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DropboxやXはなぜ「脱クラウド」「オンプレミス回帰」に踏み切ったのか?オンプレミス回帰に新たな潮流【第2回】

運用やコストの効率性を求めてクラウドサービスへの移行の動きが拡大する中で、クラウド万能の神話は揺らいでいる。一部の企業はクラウドサービスからオンプレミスへの回帰を選んでいる。その例をまとめた。

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 「Amazon Web Services」や「Microsoft Azure」「Google Cloud」といったクラウドサービスが台頭し、クラウドへの移行はレガシーITシステムの運用負荷やコストの課題を解決するのに適した手段だと考えられるようになった。だが、その理想に陰りが見え始めている。

 もはや“万能”ではないクラウドサービスを離れ、オンプレミスへと回帰(脱クラウド)する動きが世界各地で現れているのだ。その背景にある動向をまとめた第1回「『オンプレミス回帰』『脱クラウド』を招いた“米国離れ”の衝撃」に続き、中編となる本稿は実際にオンプレミス回帰を実行した例を取り上げる。どのような判断で移行を決断し、どのような成果を得たのか。

“脱クラウド”戦略で成果を上げた企業、回帰の理由は?

 クラウドサービス利用の見直しに踏み切る動きが広がる中で、著名な企業がオンプレミス回帰によってコスト削減やパフォーマンス向上を果たした実例も出てきている。企業のITリーダーもそうした動きに着目し、中にはSNS(ソーシャルネットワーキングサイト)などで自身の見解を表明したり、動向をまとめて発信したりしていることもある。

 その一人が、医療機器や医療製品を製造、販売するJohnson & Johnsonの製薬部門Johnson & Johnson Innovative Medicineのバイスプレジデント兼最高情報責任者(CIO)であるルイス・ゴンジン氏だ。同氏はビジネス向けSNS「LinkedIn」の投稿で、大手クラウドサービスからアプリケーションを移行させ、大幅なコスト削減とパフォーマンス向上に成功した企業の例を挙げている。

X(旧Twitter)

 短文投稿サイト「X」(旧「Twitter」)を運営するXは、アプリケーションをクラウドサービスから自社のデータセンターに移行。移行の主な理由はコスト削減だとみられており、実際に同社はオンプレミス回帰によって月額のコストを60%削減した。

Dropbox

 オンラインストレージサービスを提供するDropboxは、AWSのクラウドストレージサービス「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)からオンプレミスのインフラにデータを移行。増大し続けるデータ保管のコストを抑制することが主な目的だった。同社は2年間で7500万ドルのコスト削減をした他、独自にシステムを構築することで、ファイルの読み込みなどのパフォーマンス向上を果たした。

37signals

 プロジェクト管理ツール「Basecamp」を運営する37signalsは、ベアメタルサーバを導入することで、年間320万ドルのコストを60万ドルまで81%削減した。投資費用は数カ月以内に回収した。

Discord

 ボイスチャットサービスを提供するDiscordは一部のアプリケーションはクラウドサービスに残しつつ、より重要なアプリケーションをオンプレミスのインフラに移行。このハイブリッドクラウドのアプローチを採用することで、コストを45%削減した。

Snapchat

 ショート動画共有サービスを提供するSnapchatは、アプリケーションをGoogle Cloudから独自のインフラに移行。パフォーマンスを向上させることと、長期的なコストを削減することが目的だ。

Pinterest

 画像やアイデアを共有、収集できるSNSを提供するPinterestは、必要なリソース量を見極めやすいアプリケーションをクラウドサービスからオンプレミスに移行するハイブリッド戦略を採用。コスト効率とスケーラビリティのバランスを取ることが目的だ。

LinkPoolはオンプレミスに完全回帰

 アプリケーションやデータの一部をオンプレミスに戻すハイブリッドクラウドではなく、オンプレミスインフラに完全移行した企業もある。暗号資産(仮想通貨)を発行し、ブロックチェーン技術で管理しているLinkPoolは、当初はAWSやGoogle Cloudを含むマルチクラウドを採用していた。しかし同社のアプリケーションがCPUとメモリを大量に消費する傾向があることから、コストが想定以上に上昇し、戦略を見直さなければならなくなった。

 LinkPoolのCEOを務めるジョニー・ハックステーブル氏は、「ベンダーのコスト最適化チームに相談したが、コスト削減の余地は限られていた」と語る。同社は最終的に、Pulsantのコロケーションサービスに完全移行することに決めた。その結果として以下の成果が得られたという。

  • コストを90〜95%削減
  • アプリケーションのパフォーマンスを大幅改善
  • 災害復旧(DR)の強化

 ハックステーブル氏は、ブロックチェーン管理に必要な分散システムとコロケーションの相性が良いと指摘する。「各データセンターにサーバを展開し自社管理することで、ネットワークやプロジェクトに応じて独自の分散環境を構築できるようになった」という。

「脱クラウドが正解」になる条件

 以上の例は、脱クラウドのメリットを示唆するものだが、それと同時に考慮すべきことがある。全ての企業にとって脱クラウドが正解というわけではない、ということだ。

 ゴンジン氏は結論として、脱クラウドは万能の解決策ではないとしつつも、以下の条件がそろえば「検討に値する選択肢だ」と述べる。

  • 需要の予測が可能なアプリケーションがある
  • インフラに投資する財政面の余力がある
  • 必要な技術的専門知識を保有している

 次回は、脱クラウドに対する慎重派の意見と併せて動向をまとめる。

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