“昔のGPT”への回帰か？ OpenAIが「gpt-oss」を開放した本当の狙い：「GPT-2」はオープンウエートだった
“OpenAI”という社名が示すように、誰でも利用できる“開かれたAI”を掲げていた同社だが、「GPT-3」以降はソースコード非公開に転じた。改めてオープンウエートAIモデルを公開した狙いは何か。
2025年8月5日（現地時間）、OpenAIは大規模言語モデル（LLM）の「gpt-oss-120b」と「gpt-oss-20b」を公開した。オープンソースライセンス「Apache License 2.0」の下で公開されており、人工知能（AI）開発プラットフォーム「Hugging Face」から誰でも無料でダウンロードし、ローカルで実行可能だ。テスト用のWebサイト「Playground」を通じて、Webブラウザでデモ版を実行することや、クラウドAIサービス「Together AI」での利用も可能だ。OpenAIによると、Microsoftはgpt-oss-20bのGPU（グラフィックス処理装置）最適化バージョンをクライアントOS「Windows」に導入する予定だという。
gpt-oss-120bとgpt-oss-20bは「オープンウエート」（Open Weight）なモデルだ。オープンウエートとは、学習済みのAIモデルについて、“重み”（重要度）というパラメーターが公開されていることを意味する。
実はApache License 2.0は全てのソースコードの公開を義務付けているわけではない。gpt-oss-120bとgpt-oss-20bはオープンウエートであり、ユーザーがモデルをファインチューニング（微調整）したり、独自のプロジェクトに展開したりすることが可能だが、完全なソースコードやトレーニングデータにはアクセスできない。
オープンウエートなモデルを“公開せざるを得なかった”？
OpenAIの言語モデル「GPT-2」はオープンウエートだった。「GPT-3」より方針を転換し、重みが非公開になった。これは本来の理念からの逸脱だとして、AIコミュニティーは同社を激しく批判した。
近年、AI技術ベンダーがオープンウエートなAIモデルを次々と発表し、その人気が高まっている。中国のDeepSeekは2025年初頭にオープンウエートなLLM「DeepSeek-R1」を公開し、世界中で大きな話題を集めた。Google、IBM、Alibabaなどもオープンウエートのモデルを公開しており、非営利のAI研究機関であるAllen Institute for Artificial Intelligence（Ai2）に至っては、ソースコードとトレーニングデータを完全公開した、真にオープンソースなモデルをリリースしている。
「“オープンな”モデルが次々に登場し、OpenAIも動かざるを得なかった」と、米国Informa TechTarget傘下の調査部門Omdiaのアナリスト、リアン・ジア氏は指摘する。「いずれにせよ、オープンソースコミュニティーに貢献するのは良いことだ」と語る。
とはいえ、ジア氏によると、強化学習など、既知の技術を使用しているという点で、gpt-oss-120bとgpt-oss-20b自体には、市場の他のモデルと比較して突出した特徴はないという。
戦略的な狙い
調査会社The Futurum Groupのアナリストであるデビッド・ニコルソン氏は、gpt-oss-120bとgpt-oss-20bについて、モデルをファインチューニングしている企業をターゲットにしていると見る。「Apache License 2.0の制限事項は比較的寛容で、商用利用が許可されているところに今回のポイントがある」と同氏は語る。
「研究目的であればオープンウエートは助かるが、企業がモデルを活用して収益を生み出そうとする場合、それだけでは不十分だ。Apache Licenseとそれに含まれる配布条件は広く知られているので、企業は安心して導入できるだろう」（ニコルソン氏）
AI技術ベンダーによる熾烈（しれつ）な競争も背景にある。興味深いことに、gpt-oss-120bとgpt-oss-20bの公開に先立つ2025年7月30日（現地時間）、Meta PlatformsのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は書簡を公開し、その中で同社が開発中の“スーパーインテリジェンスなAIシステム”について、「安全上のリスクを徹底的に軽減するために、オープンソース化する情報については慎重に検討する必要がある」と語った。Meta Platformsの人気LLM「Llama」ファミリーもオープンウエートだが、この発言は方針の転換を意味するのではないかと受け止められている。
ニコルソン氏は、今回のリリースを、Meta Platformsの攻勢に対抗するOpenAIの戦略的な狙いがあると考える。「Meta Platformsのイベント『LlamaCon』が次回開催される2025年9月までに、OpenAIがMeta Platformsからどれだけ市場シェアを奪い返せるのかが見ものだ」と語る。
期待と課題
OpenAIが再びコミュニティーに貢献する姿勢を取り戻したとして、今回のモデルを好意的に受け止める意見もあるが、“まだ足りない”という声が依然として存在する。
調査会社Forrester Researchのアナリスト、ローワン・カラン氏は「データセンターなど大規模なインフラが必要なgpt-oss-120bと、エッジデバイスで実行できるgpt-oss-20bという2種類のモデルをリリースしたことは評価できる」と語る。
Ai2のAI部門シニアディレクターでワシントン大学（The University of Washington）の教授も務めるハンナネー・ハジシルジ氏は次のように語る。「オープンウエートなので、コミュニティーがより良いモデルを開発するのに貢献するだろう。しかしまだ完全なオープンソースではない。OpenAIはモデルのソースコード、トレーニングデータ、そしてどのような手法を試したのか、詳細を公開すべきだ」
翻訳・編集協力：雨輝ITラボ（リーフレイン）
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