単純作業で若手を育てる時代は終わった Gartnerが警告する2026年の人材危機:人事リーダーが今から備えるべき「4つのトレンド」
2026年に向けて、人材管理を取り巻く前提が変わりつつある。AIの普及でエントリーレベル職務が減り、社内での配置転換や低生産性人材への対応も避けて通れなくなってきた。Gartnerは、企業が今から備えるべき4つのトレンドとその対処法を示している。
Gartnerは2025年10月29日(米国時間)、2026年の人材管理を左右する4つのトレンドを示した。業務へのAI(人工知能)の統合が進む一方で、景気の先行きが見通しにくい中、企業は人材戦略の見直しを迫られているという。人事リーダーは、こうした環境変化を踏まえて、どのように人材戦略を組み立て直すべきなのか。
AIが単純労働すると、中堅人材への依存度が高まる?
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Gartnerが挙げた人事管理に関するトレンドは以下の4つ。
- エントリーレベルの職務の減少によって、人事部門への要求が高まる。
- 人事部門は、採用にかける労力の3分の1を社内に振り向けるようになる。
- 「望ましくない雇用」の維持が生産性の主要な阻害要因となる。
- 業績管理は、人間の関与が減る部分と増える部分がある。
Gartnerのトニー・グアダニ氏(HRプラクティス担当リサーチディレクター)は「企業は、不透明な市場環境、AIによる業務改革、急速に変化するスキル需要といった課題に直面している。こうした中で確実に効果を発揮する人材戦略を立て、企業成長を促進するように人事リーダーは迫られている」と指摘している。
同社は4つのトレンドについてその対策とともに解説している。
1.単純作業減少に伴うキャリアの浅い従業員への対応
Gartnerが2025年第2四半期に企業に勤める22〜27歳の従業員(919人)を対象に実施した調査では、Z世代(1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代)が雇用の安定性よりも、流動性を重視する(一つの会社に長くとどまらない)傾向があることが分かった。一方、これまで若手に割り振っていたような定型的な仕事はAIが担うようになってきている。つまり、「単純作業をこなしながら若手を育てる」という従来の仕組みが、AIに置き換えられつつあると言える。そのため、エントリーレベルの採用が減少し、企業では中堅人材への依存度が高まっているという。
「企業でキャリアの浅い従業員の必要数が減ると、中堅職への道筋が狭まる。そのため企業では今後、少数精鋭でもしっかりと回るような、効率の良い「若手人材のパイプライン」を構築する必要がある。人事部門は、キャリアの浅い従業員の採用、研修、維持の方法を変えなければならないという多大なプレッシャーを受けることになる」(グアダニ氏)
Gartnerは、人事リーダーがエントリーレベルの人材を維持するための方策として、以下の2つを挙げている。
- 専門性の迅速な向上に向けて初期キャリア開発プログラムを再設計する
- トップ人材向け定着戦略を構築し、離職の主な理由である報酬とキャリア開発の問題に直接対処する
2.社内人材の適材適所にさらに注力
企業はスキルギャップ解消と従業員エンゲージメントを重視し、社内異動に取り組んできた。だが、社内異動率は依然として横ばいとなっている。
「新しい仕事が創出される中、2030年までに従業員の5人に1人を再配置する必要が出てくるが、企業はその準備ができていない。採用チームを活用し、重要なスキルや能力を持つ従業員を適切な職務に配置するために、より積極的に動かなければならない」(グアダニ氏)
そのため、人事リーダーは、従業員のスキルデータを常に最新に保ち、変化し続ける組織の中での適所を判断できるようにする必要がある。
3.業績の低い従業員の生産性を改善
グアダニ氏は、「従業員の約4分の1は、平均より少なくとも20%生産性が低い。ほとんどの企業は、低い業績や生産性に驚くほど寛容だ」と指摘する。
Gartnerは「人事リーダーは2026年に向けて業績改善計画を見直す必要がある」と強調する。多くの企業は、業績の低い従業員の生産性を高めることが十分にできていないからだ。低い生産性の従業員に対して、所定の期限までに達成すべき明確な目標を示し、そのための具体的な行動と期限を細かく定めた仕組みを構築することに注力すべきだとしている。
4.業績管理にAIを取り入れる
管理職の多くは既に、業績管理へのAI活用を試みているものの、その目的に特化した正式なトレーニングを受けていないと報告している。Gartnerは人事リーダーに対し、組織として承認したAIツールを管理職に提供するとともに、バイアスを抑える方法や、業績管理におけるAIの適切な使い方と避けるべき使い方についての研修を実施するよう助言している。
「業績管理のプロセスの未来は自動化にあるが、業績管理そのものの未来が自動化されるわけでは決してない」(グアダニ氏)
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