョブを印刷キューにとどめておき、PIN(暗証番号)やQRコードを使用して実行できる。印刷しなかったドキュメントの有効期限は一定期間で切れる仕組みだ。この仕組みよって、エンドユーザーが機密文書を印刷した場合、プリンタから印刷物を回収する前に第三者が誤って機密文書を目にすることを予防できる。
ユニバーサルプリントのデメリット
メリットだけではなく、ユニバーサルプリントにはデメリットが幾つかある。
デメリット1.複雑な料金体系
ユニバーサルプリントを使用するにはライセンスが必要になる。ユニバーサルプリント単体のライセンスの他、Microsoftのサブスクリプションサービスを通じて使うことも可能だ。以下にユニバーサルプリントが利用可能なライセンスを挙げる。
- ビジネス向け
- Microsoft 365 E3/E5/F3
- Microsoft 365 Business Premium
- Windows 10 Enterprise E3/E5
- Windows 11 Enterprise E3/E5
- ユニバーサルプリント(単体ライセンス)
- 教育機関向け
- Microsoft 365 A3/A5
- Windows 10 Enterprise A3/A5
- Windows 11 Enterprise A3/A5
- ユニバーサルプリント(単体ライセンス)
- 行政機関向け
- GCC(Government Community Cloud)準拠のMicrosoft 365 Government G3/G5
- GCCは米国政府機関向けのセキュリティおよびコンプライアンス要件。
- GCC High準拠のMicrosoft 365 Enterprise E3/E5
- GCC Highは米国政府機関向けの高セキュリティおよびコンプライアンス要件。
- GCC準拠のWindows 10/11 Enterprise E5
- GCC準拠のユニバーサルプリント(単体ライセンス)
- GCC High準拠のユニバーサルプリント(単体ライセンス)
- GCC(Government Community Cloud)準拠のMicrosoft 365 Government G3/G5
デメリット2.印刷ジョブ数の上限
追加費用が発生しない範囲でユニバーサルプリントを利用しようとすると、印刷ジョブの数が限られることがデメリットになり得る。Microsoft 365 E3/E5、Microsoft 365 Business Premium、GCC準拠のMicrosoft 365 Government G3/G5、GCC High準拠のMicrosoft 365 Enterprise E3/E5の場合、共有プール(複数プリンタを1つの論理的なプリンタとしてまとめた構成のジョブ保管領域)の印刷ジョブ数上限はエンドユーザー1人ごとに毎月100件だ。50人分のユーザーライセンスを所持している企業であれば、1カ月当たり5000件の印刷ジョブを実行できることになる。
他の種類のライセンスでは、追加費用が発生しない範囲で実行可能な印刷ジョブ数がさらに限られる。Microsoft 365 F3/A3/A5、Windows 10 Enterprise E3/E5/A3/A5、Windows 11 Enterprise E3/E5、単体ライセンスのユニバーサルプリントの場合、共有プールの印刷ジョブ数上限は1エンドユーザー当たり毎月5件だ。
デメリット3.移行作業
ユニバーサルプリントへの移行プロセスが負担になる可能性もある。ユニバーサルプリントに移行する際にプリンタを登録しなければならない。ユニバーサルプリントをネイティブにサポートしていないプリンタでは、ユニバーサルプリントコネクターを使用する必要があることに加え、ユニバーサルプリントを使用して印刷するデバイスをMicrosoft Entra IDに登録する必要がある。ユニバーサルプリントではハイブリッド環境がサポートされるため、デバイスがMicrosoft Entra IDに登録されていれば問題ない。
標準でユニバーサルプリントと接続できるのは比較的新しい機種のプリンタだ。今後プリンタメーカーがファームウェアをアップデートして、ユニバーサルプリントのサポートを追加する可能性はある。そうしたプリンタを利用していない企業は、ユニバーサルプリントコネクタを用意しなければならない。ハードウェアのリフレッシュサイクルの一環で古いプリンタの入れ替え作業が進むと、次第にユニバーサルプリントコネクタが不要になる可能性はあるものの、入れ替えが終わるまではユニバーサルプリントコネクタが必要だ。
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