「性能では“SSDが勝ち”」でもなぜHDDが使われ続けるのか:SSDとHDDどちらを選択するか【前編】(1/2 ページ)
SSDは消費者市場だけでなく企業のITインフラでも広く活用されるようになったが、企業向けの市場では依然としてHDDへの依存も根強い。SSDとHDDそれぞれの構造や特徴、機能別の差異を整理する。
SSDは一般消費者向けの市場だけではなく、企業向けのストレージ市場においても広く普及してきた。将来的に企業のストレージ市場でもHDDを完全に置き換えるという見方もあるが、それはまだ現実味を帯びていないのが現状だ。データセンターやクラウド環境におけるSSDの活用は一部にとどまり、多くの場面で依然としてHDDに依存している。
SSDとHDDはそれぞれ異なる特性を生かしながら、現代のワークロード(業務処理負荷)を支える重要な役割を果たしている。ITインフラの選定や導入を担う意思決定者は、容量、性能、耐久性といった複数の観点から、それぞれのドライブの特性や違いを正しく理解し、最適な選択をすることが求められる。
SSDとHDDを比較――HDDが使われ続けるのはなぜ?
SSD(ソリッドステートドライブ)は、データを不揮発性(電源を切ってもデータが消えない)で保存するストレージデバイスの一種だ。内部に可動部品を持たず、読み書きの処理速度が比較的高速で、レイテンシ(遅延時間)が小さいという特徴がある。
現在の主流となっているSSDは、NAND型フラッシュメモリを搭載している。データの保存や読み書きを制御するためにコントローラーと呼ばれる制御用チップも内蔵している。
SSDは、1つのメモリセル(記憶素子)に格納できるビット数に応じて以下のように分類される。
- SLC(シングルレベルセル)
- 各メモリセルに1bitのデータを格納
- MLC(マルチレベルセル)
- 各メモリセルに2bitのデータを格納
- TLC(トリプルレベルセル)
- 各メモリセルに3bitのデータを格納
- QLC(クアッドレベルセル)
- 各メモリセルに4bitのデータを格納
格納するビット数が増えるほど、データの記録密度(同じ面積で保存できるデータ量)は高まる。ただし、記録密度の向上は、読み書き性能や耐久性の低下を招く恐れがある。SSDはデータをページ単位(一定のデータサイズの塊)で読み書きし、ブロック単位(複数のページのまとまり)で削除する仕組みであるため、頻繁な書き換えが発生する環境では性能と寿命の劣化に注意が必要だ。
こうした課題を軽減するために、SSDのコントローラーは、以下のような機能を実行する。
- ウェアレベリング
- フラッシュメモリ内の書き換え回数の偏りを平準化し、SSD全体の寿命を延ばす
- オーバープロビジョニング
- OSやホストに見せるSSDの容量を意図的に少なくすることで、空き領域を確保し、書き込みパフォーマンスや耐久性を向上させる
- ECC(誤り訂正符号:Error Correction Code)
- 読み書き時に発生するエラーを検出・修正し、データの整合性を保つ
近年では、多くのSSDベンダーが3D(3次元)型のNAND型フラッシュメモリを採用しており、セルを垂直方向に積層することで、密度を高めながらも性能と耐久性のバランスを維持している。
HDDとは
HDDも、SSDと同様に不揮発性のストレージデバイスの一種だ。ただし、SSDと異なり可動部品を含む構造となっている。HDDでは、磁性体でコーティングされた円盤(プラッタ)が高速回転し、その表面にデータが記録される。プラッタは保護ケース内に収められ、内蔵されたコントローラーによって、データの読み書きやアクセスが制御される。データの読み書きは、アクチュエーター(可動アーム)に取り付けられたヘッドが担当し、ランダムアクセス可能なブロック単位で実施される。
HDDには複数のフォームファクター(形状やサイズの規格)が存在し、プライマリーストレージ(OSやアプリケーションの保存用)とセカンダリーストレージ(バックアップやアーカイブ用途)の両方に使われている。
HDDはコンピュータ内部に内蔵される他、外付けストレージとして利用されることも多い。特に企業の利用環境では、性能や信頼性を高めるために、複数のHDDを組み合わせたストレージアレイの構成要素として使われるのが一般的だ。
SSDとHDDの機能比較
SSDとHDDを選定する際には、容量、性能、使いやすさ、耐久性、コストといった複数の観点から総合的に評価することが重要だ。
容量
現在、複数のSSDベンダーが60TB超の製品を提供している。100TB超の容量を持つSSDもある。データの記録密度が高いということは、同じ容量でも装置の占有スペースが小さく済むということであり、データセンターのスペースや電力などのリソース消費を削減できる。一方、HDDも容量増加の進化を続けており、30TB超の製品もあるが、容量増加のペースはSSDに見劣りする。
速度
SSDはHDDに比べて読み書きの速度が高速だ。1TB当たり単価は高くなる傾向にあるが、高パフォーマンスを重視する企業はコストを受け入れてでもSSDを採用する傾向がある。HDDは今も広く使われているが、高速アクセスを要するアプリケーションでは、HDDのアクセス速度やレイテンシがボトルネックとなるケースがある。
使いやすさ
SSDはその読み書き性能の高さにより、業務の生産性向上に貢献する。管理者にとっては、SSDはHDDよりも耐久性が高い傾向にあるため、保守作業の負荷軽減が期待できる。
SSDは動作音が静かで、発熱量も少ない。これにより、データセンターやオフィスの静音化、冷却コストの削減といった副次的な利点も得られる。ただし、ファームウェアの定期的なアップデートや状態監視といった基本的な運用管理は必要だ。
耐久性
SSDは可動部品を持たないため、物理的な衝撃に強い。一方、HDDは内部でプラッタを回転させる機構や、データを読み書きするアクチュエーターなどの機械部品を多く含み、摩耗や物理損傷のリスクがある。例えば、落下や振動でアクチュエーターがずれると、データの読み取りエラーや故障の原因になることがある。
HDDは発熱量が大きいため、それが寿命を縮める要因にもなり得る。ただし、経験豊富な技術者による温度管理や最適な運用設計によって、信頼性を高めることも可能だ。
一方、SSDに搭載されているNAND型フラッシュメモリは、書き込み回数に制限があり、書き換えとともにメモリセルの劣化が進む。これに対応するため、SSDのコントローラーは耐久性向上機能を備えている。
コスト
HDDは1TB当たりの単価がSSDよりも低くなる傾向にあるため、ストレージ容量を重視する用途では依然として優位だ。ただし、コスト比較においては初期投資だけでなく、長期的な運用コストも重要だ。SSDは高密度・高性能である上に、省スペース・省電力・メンテナンス負荷の低減といった利点があり、総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)の削減につながる可能性がある。
次回はSSDとHDDを含めて、ストレージを選定する際にどのような点に着目すればよいのかを解説する。
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