あえて問題点から考える「スーパーコンピュータ」と「量子コンピュータ」の違い:高性能なコンピューティングの現状と未来【後編】
高性能計算を支えるスーパーコンピュータも、将来的な活躍が期待される量子コンピュータも、万能ではない。両者の問題点を整理しながら、コンピューティングの未来を考える。
「スーパーコンピュータ」は科学から産業分野まで、さまざまな高性能計算の用途に使われている。同様に複雑な計算処理の担い手として、将来的にはスーパーコンピュータの計算能力を大きく上回る可能性のある「量子コンピュータ」がある。ただしどちらのコンピューティング技術も万能ではない。コンピューティング技術がこれからどう進化するのかを探るに当たり、あえて両コンピューティング技術の問題点を整理する。
「スーパーコンピュータ」も「量子コンピュータ」も万能ではない
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連載:高性能なコンピューティングの現状と未来
量子コンピュータの動向を追う
スーパーコンピュータの問題点
スーパーコンピュータは主に次の4つの問題点に直面している
- 電力消費
- スーパーコンピュータは膨大な電力を必要とし、それが高額な運用コストや環境面の懸念につながっている。
- データ移動
- プロセッサとメモリ間で大量のデータセットを移動すると計算が遅くなる可能性がある。それが原因で、高性能なハードウェアを搭載しているにもかかわらず、計算性能が制限される可能性がある。
- ハードウェア障害
- コンポーネントが複雑なことで障害やメンテナンス問題が頻発する可能性がある。
- 並列プログラミング
- スーパーコンピュータでは数千のコア(演算装置の処理ユニット)を同時に稼働させる必要がある。それには、いずれのコンピュータにも速度低下や故障も起こさずに全パーツを確実かつ効率的に連携させる特殊なプログラミング手法が必要になる。構築、保守、運用のコストが高額になりやすいことや、運用には専門知識が必要になることも課題だと言える。
量子コンピュータの問題点
量子コンピュータには次のような問題点がある。
- 不安定
- わずかな振動や温度の変化など、少しでも乱れが生じるともつれの解消を引き起こす可能性があり、それにより構造全体が瓦解し、保存されている情報が失われる。
- スケーラビリティ
- 量子コンピュータが効果を発揮するには、一定の品質を確保した量子ビットが何万個も必要になる。重要な問題を解決できる十分な量子ビットを備え、問題が発生しない量子コンピュータを構築するには時間がかかる。量子クラウドコンピューティングに関する最近の学術レビューによれば、10年以上を要する。
- データセキュリティ
- データの安全性を確保する公開鍵暗号は量子コンピュータによって解読される可能性がある。量子コンピュータは特定の問題を従来型コンピュータよりもはるかに高速に解決できるため、安全だと考えられているデータのセキュリティが確保されなくなる可能性がある。悪意を持った攻撃者が量子コンピュータを悪用すると、機密情報が暴露される可能性もある。
- 物理インフラ
- 本稿執筆時点の量子コンピュータは過熱を防ぐ冷却装置を必要とするため、自動車とほぼ同サイズになる。実用性や拡張性を高めるには冷却機能のさらなる進化が求められる。
- 製造
- 量子コンピュータを大量製造するにはシステムの標準化が欠かせないが、量子クラウドコンピューティング事業者は、現状独自に開発を進めている。
- コストと利用の容易さ
- 量子コンピュータは高額で、運用するには非常に特殊な環境が必要になる。量子コンピューティングでは量子力学、コンピュータ科学、工学の専門知識が必要になるため、スキルを有する人材の確保が課題となる。それと同時にコストもかかる。
量子コンピュータとスーパーコンピュータの未来
2019年にGoogleが量子プロセッサ「Sycamore」を発表して以来、IT企業(MicrosoftやIBMなど)や国家がこの分野に投資する動きが広がっている。量子コンピューティングはまだ初期段階にあるが、かつては不可能と考えられていた問題の解決を可能にする存在として、科学研究では将来的に不可欠なツールになると期待されている。2026年までには従来型コンピュータでは不可能なタスクを量子コンピュータで実行できるようになるとする支持者もいる。
スーパーコンピュータの未来には、毎秒100京以上の計算を実行できるエクサスケールコンピューティングがある。気候モデリングや創薬といった分野でのブレークスルーをさらに後押しするだろう。電力効率は、人間の脳をモデルにするコンピューティング手法「ニューロモルフィックコンピューティング」や、プロセッサや冷却技術の改良によって改善する可能性がある。
スーパーコンピュータの計算能力は、クラウドコンピューティングによってより利用しやすくなる。同時に、並列プログラミングの進化によって複数タスクの同時実行が可能になる。「ラフェンプロセッサ」や「フォトニックプロセッサ」といった次世代のプロセッサがハードウェアに革命をもたらす可能性もあり、その結果としてスーパーコンピュータの高速化やコンパクト化が進む可能性がある。
最終的にスーパーコンピュータに量子プロセッサが組み込まれれば、どちらか一方だけの計算能力では処理できない複雑な問題を解決できる量子スーパーコンピュータが生まれる。それはさまざまな業界におけるブレークスルーにつながると期待できる。
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