生成AI普及の今、なぜ「エッジ」が注目なのか? 3つの活用パターンから考える:エッジ×クラウド時代の新たな選択肢【前編】
生成AIやIoTの普及を背景に、「エッジコンピューティング」の必要性が高まっています。改めてエッジコンピューティングが重要になる理由と、利用形態などの基本を解説します。
クラウドの台頭以降、企業のITインフラは「オンプレミス」か「クラウド」かの2択が主流でした。オンプレミスは自社のデータセンターやサーバルームなど自社でシステムを管理、運用する利用形態、クラウドはインターネット経由でサービスを利用する利用形態です。
近年は生成AIの現場導入、IoT(モノのインターネット)デバイスの増加、コンプライアンス(法令順守)要件の厳格化といった時代の変化に伴い、オンプレミスとクラウドだけでは対処し切れない課題が生じています。そうした中で急速にその重要性を増してきたのが、データが生成される現場の近くを意味する「エッジ」と、そこでコンピューティング処理を実施する「エッジコンピューティング」です。
「生成AIの普及」で重要性が高まるエッジコンピューティング
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拡大するエッジでのデータ処理
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目覚ましい進化を遂げている生成AIの活用は多くの企業が取り組む喫緊の課題ですが、特に画像認識や異常検知といったリアルタイム性が求められる推論処理では、データ全てを遠隔のクラウドに送って処理してから結果を得るまでのレイテンシがボトルネックとなり得ます。大量のデータをクラウドに転送するコストも無視できません。
エッジコンピューティングは、データ生成源の近くにAI処理能力を持つ小型な専用モデルを展開し、推論処理を現地で実行する「エッジAI」を実現します。これにより、大幅なレイテンシ削減とデータ転送コスト抑制が実現し、製造ラインでのリアルタイム不良品検出、小売店舗での顧客行動分析、医療現場での迅速な画像診断支援といった、現場でのAI活用を加速させます。2025年にはAI市場が大きく成長すると予測されており、リモートオフィスや店舗、支店といったエッジでのAIワークロード管理への投資が強化されるでしょう。
主要アーキテクチャとユースケース
エッジコンピューティングのアーキテクチャは、その配置場所やクラウドとの連携方法によって大きく以下の3つに分類できます。
クラウド連携型エッジ
エッジデバイスが直接クラウドサービスと連携し、データの収集や簡易処理を実施した後、クラウドにデータを送信して本格的な分析やデータ保管をする形態です。エッジ側では最低限の処理にとどめ、クラウドの豊富なリソースを活用します。
クラウド連携型エッジの主なユースケースは以下の通りです。
- クラウド連携が重要な業務
- IoTデバイスからのデータ収集・可視化
- 遠隔監視
- 簡単なデータフィルタリングや集約
- センサーデータやログデータのクラウドへのリアルタイム転送
自律分散型エッジ
HCI(ハイパーコンバージドインフラ)や専用エッジサーバなど、コンピュート、ストレージ、ネットワーク機能を統合したシステムをエッジに導入する形態です。エッジ環境で独立して動作し、比較的複雑な処理やデータ保管が可能です。
自律分散型エッジの主なユースケースは以下の通りです。
- 現場での独立性と高いパフォーマンス、可用性が求められる業務
- 工場での製造ライン制御や予知保全
- 病院での電子カルテや画像診断システム
- 小売店舗でのPOSシステムや在庫管理
- 支店オフィスの基幹システム
キャリアエッジ/MEC(Multi-access Edge Computing)
5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの基地局や通信事業者のエッジデータセンターにコンピューティングリソースを配置する形態です。ユーザーに極めて近い場所でアプリケーションが動作するため、超低遅延でのサービス提供が可能になります。
キャリアエッジ/MECの主なユースケースは以下の通りです。
- 超低遅延、高帯域が不可欠な業務
- 自動運転
- AR(拡張現実)/VR(仮想現実)アプリケーション
- 高精細な動画ストリーミング
- リアルタイムゲーム
- ロボット制御
次回はエッジコンピューティング向け製品の選択肢と、導入に向けたステップを解説します。
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