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新ロードバランサーを発表したCisco、「VMware代替を狙う」の真意Isovalent買収を軸に新戦略を打ち出す

Cisco Systemsは、企業の複雑なネットワークトラフィックを簡素化するロードバランサーの新製品を発表した。開発の動機はVMwareからシェアを奪うことだという。

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 ネットワーク機器ベンダーCisco Systemsは、クラウドやオンプレミスにまたがるトラフィック(ネットワークを流れるデータ)制御を効率化するロードバランサーの新製品「Isovalent Load Balancer」を発表した。

 クラウドやAI(人工知能)技術、コンテナなどの活用を進める中で、企業が運用するサーバは増え、複雑化するデータの流れがITコストの増大を招いている。Cisco Systemsは、Isovalent Load Balancerを“インターネットの交通整理役”と位置付け、トラフィックを最適なサーバに分散させて負荷の集中を防ぐ仕組みを提供する。

 新しいロードバランサーの開発の動機の一つは、仮想化製品群を提供するVMwareの一部製品のシェアを奪うことにあるという。

VMware製品の代替を狙う「Isovalent Load Balancer」

 Isovalent Load Balancerの発表は、米国サンディエゴで開催された年次イベント「Cisco Live 2025」に合わせて行われた。Cisco Systemsは、この製品でVMwareのユーザー企業を取り込むことも狙っている。VMwareのユーザー企業の中には、単一のベンダーやサブスクリプションサービスに縛られることを望まない企業もある。

 Isovalent Load Balancerは複数のクラウドサービスやデータセンター、コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」など、さまざまな環境に対応する。基盤技術には、Isovalentが開発したコンテナ間ネットワーク接続技術「Cilium」と、「eBPF」(Linuxカーネル内で安全かつ高効率にカスタムコードを実行できる仕組み)を採用。クラウドネイティブ(クラウドで稼働することを前提にした設計)なインフラにおけるネットワークセキュリティとオブザーバビリティ(可観測性)を提供する。このロードバランサーは、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)やKubernetesツールを通じて、プラットフォーム間でのeBPF使用を可能にする。

 Cisco Systems傘下のIsovalentで共同創業者兼CTO(最高技術責任者)を務めるトーマス・グラフ氏は、「同社はネットワークとデータ管理における効率性とコスト効果性への需要に応えている」と述べる。「開発の目的は、あらゆる環境で一貫したロードバランシングを実現すること、つまり複数の異なるレイヤーを統合することだった」

 「このロードバランサーは開発者の負担を軽減するものだ。真のコスト要因であるこの課題を解決し、アプリケーション開発チーム向けに最新のクラウドネイティブAPIを提供する。これが最大の特徴だ。開発者の再教育も必要ない。われわれは運用チームの現状を把握した上で、アプリケーション開発チームの体験価値を向上させている」(グラフ氏)

 Cisco Systemsは現在、Isovalent Load Balancerの無料トライアルを提供している。同社はこのツールによって、コスト削減、セキュリティとオブザーバビリティの強化、マルチクラウドやコンテナの将来性確保、アプリケーション配信の高速化を実現できると主張している。

VMwareと競合するための戦略

 Cisco Systemsは、オブザーバビリティ市場における存在感を高めるために、Splunkを280億ドルで、Isovalentを6億5000万ドルで買収している。これらの買収により、Cisco Systemsはマルチクラウド向けのネットワークとセキュリティの分野で、VMwareと真っ向から競合する立場になった。

 Broadcomは、610億ドルでVMwareを買収したが、その後、製品ライセンスをバンドル型のサブスクリプション制に移行したことから、とりわけ中堅・中小企業の顧客に不満が広がっている。「Broadcomのサブスクリプションモデルに縛られたくないというVMwareのユーザー企業からの不満が、Isovalent Load Balancer開発のきっかけの一つになった」とグラフ氏は述べる。同製品は「VMware Avi Load Balancer」に競合するロードバランサーとなる。「それを代替することこそが開発の最大の動機だ」と同氏は言う。

 調査会社ZK Researchの創立者兼主席アナリストを務めるゼウス・ケラバラ氏は、「Isovalent Load Balancerは、多くの企業にとって魅力的な選択肢になるだろう」と評価する。「Broadcomの進めている戦略は、VMware Avi Load Balancerをプライベートクラウド構築用製品群『VMware Cloud Foundation』に縛り付けることだ。「この状況は、他のベンダーが市場シェアを獲得する絶好の機会を生み出している。Cisco SystemsはここでVMwareから一定のシェアを奪う十分な可能性を秘めている」

 「Cisco SystemsによるIsovalentの買収は、同社のセキュリティ戦略の中核に据えられつつある。Cisco SystemsはeBPFの先進性に着目しており、AI時代のセキュリティの在り方を見直そうとしている。その基盤としてIsovalentを活用している」(ケラバラ氏)

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(株式会社リーフレイン)

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