Docker「売却」も? 2400万人が使うコンテナ管理ツールの未来は:買収の候補企業は?
業界関係者の間では、Dockerの元Oracle幹部によるCEO交代が、大手企業のソフトウェア開発事業への統合に向けた前兆ではないかとの見方が広がっている。買収の可能性のある企業とは。
コンテナ管理ツールを展開するDockerは2025年2月12日(現地時間)、2019年の会社分割を乗り越えて経営を続けてきたCEOが退任し、元Oracle幹部がCEOに新たに就任したことを発表した。このトップ交代は、一部では売却に向けた布石だと見られている。どういうことなのか。
Docker売却の可能性は?
併せて読みたいお薦め記事
Dockerを知るための記事
- いまさら聞けない「Docker」とは? コンテナネットワークを知る基礎知識
- Docker向けOSの“最強”は? 「RancherOS」「Ubuntu Core」「Alpine Linux」「DC/OS」を比較
退任したスコット・ジョンストン氏は11年間Dockerに在籍し、最高プロダクト責任者(CPO)を務めた後、2019年にCEOに就任した。Dockerは2019年に企業向け製品「Docker Enterprise」事業をクラウドサービスベンダーMirantisに売却した後、コンテナ化ツール「Docker Desktop」やDockerイメージ共有サービス「Docker Hub」に注力し、開発者がローカル環境でコンテナを管理できるツールを提供してきた。
ジョンストン氏の後任には、Oracle出身でクラウドサービス群「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)の創設者兼エグゼクティブバイスプレジデントであるドン・ジョンソン氏が就任した。ジョンソン氏は2018年12月からOCIの運営に関わっていた。
Dockerは2019年の事業分割以降、以下のような製品拡充を進めてきた。
- 拡張機能
- デバッグ、ネットワーキング、脆弱(ぜいじゃく)性スキャン、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」入門向けツールの提供。
- 脆弱性データベースツール「Docker Scout」
- ソフトウェアサプライチェーンの脆弱性を自動化。
- AI搭載ツール「Docker GenAI Stack」および「Docker AI」
- 統合テスト環境を提供する「AtomicJar」の買収を通じたシフトレフトテストのサポート
- シフトレフトは、セキュリティ設計の工程を前倒して実施し、脆弱性をいち早く発見、修正する考え方。
- Dockerイメージ構築ツール「Docker Build Cloud」
- コンテナビルドをクラウドインフラにオフロードし、開発ワークフローの速度と柔軟性を向上。
Dockerは、2021年に2300万ドルの資金調達、2022年には1億500万ドルの資金調達を実施。同時に、収益拡大のために製品の価格体系やパッケージに関して複数回の変更を加えて、一部のユーザーからは不満の声も上がっていた。
今回のCEO交代を受け、業界アナリストの間ではDockerが大手企業による買収対象となる可能性が高いとの見方が広がっている。特に、大手クラウドプロバイダーによる買収が考えられる。
「この5年間でDockerは安定し、開発者向けツールへの転換も完了した。これからは利益を生み出すフェーズだ」と語るのは、調査会社HyperFrame ResearchのCEO兼プリンシパルアナリストであるスティーブン・ディケンズ氏だ。「Dockerは初期の収益化に苦戦していたが、現在の勢いを考えれば、企業価値は否定できない」
とはいえ、商業的な課題は依然として残っているとディケンズ氏は指摘する。「Dockerの問題は、それが単体の製品ではなく、単なる機能であることだ」と同氏は言う。開発者は、Red Hatのコンテナ管理ツール「Podman」のようなオープンソースツールや、エンタープライズ向け開発プラットフォーム「GitHub Enterprise」や自動化ツール「GitHub Actions」のような商用ツールを選択することもできるため、Dockerに対する依存度は低くなっている。「Dockerの評価は収益ではなく、他社の製品ポートフォリオにおける機能の穴を埋めるものとして判断されている」(ディケンズ氏)
現在、Dockerによれば同社のコンテナ管理ツールは全世界で2400万人の開発者に利用されている。この開発者層は、ソフトウェア開発市場での影響力を拡大したいと考える大手企業にとって魅力的なターゲットとなる。
米Informa TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)のアナリストであるトルステン・フォルク氏は、「DockerのCEO交代は、ハイパースケーラー(大規模データセンターを運営する事業者)とのパートナーシップ強化を目的とした動きだろう」と述べる。「主要クラウドサービスの『Amazon Web Services』(AWS)や、『Microsoft Azure』『Google Cloud』、さらにはOCIはそれぞれDockerと競合するサービスを提供しているが、Dockerコンテナの主要なデプロイ(配備)先として自社サービスを選ばせることに関心を持っているはずだ。そして、いずれかの企業がDockerを買収する可能性もある」
ITニュースサイトを運営するSiliconANGLE Mediaの調査部門theCUBE Researchのアナリスト、ロブ・ストレチェイ氏は、半導体ベンダーBroadcomによる仮想化ベンダーVMware買収後の市場の変化を挙げ、Dockerがそのコンテナ管理ツール群「VMware Tanzu」のユーザー企業の移行を狙う可能性について言及した。「Broadcomの買収後、VMware Tanzuは『VMware Cloud Foundation』(VCF)という製品群に統合された。そのため、コンテナ管理とセキュリティ市場には新たな隙間が生じている」
「Dockerは新CEOの下、コンテナの完全なライフサイクル管理にさらに移行し、RedHatのオープンソース構成管理ツール『Ansible』やクラウド自動化ツールベンダーHashiCorpと直接的に競合するだろう。KVM(カーネルベースの仮想マシン)とコンテナの路線を進み始めているHewlett Packard Enterprise(HPE)やDell Technologiesなど、VMwareとは異なる方向性を目指す大手ベンダーによる買収を目指す可能性がある」とストレチェイ氏は予測する。
「ソフトウェア会社のAtlassian、Red Hat、Microsoftや傘下のソフトウェア開発プラットフォームGitHubなどが、ソフトウェア開発製品のラインアップを広げるためにDockerの買収を検討する可能性がある」とディケンズ氏も述べる。「ただし、明確な買収企業が現れるかどうかは分からない。Dockerがどれだけの価値を持つかは、買収企業の他の製品との統合次第だ」
Dockerの広報担当者は、米Informa TechTargetにメールで送った声明で、売却の可能性についてはコメントを控えた。「このCEO交代は完全にスコット・ジョンストン氏の決断によるものだ。同氏は10年以上にわたりDockerに在籍し、そのうち5年間はCEOを務めた。そして今が新たなリーダーにバトンタッチする適切なタイミングだと判断した。Dockerは順調に成長しており、この交代によってその成長を維持できるだろう」
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
TechTarget発 先取りITトレンド
米国Informa TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.