熱電効果の冷却技術「TEC」のメリットとデメリットは? 空冷、水冷との違いは:データセンターの次世代冷却技術【後編】
データセンターを高効率に冷却する「TEC」技術への注目が集まっている。空冷式や水冷式と比べた場合のTECのメリットとデメリットとは何か。主な冷却用途と併せて解説する。
熱電効果(熱エネルギーと電気エネルギーの相互作用)を活用した冷却技術「サーモエレクトリッククーリング」(Thermoelectric Cooling:TEC)を利用することで、従来の空冷式や水冷式などに比べてより効率よくデータセンターを冷却できる可能性がある。TECの仕組みを利用して、電気の力で熱を移動させる装置を「TECデバイス」と呼ぶ。TEC技術およびTECデバイスを利用するメリットとデメリットを解説する。
「TEC」のメリットとは?
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連載:データセンターの次世代冷却技術
データセンターの冷却を基礎から
TEC技術およびTECデバイスを導入するメリットは次の通り。
- 効率性に優れる
- 適切に設計された場合、ほとんどの用途で空冷や水冷などコンプレッサー(圧縮機)を使った冷却システムより消費電力が少ない傾向にある。
- 冷媒(温度の高いところから低いところへ熱を移動させるために使う物質)が不要
- フロンなどの冷媒を使用しないので、温室効果ガスが漏出せず、環境保護の理由で将来的に廃止されるリスクが低い。
- 温度調節が容易
- TECデバイスは理論上、0.01℃の精度で温度調節が可能だ。空冷方式や水冷方式よりも温度調節の精度が優れている。
- 冷却能力の調整が容易
- ニーズに合わせて冷却能力を素早く調整でき、消費電力を最小限に抑えられる
- サイズがコンパクト
- TECデバイスは小さく、液冷パイプさえ入らない場所にも挿入できる場合がある。
- 効果的な冷却
- 熱源から効果的に熱を吸熱しつつ、温度を下げることができる。
- 発電できる可能性
- TECデバイスは電流を流すと吸熱と放熱が発生する性質を活用している。逆に、TECデバイスの両面に温度差を与えると、内部で電圧が発生し電流が流れるため発電できる可能性がある。
TECのデメリット
TECには以下のデメリットがある。
環境の温度の影響を受ける
TECデバイスの冷却能力は放熱側と吸熱側の温度差が大きいほど高くなる。放熱側は通常、環境温度に近くなるため、屋外や直射日光下のような周囲温度が高い環境では、十分な冷却性能を得ることが難しい場合がある。
ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)が定めるガイドラインでは、データセンター室内の適温の範囲は18〜27℃となっているので、データセンターでの使用の際にこの点は問題になりにくい。さまざまな環境を経由する光ファイバーケーブルによる長距離ネットワークではこの点が問題となる可能性がある。
冷却能力に限界がある
現状、TECデバイスは200〜300ワット相当の熱量の冷却用途で最も効果を発揮する。しかし、これでは標準的なサーバラックの冷却には不十分だ。データセンターの標準的なサーバラックでは、5キロワットから40キロワット相当、あるいはそれ以上の熱量があると考えられるので、冷却力が大幅に足りない。加えて、熱源から吸熱した熱はTECデバイスの放熱側に移動するため、放熱側の熱を空冷か液冷で回収する必要がある。
拡張性に限界がある
TEC装置を大きくすると高価になる。従来の空冷、液冷システムよりも消費電力量も大きくなる可能性もある。
TECの用途
TECの主な用途は以下の通り。
- 省スペースでの冷却
- TECパッケージ(TECチップを含む複数の部品)は比較的小型で、施設の物理的制約に合わせて構成可能だ。
- 高速光ファイバースイッチ
- 長距離光ファイバー用高出力半導体レーザー発振器
- TECによる正確な温度調節が、レーザーの波長の安定と長距離の伝送に不可欠だ。
- 高速通信装置
- 極端にシビアな温度調節を必要とする400Gbpsおよび800Gbpsの高速通信装置にとって重要になりつつある。
- 冷却用の液体冷媒を装置内部に通したくないケース
- CPU
- プロセッサにおけるTECの活用例は今のところ限られているが、高性能CPUのジャンクション(p型半導体とn型半導体の接合部)の温度管理が困難になるにつれて増加する可能性が高い。
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