PCを買わずに使える「PCaaS」 その“落とし穴”とベンダー選びの注意点:PC調達を変える“新しい選択肢”【後編】
PCのライフサイクル管理を外部に委ねる「PCaaS」はさまざまなメリットを提供する一方で、注意すべき欠点や導入時のチェックポイントもある。代表的なベンダーの特徴や関連サービスとの違いも含めて解説する。
PCの導入から運用、廃棄までを一括して提供する「PCaaS」(PC as a Service)は、企業のIT運用を効率化する新たな手段となる。前編「いまさら聞けない『PCaaS』とは “持たないPC”が普及する4つの理由」では、PCaaSの基本的な仕組みやメリットを解説した。後編では、PCaaSを導入する際に注意すべき欠点や、選定時のチェックポイント、代表的なベンダーの特徴、そして似た用語である「Device as a Service」や「Desktop as a Service」との違いを紹介する。
失敗しない「PCaaS」の見極め方
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「PCaaS」の基本を押さえる
まずPCaaSの欠点から見ておこう。ポイントは他の「as a Service」と同様だ。
1つ目は、デバイスを所有できないことだ。所有権はあくまでもベンダー側に帰属する。一部の企業には問題ないが、デバイスを直接購入して所有したほうが都合の良い企業にとっては、向いていない場合がある。
2つ目は、長期的なコストが高くなる可能性だ。PCaaSの場合、契約によってはリースしたデバイスを使用し続ける限り、利用料金を支払わなければならない。リース期間全体を通じて支払われるサブスクリプション料金が、購入した場合と比較して最終的に高額になる可能性がある。
3つ目は、ベンダーの規定するサービス範囲に縛られる点だ。ユーザーサポート、メンテナンス、カスタマイズの範囲はベンダーが規定する。契約に含まれるサービスが希望するレベルに達していない場合、組織は追加料金を支払うか、不便を受け入れる必要がある。企業が特定のタスクを実行するためにデバイスに特殊な設定を必要とする場合、カスタマイズの制限が問題となる可能性がある。
4つ目がセキュリティの懸念だ。PCaaSベンダーが強力なセキュリティを実装していない場合、組織はサイバー攻撃によるデータの漏洩(ろうえい)、ダウンタイム、規制当局による罰則といったリスクにさらされる。
PCaaSの選び方
サブスクリプション料金の多寡だけでPCaaSを選択してはいけない。ベンダーが提供するサービスとサポートを包括的に評価することが重要だ。まずは自社のニーズとビジネス目標を詳細に分析する。そして、自社に適したPCaaSなのかを見極める必要がある。
ベンダーが提供するPCのラインアップとカスタマイズの評価も重要だ。これにより、適切なベンダーとPCの特定だけでなく、導入期間の短縮や、導入後の調整や変更の可能性を抑えることが可能になる。
ベンダーの評判の調査も必要だ。該当のベンダーとのやりとりについて実際の経験に基づくユーザー企業による評価をチェックする。以下のような点を確認する。
- 迅速かつ容易にスケールアップもしくはスケールダウンできる、柔軟でアジャイルなPCaaSなのか
- 需要の増加に応じて新しいPCを追加したり、必要がなくなったら返却したりできるのか
- 返却した場合何らかのペナルティーが発生するのか
契約前のSLA(サービスレベル契約)の確認も欠かせない。デバイスのメンテナンスや更新のスケジュール、保証される稼働時間、ユーザーサポートが対応できる時間帯など、ベンダーのサービスが自社の要件に合わない可能性がある。トラブルを未然に防ぎ、社内のIT部門に負担をかけないためには、SLAの詳細を把握しておく必要がある。
セキュリティの確認も必要だ。データの暗号化、生体認証、パッチ(修正プログラム)適用など、PCに強力なセキュリティ機能が組み込まれているかどうかを確認する。偶発的なデータの漏洩(ろうえい)を防ぐために、PC回収後に実施するデータ消去の方法についても知っておくべきだ。
最後に、サブスクリプション料金を詳細に把握する必要がある。これには、サービスを追加する際のコスト、契約を早期に打ち切った場合の違約金など、発生する可能性のある全てのコストが含まれる。累積コスト、またはTCO(総所有コスト)がPCの購入費用よりも高くなる可能性がある場合、PCaaSがベストの方法とは言えないかもしれない。
主要なPCaaSベンダー
代表的なPCaaSベンダーとして、Dell Technologies(以下、Dell)、HP、Lenovoが挙げられる。
DellのPCaaSには、Dell製PC、ノートPC、ワークステーションが含まれ、ソフトウェア、ライフサイクル管理サービス、マネージドサービス、データ復旧サービス、回収サービス、セキュリティを提供している。
HPはPCaaSをDevice as a Serviceという名称で提供している。HP製PC、ノートPC、モバイルPC、ワークステーションから選択でき、ライフサイクル管理サービスや修理サービスを含んでいる。
Lenovoは、IT機器の導入計画から運用をワンストップで提供する“サービスデジタルワークプレースソリューション”として「Lenovo TruScale DaaS」を提供している。サブスクリプションベースで、デバイス、ソフトウェア、サービスを提供し、さまざまな選択肢を用意している。
PCaaS、Device as a Service、Desktop as a Serviceの違い
PCaaSとDevice as a Serviceは非常に近い意味を持つ用語として使用されている。主な違いは、PCaaSがPC、ノートPC、ワークステーションなどのクライアントデバイスに特化しているのに対し、Device as a Serviceはしばしば、タブレット、モバイルデバイス、特殊なデバイスなど、より幅広い種類のデバイスを包含して使用される。
どちらも、単に物理デバイスのリースだけでなく、ライフサイクル管理、OSやアプリケーションの更新、セキュリティ、メンテナンス、ユーザーサポートなどのサービスを含む。
Device as a ServiceはPCaaSよりサブスクリプション料金が高い場合がある。PCaaSの料金プランは通常単一の種類のデバイスに基づいているが、Device as a Serviceの場合、提供、管理されるデバイスの種類がより多様になるため、契約内容とSLAがより複雑になる可能性がある。
時折DaaSと省略される紛らわしい用語としてDesktop as a Serviceがある。Desktop as a Serviceもサブスクリプション型のサービスだが、仮想デスクトップ環境をクラウドサービスとして使用できるもので、物理デバイスのリースは含まない。クラウドベースの仮想マシン(VM)環境で、「Windows 10」や「Windows 11」などのデスクトップ用クライアントOSとさまざまなデスクトップ用アプリケーションを実行できる。
代表的なDesktop as a ServiceがMicrosoftの「Azure Virtual Desktop」と「Windows 365」だ。Azure Virtual DesktopはVDI(仮想デスクトップインフラ)を構築するサービスで、Windows 365は、企業がWindows環境をクラウドサービスとして従業員のために手軽に展開できるサービスだ。
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