名古屋市が校務支援システムのインフラにAWSを採用 教職員の働き方はどう変わったのか:“校務DX”を進める名古屋市
名古屋市教育委員会は、小中学校などで使用する公務システムを、オンプレミスインフラからAWSで構築したクラウドインフラに移行した。クラウド移行の狙いと、“止まらないシステム”を構築するための工夫とは。
愛知県名古屋市教育委員会は、市内の小中学校や高校、特別支援学校などの教育機関が使用する校務支援システムのインフラに「Amazon Web Services」(AWS)を採用した。クラウド移行後のシステムは2025年8月1日に稼働を開始している。
校務支援システムは、児童や生徒の出欠管理や指導計画の作成、成績処理など幅広い校務に利用されている。名古屋市の校務支援システムは従来、オンプレミスインフラで稼働する校務支援システムに、各学校の閉域網から接続する構成だった。校務支援システムは他のシステムとネットワーク分離がされており、インターネットからはシステムに接続できない。オンプレミスインフラと閉域網で管理することでデータの漏えいは防げていたが、外部システムとの連携やデータ活用がしづらい点が課題となっていた。
教職員の利便性や業務効率の面でも制約があった。従来は職員室の固定された席と端末でしか校務支援システムが利用できなかったため、校務用の端末と児童や生徒への指導に利用する指導用端末が分かれていた。そのため教室や出張先での校務ができない点や、学習用端末のデータを校務に利用したい場合は端末間でデータの移行作業が必要になる点に、不満の声が上がっていた。
複数の製品を組み合わせ、職員室に捉われない働き方を実現
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「校務支援システムのクラウド移行によって、教育データ利活用の推進や大規模災害時・コロナ化などのレジリエンス向上、教職員のロケーションフリーな働き方の実現を通して、名古屋市の子どもたちにより良い教育環境を提供することが最終的な目的だ」と、名古屋市教育委員会事務局で教育DXを担当する天野 望氏は話す。
天野氏は校務支援システムのインフラとしてAWSを採用した理由に、名古屋市が既にガバメントクラウド(デジタル庁が提供する政府や自治体向けのクラウドインフラ)としてAWSを利用していた点を挙げる。子ども支援などの福祉部門のシステムや市職員の人事給与システムがAWSで稼働しているため、将来的には多様なデータの利活用や業務の効率化が期待できるという。
クラウド移行後の校務支援システムはAWSで稼働し、ゼロトラスト型のセキュリティ対策を組み込んだネットワークで各学校のユーザーと接続する(図1)。ゼロトラスト型のネットワークの構築にはCisco Systems「Cisco Secure Access」を利用することで、SASE(セキュアアクセスサービスエッジ)を実現した。校務系システムのSSO(シングルサインオン)にはチエルのID管理システム「ExtraConsole」を使うなど、インフラの構築には複数ベンダーの製品を採用している。
校務支援システムのクラウド移行とネットワーク構成の更改で、教職員は教室や出張先での校務やテレワークが可能になった。校務用の端末と学習用端末を一台化できたため、複数のPC間のデータ移行が不要になり、USBメモリを利用することによる情報漏えいのリスクも軽減できた。「教員からは『職員室内で端末を持ち運んで校務や打ち合わせができるようになったことから、教職員間のコミュニケーションが活発になった』という声もある」(天野氏)
校務支援システムのインフラには主にAWSの東京リージョンのサービスを利用しているため、2025年10月20日に起こったAWSの米国東部(バージニア北部)リージョンを中心とした大規模障害の影響は受けなかったという。名古屋市教育委員会のクラウド移行を担当したNTTデータ東海の櫻井潤児氏は、「大規模障害や災害のリスクを抑えるために、システムをAZ(アベイラビリティゾーン)間でミラーリングするマルチAZ構成を採用している。校務に利用するさまざまなデータやAWSで実行しているソースコードなどのデータは、大阪リージョンでバックアップを取るクロスリージョンバックアップ構成にすることで、システム停止のリスクを低減している」と説明する。
名古屋市は教育DXをどう進めるのか
名古屋市教育委員会は現在、児童・生徒の出席データや生徒指導情報などの校務データや、学習用システムから取得した教材の使用状況などのデータを一元的に可視化できるダッシュボードを開発中だ。天野氏は今後のクラウド活用の展望について「取得したデータの匿名性や子どものプライバシーを確保しつつ、さまざまなデータを活用して、一人一人の子どもに合わせた支援を実現するための施策につなげていきたい」と話す。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
